第二章 ライトノベル作家編
第二十九話 雨宮苺
『ご連絡遅くなり申し訳ありません。続きの件ですが既に原稿に書き溜めがあります。一度そちらに足を出向きお会いしたいのですが』
はあ~。緊張するな。
あれから俺は燐と改めて連絡先を交換した。
そして後回しにしていた海光社に連絡を取った。
「改めて見ると拙い文章だな。こんな文章でよく最終選考に残ったものだ」
俺はそわそわしながら連絡を待つ。
あ、そう言えば白雪に酷い事言ったな。
謝らないと。
俺は白雪に電話を掛けた。
『もしもし』
『い、出雲君。ど、どうしたの!? こんな夜中に』
『今日の事謝りたくて。俺酷い事言ったよな』
『ううん。気にしてないよ私。それより出雲君と黒羽さんの関係……』
『解決したよ。全て今から話すから』
俺は事の顛末を全て白雪に話した。
燐からも許可が出ていた為、中学時代の事は話した。
そして同時に白雪に言った言葉も思い出していた。
『そっか。そんな過去があったのね。でも解決したようで良かったわ』
『燐と仲良くしてくれないか?』
『勿論仲良くするわ。でも何で黒羽さんの事だけ名前呼びなの?』
白雪の声が高圧的になった。
ううっ、これは相当怒ってるな。
『特に理由はない。ただ燐が名前で呼んで欲しいって言うから』
『じゃあ私も初音って呼んで。いいわね出雲君』
『は!? 何でそうなる』
『何で黒羽さんは良くて私は駄目なの? はっ、まさか出雲君、黒羽さんと浮気!?』
『浮気って何だよ。お前と付き合ってすらねえよ』
『で、デートしたわ』
『そんな事言ったら燐とも二人で出掛けてたぞ』
『やっぱり浮気ね』
『いやお前より先に出会ってるから』
相変わらず白雪は白雪だな。
『兎に角私の事は名前で呼ぶこと。いいわね』
『よ、呼ばないと駄目か?』
『駄目』
『分かった初音。これでいいか』
『…………』
あれ? もしもーし。
何か電話の向こうから声が急に聞こえなくなったんですが。
暫くして初音が声を出す。
『お、お嫁さんになるのは私だからね』
その一言を言って通話を切る初音。
何なんだ一体。
それと同時にスマホにメールが届いた。
『雨宮苺でーす。じゃあ明日夕方五時に海光社で待ってまーす。受付で雨宮とお話がと言えばオッケーなので宜しくです。じゃあ待ってますね』
何か前と口調違くない? まあメールなんだが。
明日の夕方五時か。学校帰ってからでも間に合うな。
海光社近いし。
◇
「悪いな燐。付き合って貰って」
「私はいいよ。けど初音ちゃん残念だったね。仕事で一緒に行けなくて」
「いや寧ろ来ないで貰えて良かったというかなんというか」
「出雲君、初音ちゃんの事嫌いなの?」
「嫌いじゃない。だけど一ファンとして好きであって、正直面倒くさい」
「初音ちゃんいい子なのに。出雲君とお似合いだと思うよ」
俺はその言葉を聞いて少しだけ動揺した。
何故かは自分でも分からなかった。
でもこれだけは聞いておきたい。
「な、なあ燐?」
「なに出雲君?」
「今でも俺の事好きか?」
「好きだよ」
恥ずかしげもなくそう言い放った燐。
俺は心臓の高鳴りと同時に俯く。
「なら何で初音の事応援してるんだ?」
「うーん。私よりお似合いだと思うからかな。それに一度出雲君には振られたからね。まあ諦めたわけじゃないけど」
「何か心が痛む」
「じゃあ私が今告白したら受け入れてくれる?」
「正直無理だ。責任を負うのが怖い」
「だよね。分かってる。だから今は告白しない」
今はか。いつかまた俺に燐は告白するんだろうか。
でも何で俺はこんな高嶺の花の美少女達に好かれてるんだろうか?
何の取柄もないのに。
ま、まあゲームは上手いが。
後チャンネル登録者百万人ぐらいか。
もっと勉強とか運動とかがずば抜けてれば良かったな。
「ていうか初音と随分仲良くなったんだな」
「まあね。昨日出雲君から連絡先教えて貰った後、電話して意気投合したんだ。何か初音ちゃんは私を恋のライバルとか思ってる節はあるけど」
そう言って困ったような顔をする燐。
ああ白雪はそういう奴だよな。
ていうか実際恋のライバルなんだろうな。
第三者目線で見たら面白いと思うが、当事者としては頭を抱える事案だ。
俺が自信ないのって絶対父さんのせいだ。
子供の頃から母さんを比較対象とするよう仕向けてきた。
あの完璧な人外の母さんを。
そして俺は無理だと自信を無くした。
(はあ~。父さん酷い)
俺はそう思いながら燐と海光社へと向かった。
「あのー雨宮苺さんと五時に約束している猫屋敷ですが」
「承っております。少々お待ちください」
美人の受付のお姉さんが取り次いでくれている。
そして「四階にいらしますのでエレベーターでお上がりください」と受付のお姉さんに言われた。
「待ってたよー君が猫屋敷出雲君だね」
「は、はい。今日は宜しくお願いします」
「あれ燐ちゃんじゃん。何でいるの?」
「ああ彼女は自分の友達で」
「そうなの!? 燐ちゃんと友達なんだー。じゃあ特別に一緒にお話しに参加させてあげる」
そう言って俺と燐を打ち合わせ室に案内する。
「早速だけど出雲君のあの書いた小説特別賞受賞が決定したから」
「本当ですか!?」
「うん。だから続きを考えて欲しいんだよね。原稿持ってきた?」
「は、はい」
俺は鞄からプリントアウトした原稿を担当編集の雨宮苺に渡す。
暫く読み込んでいる雨宮苺。
「いいね。もう少し改良が必要だけどこれなら出版できるかな」
「出雲君良かったねおめでとう」
燐が真横の席で満面の笑みで祝福してくれる。
俺は凄い嬉しかった。
「燐ちゃんは原稿書いてくださいねー。それとうちを優先するように」
「独占契約は結んでいませんよ」
「燐ちゃんが取られるのいやー。初版でミリオン行く燐ちゃんを取られるのいやー」
「好きなもの書かせてくれるなら考えますよ。ステラ社はすぐに出版枠確保してくれてしかも好きな物書かせてくれるって条件くれましたよ」
「おのれステラ社め。兎に角燐ちゃん、いや燐様、うちを贔屓してください」
「考えておきます」
凄いな。編集側が様付でしかも頭を下げるなんて。
普通逆の立場なのに。
「じゃあ出雲君の話に戻るけど、出雲君VRもの以外に書ける?」
「ファンタジーなら少々」
「ラブコメとか行ける?」
「ら、ラブコメですか!?」
「そう。今さラブコメブームなんだよね。それでラブコメ書いてくれる有望な先生探してるの。どうかな取り敢えず一作書いて持ってきてくれる?」
「わ、分かりました」
「じゃあ今回受賞する作品は出版確実として、ラブコメも頑張ろうか」
「は、はい」
「君の担当編集は私だから宜しくねー」
「は、はい。宜しくお願いします」
「うんうんいい子だね。お姉さん好みだなー出雲君」
そう言って近づいてくる雨宮苺。
正直かなりの美人だ。
茶髪のツインテールにスーツ姿。顔立ちも整っていて理想の大人の女性って感じである。
可愛い名前に全く名前負けしていない。
「苺さん。犯罪になりますよ」
「冗談よ燐ちゃん。そんなに怒らないでよね。もしかして好きなの出雲君の事」
「はい好きですよ」
「うわあさらっと爆弾発言。そう言う事他の人に発言したら駄目だよ。君超有名人なんだから」
「有名人が恋したらいけないんですか?」
「燐ちゃんはメディアにも沢山出てるからさー。正直男女問わず大人気なんだよねー。作家にとってファンの数は大事だから。ファン離れを起こすようなことやめてね」
「アイドルではないんですが」
「君、もうアイドルみたいなものだから」
燐と雨宮苺の会話を横で聞いてる俺。
やっぱり燐って相当人気なんだなーと思った。
そして同時にそんな人気な燐に告白されて今も好意を持たれてるって凄い事なんだろうな。しかも人気声優アイドル初音にも好かれてるし。
俺って世間から一番叩かれる立ち位置じゃね?
◇
「という事がありました」
「何で出雲ちゃん教えてくれなかったの!」
「だって心配を掛けたくなくて。でも今は言うべきだったと後悔しています」
「まあ今が幸せなら宜しいです。それとおめでとうです」
「ありがとう。でも言いふらすなよ。恥ずかしいから」
「うんうん。私口は堅いからね」
「本当かよ?」
「本当だもん」
俺は海光社から帰って家でロリ母こと猫屋敷瑠璃に中学時代の過去を伝えた。
怒られる覚悟だったが意外と怒らなかった。
「いじめた連中は許せません。でも復讐はしなくていいです」
「しねえよ。もう会いたくもねえし」
「これからは自分の人生に自信を持って歩いて行きなさい。私は出雲ちゃんを全力でサポートしますから」
「ありがとう」
「あと燐ちゃんの連絡先教えて?」
「何で!?」
「久しぶりに話したいから」
「何を話すんだよ?」
「内緒です」
「まあいいけど。迷惑はかけるなよ」
「分かっています」
こうして俺はこの日デビューが決まった。
さあ今日は動画撮るぞ。
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