第二十八話 勇気ある行動

 黒羽燐side


 今日は筆箱がなくなった。

 ジャージが無くなってから数週間が経過した。

 かなり色々な物が無くなった。

 これは間違いなくいじめだ。

 何でいじめられたんだろう。


 「お、おはよう」

 「い、出雲君おはよう。風邪大丈夫?」

 「あ、ああもう治ったから」

 「そっか良かった」


 出雲君は気まずそうにしている。

 だけど出雲君はいじめるような人じゃない。だからきっとこの気まずさは告白の件での事だ。出雲君に心配かけないようにいじめられてることは黙っておこう。気づかれないようにしないと。


 「ねえ知ってる。燐ちゃんってさ援交してるらしいよ」

 「うそーあの燐ちゃんが」

 「そうそう。だから告白断ってるんだよ。だって普通江島君に告白されたら付き合うでしょ」

 「ま、まあそうだよね。江島君格好いいし」

 「でしょでしょ。燐ちゃん性格悪いよねー」


 七瀬愛花を主体として多くのクラスメイトが私の事を悪く言っている。

 私は援助交際なんかしていない。

 する筈ない。

 否定しよう。


 「七瀬さん。私援助交際してないよ」

 「聞いてたんだ。でも私作家の知り合いがいるんだけど燐ちゃんそう言う事する人だって言ってたよ」

 「その人誰?」

 「さあ教えなーい」


 クスクスと笑うクラスメイト達。

 まるで軽蔑するかのような目だ。

 そして男子までもがこう言う。


 「マジかよ。こんな奴に告白したのが間違いだったぜ。ちょっと可愛くて有名人だからって調子に乗りすぎなんだよな。俺の告白断りやがって。ていうかあれだな。猫屋敷の奴可哀そうだな。振るときの言い訳に使われてwww」

 「だよな。猫屋敷に同情するわー」


 男子生徒たちもが私の悪口を言う。

 そうか告白断ったからか。

 それで私いじめられてるんだ。最低な行為だけどこれが人間社会の縮図なのかな。

 ていうか今の会話出雲君にも聞かれたよね。ああやだな。


 「おい七瀬。お前でたらめ言うなよ、江島が好きだったからって逆恨みか」


 私の前に立ってそう言ったのは出雲君だった。

 え!? 何で出雲君が私を庇ってくれるの。

 トラブルは避けたい性格だよね。

 

               ◇


 俺は朝、燐に告白の件で気まずいながらも挨拶をした。

 風邪で一週間近く学校を休んでいたこともあってか更に気まずかった。

 だけどそれより挨拶した時少し様子が変だった。

 何故だ?

 でも聞けなかった。

 そんな時七瀬が燐の事を援助交際してると言った。

 クラスメイト達も一斉に賛同していた。

 俺の事が好きな燐をクラスメイト共は完全に否定した。

 これで確信した。燐は恐らく江島に告白されたあの日以来いじめられている。

 燐の性格からか言わなかったんだ。

 燐は強いから。

 あの時俺以外に告白を聞いていた人物は七瀬だ。

 七瀬は江島が好きだ。そして江島に告白して断られた過去を持つ。

 それなのに江島を振った燐を許せなかったんだ。

 それで根も葉もない噂を流したんだ。


 (ああ怖いな。トラブルは避けたいな)


 でも許せなかった。燐をいじめたことを。

 だから俺は勇気を出して恐怖に立ち向かった。


 「おい七瀬。お前でたらめ言うなよ、江島が好きだったからって逆恨みか」

 「何、猫屋敷。まさか燐ちゃんの肩を持つの?」


 一斉にクラスメイトの視点が俺に向けられる。

 俺はそれでも表情一つ変えなかった。


 「燐はな援助交際なんてする奴じゃないんだよ。そもそも知り合いの作家って誰だ?」

 「そ、そんなの関係ないでしょ。どうでもいいじゃない」

 「作家に知り合いなんていないだろお前。そもそも燐が俺を好きなのは事実だ。現に俺は燐に告白されてそれを振ってるからな」


 俺の言葉を聞いてクラスメイト共がざわめき出す。


 「お前いい加減にしろよ。俺への当てつけか!」

 「事実を言ったんだ。なあ七瀬、お前江島に振られたんだってな」


 俺の言葉に動揺する七瀬。


 「今は関係ないでしょ!」

 「あるさ。あの時江島が告白した時俺見てたんだよ。そしたらもう一人見てる人がいた。お前だ七瀬」


 確証はなかったが俺は怯まずそう言い放った。


 「つっ――」

 「大方江島に振られたお前は江島を振った燐に嫉妬したんだろ。それでいじめ始めたんだ。どうりでおかしいと思ったよ。ジャージ無くなってたし、今日もいつもなら机に出してる筆箱出してないしな。物を盗んだり悪口言うって最低だな」

 「黙れ陰キャが」

 「黙らない。金輪際燐をいじめるな。次いじめたら殺すぞ」

 「調子に乗らないで」


 俺は七瀬にビンタされる。

 それでも表情一つ変えずに憐れんだ目で見た。


 「じゃあ嘘だったって事。七瀬さんの」

 「いやでもあのド陰キャの猫屋敷の言う事だよ。どっち信じるのって話」

 「確かに」


 クラスメイトの屑共がひそひそと話している。

 殴っていいなら殴りたい。殺していいなら殺したい。

 そんな気分だ。


 「おい調子に乗るなよ猫屋敷。何告白されたとか嘘ついてんだてめえ」

 「本当だ」

 「黙れ。だったら俺はお前より下だってか笑わせるな」

 「がはっ」


 俺は江島に殴られる。

 そして俺は吹っ飛び机に背中をぶつける。


 「い、出雲君。大丈夫? 何で私を庇って」

 「俺は燐を傷つけた。だけどやっぱり燐を傷つける奴は許せない。ははっ、矛盾してるな俺」

 「そ、そんなことない。凄く嬉しいよ。ごめんね巻き込んで」

 「気にするな。こっちこそごめん」


 俺が燐に謝ったと同時に鐘が鳴り先生が入ってくる。

 だが先生は見て見ぬふりをした。


 それから半年間俺と燐はいじめられた。

 結果的に俺が庇った事で燐はいじめから解放されなかった。

 俺がいじめられる側に追加されただけだった。

 そして俺は家族に言わなかった。家族に心配かけさせたくなかったからだ。

 そして半年後燐は突如転校した。

 何も言わないで。

 それから俺は一年間いじめられて過ごした。

 壮絶な一年間だった。

 途中耐えられなくなり、自殺も考えた。

 同時に何も言わず逃げた燐を恨んだ。

 その中で人生の希望となったのが生配信とラノベを書く事だった。

 この二つが俺の生きがいになった。

 因みに燐と燐の親は仲が悪かった。だから最低限の事しかせず燐を転校させるだけに留めた。いじめを公表することもしなかったし、学校側やいじめた連中を提訴する事も無かった。だから結局いじめが公になることはなかったのだ。

 だから今でも俺の親は俺がいじめられていたことを知らない。

 気づいていたら絶対に対策するのが俺の親だ。


 これが俺と燐の中学時代である。

 

 そして現在――


 「じゃあ燐、これからも宜しくな」

 「うん」


 俺達は和解した。

 そしてここから白雪や燐達との物語が新たに始まる。

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