第3話 匂わせ写真

「ねぇ、写真撮って」

 

 休日のお昼、いつものごとく家に押しかけてきた美空は短パンからはみ出す白い陶磁器のような足を延ばして話しかけてきた。


「自分で撮れよ。なれてんだろ」

「自撮りじゃ取れないアングルで撮るのが良いんです。今流行りの匂わせ写真ってやつ」

「そうゆうのって女同士でやるもんだろ。わざわざ俺ん家来て、頼むもんじゃねぇ」

「女同士の写真ばかりの中に、彼氏とかに取ってもらってるのがあるってのが面白いのにわかんないの?」

「俺がそういう世間の流行りとか人間関係にあまり興味がないことを知っていて、そのニヤついた顔してくんな」

「いいから撮って。お・ね・が・い♡」

「うぜぇ。とっとと撮るぞ」

 

 美空の差し出していたスマホを受け取り、カメラを構える。

 そうしたら、案の定美空が色々指定してきて、美空が満足するまでの撮影会は10分近く続いた。


「よくできました。ご褒美のハグはいりますか」

「いらねぇ。実際されたら困るくせにそういうこと言うなよ」

「そんなこと言った記憶がないです。日頃からそんなこと言う奴なんて痴女じゃない。痴女」

「おまえ、鏡見てこい。そこには痴女が写っているはずだ」


 すると美空は手鏡を取り出し、自分の顔を見て、それからこちらを見て笑った。


「ごめんなさい。私の顔が可愛すぎて興奮しちゃうから痴女って言っちゃったんだね。もう優斗は立派な狼さんだもんね。」


………なんて奴だこいつ。否定したいが否定したら男として負けた気がする……。


「あと、幼馴染だからって呼ばわりは酷いとよね。反省してもらうためには……そうね、いまから撮ってもらった写真をイソスタに挙げるんだけど、そこに優斗に撮ってもらいましたって書くね」

「美空、待ってくれ俺が悪かったからそれだけはやめてくれ」


 ヤバい。美空のイソスタは見た目が良いことも相まって、まだ美空が入学してから一か月も経っていないのに関わらず、大学の奴が結構見てるらしいのに、そんなことか書かれた日には俺の平凡なキャンパスライフが終わってしまう。


「しょうがないな。そんなにお願いするならやめてあげましょう。けど、タダでというのは嫌なので、書き込まない代わりにハグして。それで許してあげる」

「はぁ!?なんでハグなんだよ」

「あれ?できないの。私とは何度も共に夜を過ごした仲だというのに」

「言い方に悪意がありすぎるだろ。………わかった。やればいいだろ。やれば」

「ついでに、ハグする時に一言もお願いね。心がときめくやつで」


 ときめく一言ってなんだよ。

 あぁぁ、もう知らねぇ。恥ずかしいのは変わらないからストレートに言ってやるよ。

 美空の後ろに回って割れ物を扱うように肩を抱きしめる。

 そして美空の耳元で囁いた。


「(愛してる)」


 目を潤ませ顔を赤くした美空がこちらに振り返って俺に囁き返した。


「(知ってる。離さないでね)」



そこから夕飯を作り始めるまでの記憶はない。









 

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