第二十七話 瑠璃と零
猫屋敷瑠璃side
『ということがありました』
『それを何で僕に言う?』
『これは零君のせいです』
『話が読めない』
私はタブレットでビデオ通話をしている。
相手は実の旦那の零君である。
『つまり出雲ちゃんが責任を負うのが怖くなったのは零君のせいなのです』
『心当たりがない』
『昔々会社を継ぐ? とか瑠璃超えようとか色々プレッシャーをかけたのは零君です』
『いやあれは冗談で』
『零君が何度も何度も口にしたせいで、幼かった出雲ちゃんはこんな自分では無理だと自分自身を過小評価する事になったのです。そこから発展して何に対しても責任を負うのが怖くなったのです』
『それで燐という子の告白を断ったと』
『そうです。どう責任を取るおつもりですか』
私は頬をぷっくりと膨らませた。
そして画面に向かって指を指した。
『僕の知らない所で随分重大な事項に発展していたんだな。取り敢えず自信を持たせる必要があるんじゃないのか』
『つまり成功体験ですね』
『ああそうだ。何でもいいから一つの事で成功を収めると人間自信が付くからね。自身を過小評価しなくなるんじゃないか?』
『過小評価が悪いと言っているわけではないのです。しすぎ、逃げ癖が出雲ちゃんの将来に影を落としそうで怖いのです』
『そればっかりは本人が――』
そこで通話が切れた。
あ? 逃げられた。
私のスマホが鳴った。
『悪い仕事が入った。まあ兎に角宜しく頼むよ。僕の尻拭いをしてくれるのは瑠璃だけだから』
こんな一文のチャットを残して。
「全く零君は肝心の時に逃げますね。若しかして遺伝しているのでは?」
そう言えば零君も出雲ちゃんと同じ責任を負うのが怖いタイプだ。
これはもう遺伝子ですね。
しかし決定的に違うのは零君は私に心を開いた。
だけど出雲ちゃんはまだ誰にも心を開いていないこと。
いつか出雲ちゃんの心の深部に足を踏み入れる事が出来る人が現れるといいのですが。
「私は困りました」
私はソファーにゴロンと猫のように横になった。
◇
「おはよう燐ちゃん――って目どうしたの!?」
「ああ映画見てて泣いちゃって」
「そっかー感動する映画一杯あるもんね。何ていう映画?」
そんな会話が横から聞こえてきた。
俺は燐に挨拶だけをしてそれ以降会話をしていない。
正直話せる気分ではなかった。
燐の目が腫れているのは俺のせいだろう。逆に言えば俺の為にここまで泣いてくれるんだと思ってしまった。そしてその事を思うと胸が痛む。
「なあ黒羽昼休み話があるんだが」
「話?」
「あ、ああ。ここでは言えないんだが」
「そうなんだ。いいよ。空き教室ででも話そうか」
「ああ」
燐に話があると言ったのはクラスの中でもスクールカーストが高い陽キャの江島だ。
大体想像がつく。告白だろうな。
燐付き合うのかな。今更何で俺が心配してるんだ。俺は振った側じゃないか。しかも最低な言葉で。
その後昼休みまで俺は重い空気に包まれたような時間を過ごした。
◇
俺はやっぱり燐と江島の会話が気になりこっそり後を付けた。
そこで会話を盗み聞く。
「黒羽。俺お前が好きだ。付き合ってほしい」
やっぱり告白。
ああこれで俺と燐の関係も終わりかな。
でも仕方が無い。怖いんだ。自分が小さすぎて、何一つ成功できる気がしない。
ましてや燐の全てを受け入れて幸せにするなど無理だ。
俺には何もないんだ。特別な才能も運も。
「ごめんなさい。私好きな人がいるの」
「好きな人? 誰だよそれ!」
「猫屋敷出雲君。私彼が心の底から好きなの」
俺はその言葉を聞いて胸が痛くなった。
それと同時に何故か涙が溢れ出て止まらなかった。
「何であんな奴なんかを」
「殆ど関りが無い江島君には分からないよ。兎に角私は出雲君が好きだからごめんね」
その言葉を聞いた瞬間、俺とは反対側の場所から遠ざかっていく足音が聞こえた。
俺以外にも誰か聞いていたのか!?
「分かった。もういい」
「ごめんね」
そう言うと江島は苛ついた様子で空き教室から出て行った。
俺は燐に見つからないように移動した。
◇
その後数週間で数十人の男子の告白を燐は断った。
そしてある事件が起きた。
「あれ、ジャージない」
ここから燐に対するいじめが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます