第6話 幼馴染との過ごし方(GW編)

 世間はゴールデンウイーク真っ只中、俺と美空は新潟港から出る佐渡汽船を待っていた。


「私、こういう船着き場?みたいなとこ来るの初めてだ。いろんな施設があるんだね」


 興味深そうに美空が周りを見渡している。

 新潟港ターミナルには待合室以外にも佐渡の名物を取り扱っている食事処もあるので以外に思っているのだろうか。


「駅と一緒で簡単に待ち時間をつぶしやすいような施設があるんだろうな」

「まだ船にも乗ってないのに凄いワクワクする」


 そう柔らかい笑顔を見せる美空に見とれていると俺たちの乗るカーフェリーの乗船案内が始まった。

 改札を抜けて乗船した後は二時間半の船旅を楽しんだ。船から見える景色は普段陸の上から見ている景色とは大きく違い、大した時間や距離も離れていないのに一種の別世界のように感じた。




◆◆◆




 佐渡の両津港に到着した後は予約したレンタカーを受け取り、竜王洞のある琴浦に向かう。ここ両津港から本日の宿のある小木港周辺まで車で大体60分かかる。到着するまでは美空とのドライブデートだ。

 

「ねぇ、いつ免許取ったの?」

「大学に合格してからすぐ。事前に受かること前提で合宿の予約してたからさ。それに…」

「それに?」

「美空といろんなことを一緒にするには車が運転できた方が良いかなって」


 美空は運転の邪魔にならないように気をつかっているのか俺の太ももを軽くたたいて不満げに頬を膨らませた。


「車に乗っているということがデメリットになるなんて想定外よ」

「何か俺の運転に問題があるのか?」

「そうじゃない。優斗はそういうとこがズルいと思う」


 何をズルいのかはわからないが、運転には問題が無いようで良かったと思いながら見慣れない道を進んでいく。

 自分たちの昔話に花を咲かせていると小木港についていた。


 旅館に車を停めてチェックインを済ませて部屋に入るとそこには純和風の部屋が広がっていた。邪魔にならないところに荷物を置いて今夜の準備をした。

 その後、風呂に入って佐渡の特産品をふんだんに使った晩御飯を食べた。晩御飯は和食でこの時期が旬らしい海藻を使った料理が多く振舞われた。


「この煮物美味しい~。特にこのしいたけが凄い。凄い肉厚で香りが凄いする。」

「あぁ、それにこのモズクも普段食べてる奴と全然違う」


 食べ終わってしばらく経ちお腹も落ち着いてきた頃に、デザートの沢根だんごを食べながら美空と明日の予定について話していた。


「明日は竜王洞に行った後に、国の重要伝統的建造物群になっている宿根木に行く。そこから19:30発のカーフェリーに間に合うように両津港に戻るってことで良いんだよね」

「そうだよ。明日は今日よりも過密スケジュールだからもう寝ようぜ」

「は~い。私が傍にいるから緊張して眠れなかったなんて明日の朝言わないでよ」

「言うわけないだろ。むしろ安心してぐっすり眠れるわ。お休み」


 慣れない運転をしたせいなのか眠気が襲い掛かってきて美空のお休みを聞く前にそのまま寝落ちしてしまった。


「(優斗のバカ……)」





 翌日の朝、お互いを抱きしめるように寝ていたのは俺のせいではないと主張しよう。




◆◆◆




 翌朝、半ば夢に意識が取り残されながら重い瞼を開けると、普段の顔よりだいぶあどけない表情の美空が眠っていた。

 普段、美空は俺よりも早く起きるので美空の寝顔は久しぶりに見たけど、相変わらず寝てたら天使みたいなんだけどな。

 美空の頬を指の背で優しくなでていると、その感覚で意識が夢の中から浮かんできたのか、美空がこちらに身を寄せるようにして身じろぎする。

 そのまま美空が瞼を開けると寝起き特有の揺れる瞳が覗き見える。

 

「おはよう、美空」

「…おはよう優斗」




◆◆◆




 朝食を食べ、出かける際に旅館の人から昼食にとおにぎりを頂いた。

 車に乗り込み竜王洞のある琴浦に向かった。


 車を停めて、ダイビングセンターの横にある大きな洞窟に入っていく。


「ひんやりするね」


 洞窟内は美空の言うように5月の初頭にしては空気が冷たかった。最近は暖かい気候だったから余計にそう感じるのかも知れない。

 

「寒いなら、俺の上着を羽織るか?」

「ううん。それだと優斗が寒くなっちゃうでしょ。だから、こうした方が良いもん」


 美空はそう言いながら、俺の腕に抱き着いてこちらに笑顔を見せた。

 もういい加減に慣れたはずなのに俺の心臓はここぞとばかりに荒ぶっている。美空を相手にして落ち着ける時は来るのだろうかということを何度も考えたが、今しばらく俺には難しいらしい。


 二人で体を前に進めていると洞窟に海水面が見え始めてきた。洞窟内部だが、日光の角度が良いのか深いオーシャンブルーに輝いている。


「これは綺麗だな」

「うん」


 ネットで情報を調べる際に写真は見ていたのだが、写真で見た景色とは比べ物にならない幻想的な空間があった。

 二人で身を寄せ合いながら、暫く揺らめくオーシャンブルーのワルツに見とれていた。




◆◆◆




 竜王洞を堪能した俺と美空はその後、17世紀頃から残る伝統的な宿根木の街並みを観光して、佐渡を後にした。

 家に着いた後、明後日に映画を行くことを美空と約束して寝床に入った。



 翌朝、寝ぼけながら美空を探したことは美空には内緒である。







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