第10.5話 神社と初恋<裏>

「優斗、居ないの?」


 梅雨が初まり、髪の手入れが大変になってきた頃、いつものように優斗の家を訪れるとインドア派の家主は居なかった。


「どこ行ったんだろ」


 ふらふらと引き寄せられた優斗の枕に顔を埋めながら優斗の行き先を考えていると、優斗が以前言っていたことを思い出した。


「そういえば今度雨の日の神社行きたいって言ってたっけ」


 優斗は神社に偶に神社に訪れている。けれど、宗教は興味ないはずなのにどうして神社に行ってるんだろ。

 それに今度行くときは私も誘ってって言ったのにな。

 名残惜しさを感じながらも顔を上げて、優斗の向かったであろう神社に向かう。


 神社への階段を上り、鳥居を通ると見慣れた男が目に入る。

 そちらに行きたい気持ちを抑えながら、作法に則って参拝した後に優斗の傍に行く。


「やっぱりここにいた。今度は一緒に行こうって言ったのに」

「悪い。急に思い立ったて来たから伝えるのを忘れてた」

「もう、ちゃんと言ってよね。けど、これが見たかったんだね。これなら来たくなる気持ちもわかるかも」


 一人で見たら寂しく感じそうな静かな純和風の景色も優斗と共に見るとその中に暖かさを感じた。




◆◆◆




 家に帰ると優斗は私が帰り道に罰としてお願いしたシチューを作り始めた。

 その光景を見ながら私は疑問に思っていたことを優斗に聞いた。


「優斗はなんで神社に行くようになったの?あの神社に行く前から偶に行ってたよね」

「それは勿論、雰囲気が好きなのもあるんだけど、思い出の場所だからかな」

「思い出?神社でなんかあったっけ?」

 

 優斗と神社に行ったことは年始を覗いたら一度しかないけど、青の時は優斗は私の事気づいてくれなかったしな。

ということは私がいなかった時期の思い出かぁ。しょうがないけどなんか悔しい。


「いや、美空が居なかったから六年生の夏休みの時かな。実家の近くにある神社で俺は初恋をしたんだ」

「………」


 …初恋。私は優斗が初恋だったのに優斗は違うのかな。


「偶然会った子で名前も知らないんだけど、あの時初めて異性に対する感情を感じたんだ」

「どんな子だったの?」


 複雑な感情が混ぜこぜになっている自分自身をごまかすように髪をいじりながら私は優斗に問いかけた。

 すると優斗は記憶を思い返しているのか、頭を触っていた。


「う~ん。だいぶ前だから朧気だけど、長い髪でワンピースを着てて、身長は140㎝ぐらいだったかな。あっ後、手作りのネックレスをしてた気がする」


 ………それって。

 私は小学校六年生の時、どうしても優斗に会いたくて夏休み、優斗の家に訪れた。 けれど、優斗は出かけていて会えないと思って落ち込みながら駆け込んだ神社に優斗がいたんだ。

 最後に会った時から私も髪や服が女の子っぽくなっていたから、当時の優斗には私だってわかってもらえなかった。

 けど、もしかしたらという嬉しさと恥ずかしさに襲われながら優斗に問う。


「……その子のどこが良かったの?」

「いやぁ、今となっては恥ずかしいけど、一目ぼれだったと思う」

「そ、そう。ちょっと待ってて」

 

 嬉しい、うれしい。両手を突き上げて喜びたいぐらい嬉しい。

 私が優斗の初恋だという事も見た目が優斗の好みだと本人の口から言ってくれた。

 当時、気づかれなくて良かった。寂しかったけどこんなご褒美があるなんて。


 急いで家に帰り、手作りの小物入れを開けて当時付けていたネックレスを身に着ける。

 優斗の反応を楽しみにしながら優斗のところに戻ると優斗は呆然として私のネックレスを見つめている。


「どう?初恋の人に会えて嬉しい?」


 優斗は呆然とした表情から自分のさっきの発言がどう意味するかが分かったのか、だんだん顔が赤くなっていった。


「あの時、優斗に気づいてもらえなくて本当にショックだったけど、そんなに大切な思い出にしてくれてたならよかったわ」


 中学で再会したころの優斗は今と違って他人の見た目に気を使っていなかったのと成長期もあって私だとわからなかったのだろう。それに私が気づかれなかった理由だと思って髪を切っちゃったし。

 写真で見ても幼いころの私の面影はあるけど顔立ちは変わってたしね。


「悪かった」

「いいよ。優斗は私が大好きだということもわかったし」

「んなっ」

「だってそうでしょう。誰かもわからないのに私に恋しちゃったんだもんね」


 優斗の反応かわいい。

 普段はカッコいいのにズルいよね。そういうギャップは私以外に見せないでね。

 なんて重い事を考えていたら優斗が苦し紛れに一言。


「じゃあ、美空の初恋はどうなんだよ」


以前、優斗にされたように優斗の後ろから腕を回して囁いた。


「それはね…私の初恋はいつも隣にいてくれた優しい男の子だよ。だから、これからもずっと隣にいてね」




 シチューが出来上がって食べるころには恥ずかしくて優斗の顔が見られなかった。

 完全に言い過ぎた。なんで、オブラートに包まなかったの私。


 シチューを食べ終わって片付けをした後、まだ赤い顔を優斗から隠すように家に帰った。

 そして、今日の出来事を思い返した後に眠りについた。




「髪、また伸ばしてみようかな」


 

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