第二十六話 告白と恐怖
「お母さんも行くー。出雲ちゃんと燐ちゃんと行くー」
「来なくていい。ていうか燐の事知らないのにちゃんづけするな」
「出雲ちゃん反抗期。私ショック」
俺の母親である猫屋敷瑠璃。かなりのロリ体型である。
見た目はもう俺と同じぐらいか、いや若しかしたらそれより若いかも。
最早意味不明だ。
しかも髪の色が俺と違うし。
「兎に角駄目だ。連れて行かない」
「ぶぅーぶぅー」
「豚かよ」
「いいもん。灯里ちゃんと遊ぶから」
「灯里も友達と遊ぶって言ってたぞ」
「ガーン」
擬音を言葉に出した理由を俺は知りたい。
あざとさを前面に出したのか?
「じゃあ行ってくるから」
「ううっ。私一人だ」
「留守番頼むな」
「もうメイドさん雇う」
「やめろ」
結局ロリ母こと猫屋敷瑠璃は一人玄関でいじけていた。
少し気の毒に思ったが仕方が無い。まさか燐とプールに行くのに連れていくわけには行かないからな。
こうして俺は急いで待ち合わせの場所まで向かった。
◇
「悪い待たせた」
「大丈夫だよ。私も今来たとこだし」
「本当に悪い。うちの母親が一緒に行くと聞かなくて」
「面白い母親だね」
「ま、まあな」
俺の母親は多分この地球上で最も不可思議な存在かもしれない。
漫画に出てくる幼児化する薬を飲んでいる可能性も。いや考えるのはやめておこう。
「じゃあプールに行くか」
「うん」
俺達は大型アトラクション施設にあるプールへと向かった。
ところで何故プールに燐と行くのかと言うと、昨日誘われたからだ。
昨日――
「ねえ出雲君」
「何だ?」
「明日空いてる?」
「空いてるけど、どうした?」
「良かったら一緒にプールに行かない?」
「ぷ、プール!?」
「駄目かな?」
「いや駄目じゃないが。急にどうして」
異性と二人っきりでプールって。
燐の水着姿が見れるのか。
ああやばい考えたらドキドキしてきた。
「今さステラの心臓以外に新作書くことになって。それで今回ラブコメなんだよね。それでプールのシーン書きたくて」
「つまり取材と」
「そう言う事。勿論嫌ならいいよ。無理強いはしないから」
燐の水着姿が見れるなら行くのはありだ。
それにそんな低俗な理由以外にもライトノベル作家としての取材の為なら幾らでも協力したい。
「いいよ。俺で良ければ」
「本当に!?」
「ああ。だけど参考になるかな? 俺とだと。ラブコメって基本美男美女だろ」
「出雲君って自己評価低いよね。かなりカッコいいと思うけど。まあ可愛いけど」
「どっちだよ」
「どっちも」
燐は満面の笑みで笑って見せた。
凄く輝いて見えた。
こうして俺は燐とプールへ取材の為行く事となったのだ。
そして現在――
「うわあ広いね。全部プールになってるんだね」
「だな。まあ室内最大級のプールだしな」
「人多いね」
「まあ日曜日だしな」
「じゃあ着替えてくるから」
「先着替えて待ってる」
「うん」
燐の水着姿楽しみだな。
決して恋などではない。異性として当然の感情で。
さあ俺も着替えよう。
「お待たせ」
「…………」
「えーと、何か変?」
「い、いやそういうんじゃなくて」
燐の水着姿が余りにも可愛すぎて俺は言葉を失った。
それと同時に視線が釘付けになった。
水色のフリルが付いた水着姿。胸が思ったより強調されていて目のやり場に困る。
「凄く似合ってる。可愛い」
「え!? そ、そうかな」
「あ、ああ凄く」
「ありがとう」
お互い赤面して視線を逸らす。
そんな時、周囲から複数の声が俺達に聞こえるように飛び交った。
「何あの子超可愛くない」
「誰だろう。モデルさんかな?」
「すっげえ美少女」
燐の事を言っている。
流石燐だな。水着姿で立っているだけなのに周囲から圧倒的な称賛を浴びている。
つくづく俺とは不釣り合いだと思ってしまう。
「入ろうか」
「あ、ああ」
燐は周囲の言葉をまったく気にしていない様子だ。
それどころか俺の手を繋いでプールへと向かって行く。
「何からやる?」
「ストレッチから」
「あ、そうだった」
「忘れてたのか」
「テンション上がっちゃって」
「ははっ」
でも不釣り合いだとしても今は関係なく楽しもう。
何せ俺は燐といると凄く楽しいのだから。
俺達はストレッチしてプールで遊びまくった。
◇
猫屋敷瑠璃side
「出雲ちゃんはっけーん。あの横の超絶美少女が燐ちゃんだね」
私はこんな事では諦めないのだ。
出雲ちゃんに拒絶されても、こっそり背後から尾行してこのプールへとやって来たの。
さあ二人のイチャイチャを存分に見よう。
「なああの子すげえ可愛くない」
「でも何か凄い一人でにやけてるぞ」
「ナンパしてみるか」
周囲の男が私に話しかけてくる。
相変わらず私はモテてしまうようだ。
「ねえ一人なら一緒に遊ばない?」
「遊ばないです。今は私は出雲ちゃんで忙しいの」
「そ、そんな事言わずにさー」
「次喋ったらこ・ろ・す」
「す、すみませんでしたー」
私の圧倒的殺気オーラが勝利をもたらした。
「あれ出雲ちゃんいなーい。燐ちゃんもいなーい」
私は周囲が見渡せる位置で出雲ちゃんにばれない位置を探して移動する。
待っててね出雲ちゃん。
◇
何か寒気がするんだが、気のせいか?
「どうしたの?」
「いや何でもない。ウォータースライダー滑ったらお昼にするか」
「うん。そうだね」
俺達は長蛇の列を並びウォータースライダーを滑る。
何故かカップルだと思われて密着した状態で一緒に滑る事となった。
胸が、肌が、あ、当たって。
「何かドキドキするね」
それはどっちのドキドキだ?
俺はウォータースライダーより燐の事でドキドキなんだが。
「じゃあ行ってらっしゃい」
係員の女性がそう言うと俺と燐は長いウォータースライダーを滑る。
「うわああああああああああああ」
「きゃああああああああああああ」
怖すぎる。ロリ母助けてくれえええええ。
「楽しかったね」
「あ、ああ」
「顔色悪いよ。大丈夫?」
「ちょっと怖かった」
「ごめんね」
「いやいいんだ」
俺と燐はたこ焼きと焼きおにぎりとウーロン茶を買って、椅子に座り休憩している。
「食べる前にお手洗い行ってきていい」
「ああいいぞ」
「ごめんね。先食べててもいいから」
「いや待ってるよ」
「ありがとう」
そう言って燐はお手洗いに行った。
一人残った俺は何故か誰かから視線を感じている事に気が付いてキョロキョロ見回す。
だが誰もいない。
気のせいか。
「ふぅー疲れた。でも燐凄く可愛いな」
俺はそんな事を思いながら椅子にもたれ掛かった。
◇
黒羽燐side
「はあはあ。言うんだ」
私は今出雲君と離れた場所で一人心臓の高鳴りを無理やり抑えようとしている。
「駄目だ好きすぎてもう我慢できないや」
私は出雲君が好きだ。
この半年間一緒に過ごして色々な出雲君が知れた。
そして私はいつしか恋をした。
「告白駄目だったらこの関係もなくなるのかな」
この関係は凄く心地よい。
だけどこのどうしようもない胸が締め付けられるような思いを封じ込めておくことは不可能だった。
だから私は今日告白しよう。
「駄目だったら駄目で仕方がない。告白しよう。勇気を出せ私」
そう小声で言った私。軽く自分の両頬を叩いて出雲君の所へ戻った。
頑張れ私。
◇
あれから俺は燐と昼食を取って再び遊んで現在帰路の途中だ。
「楽しかったな燐」
「うん」
「どうした燐?」
「聞いて貰いたい事があるんだけどいいかな?」
「ああいいよ」
話があると言ったので近くの公園のブランコに座った。
夕焼けが凄く綺麗だ。
カラスも鳴いている。
「出雲君」
「は、はい」
真剣な声と表情で俺を見てくる燐。
俺はつい敬語になってしまった。
「私出雲君が好きなの。大好きなの」
「え!?」
「突然すぎるよね。迷惑だったよね。でももう抑えきれなくてこの気持ちを」
これは告白だよな?
どうすればいいんだ。
正直俺も燐が好きだ。
だけどそれは燐としてで異性としてなのかは分からない。
それに俺は責任を取るのが怖い。幸せに出来るとは思えない。
燐を傷つけたくない。
だから俺は――
「ごめん。俺は燐を異性として好きにはなれない。だって責任を取りたくないから」
ああ我ながらかなりひどい言葉だな。でも真実だ仕方が無い。
「そっか。うん何か分かってた。出雲君は人と適度に距離を置くタイプだしね」
「ご、ごめん」
燐を傷つけた?
いや傷つけたのは間違いないよな。だってこんな断り方じゃ。
「謝ることないよ。こっちこそごめんね。でも私は諦めない。いつか出雲君に好きって言わせるから」
「り、燐」
「じゃあ私帰るね。今日は楽しかったありがとう」
「あ、り、燐」
「本当にありがとう。また明日学校で」
「あ、ああ」
そう言って燐は帰っていった。
俺は最低な男だ。
中途半端に振ったんだ。ただ責任を取りたくないからって。
「でも俺じゃ燐を幸せにはできないよ」
ブランコに座ったまま俺は夕焼けを眺めた。
夕焼けすらも俺に怒っているように感じた。
◇
黒羽燐side
私は家に帰る途中大粒の涙を堪え切れず流した。
知ってた筈なのに。出雲君が人と適度に距離を置くタイプだって。
でも僅かな可能性に掛けた。
だって出雲君が大好きだったから。出雲君も私といるとき凄く楽しそうだったから。
「残念だったね燐ちゃん」
「だ、誰ですか!?」
「私は猫屋敷瑠璃だよ。出雲ちゃんの母親だよ」
「出雲君のお母さん!? 噂通り本当に幼いんですね」
「まあね。それより頑張ったね」
私はその一言で涙が堪えきれなくなった。
そしてその場で泣いた。
「うわあああああああああああああっ」
「うんうん頑張ったね。出雲君は昔から何かの責任を負うのが怖くてね。それでいつも責任から逃れるんだ」
「し、知ってます」
「でもね出雲君本当は燐ちゃんの事好きだと思うよ。でもそれを敢えて自覚しないようにしてる。逃げてるんだよ」
「だ、大丈夫です。私諦めてませんから」
「強いね燐ちゃんは。これからも出雲君と仲良くしてあげてね」
「はい」
私は暫く瑠璃さんの腕の中で泣き続けた。
そして同時に私の最初の勇気ある告白は玉砕した。
でも私は諦めない。
いつか出雲君に好きになってもらうんだ。
そう心の中で思った。
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