第二十五話 噂

 昨日あれから燐の家でライトノベルの書き方を教わった。

 そしてその日から俺と燐の創作活動が始まった。


 「なあ最近猫屋敷と黒羽さん仲良くねえか」

 「わかるわー。何であんな奴なんかと」

 「弱みでも握ってるとか」

 「ああ何かパソコンとか得意そうだよな。あいつド陰キャだし。ハッキングしてたりしてwww」


 学校の朝のホームルームが始まる前の時間、男子生徒共が嫉妬からか俺を睨み付けて、悪口を言ってくる。

 直接言えよ面倒くさい。

 でも燐にとっては迷惑なのかな?


 「おはよう出雲君」

 「お、おはよう燐」

 「どうしたの? 表情暗いよ」

 「い、いや何でもない」

 「何かあったでしょ」

 「ううっ――」

 「昼休みね」

 「分かった」


 相変わらず勘が鋭いな。

 燐は綺麗な佇まいで自分の席へと座る。


 「燐ちゃんおはよう。そう言えば昨日知ったんだけどさ、ライトノベル作家なんだって」

 「え!?」

 「SNSやってるよね。フォロワー一万人以上いてびっくりしたよ。何で言ってくれないのさー」

 「ご、ごめん。何か自分から言う事じゃないと思って」

 「ステラの心臓デビュー作なんだよね。三巻累計五十万部突破って書いてあったよ。凄いよねこの数字」

 

 あるクラスの女子の一人七瀬愛花が大きな声で言葉を口にする。

 それを聞いた他のクラスメイト達が一斉に集まって来る。

 燐は少しだけ動揺していた。


 「本当だ。ネットニュースの記事にもなってる。凄い有名人じゃん」

 「さっすが黒羽さんだよなー。どこかのド陰キャとは大違い」

 「だなだな。黒羽さんも同じレベルの人と付き合った方がいいと思うぜ」


 勝手な事ばかりを俺は言われる。

 まあ事実だよな。だって俺と燐じゃ――。


 「レベルって何? ド陰キャだから何?」

 「え、黒羽さん!?」

 「誰の事か知らないけど遠まわしでの悪口とか格好悪いよ。私は付き合いたい人と付き合ってるだけ。レベルとか陰キャとか気にしたことないよ。二度と私の前でそう言う事やめてね」

 

 燐が初めて怒った姿を俺は見た。

 こんな風に怒るんだと俺は思ったのと同時に、俺の為に怒ってくれたんだと思って嬉しくなった。

 だけど情けないよな俺。自分で言い返すべきなのに。


 「ご、ごめん黒羽さん。そういうつもりじゃ――」

 「うん。次からは気を付けてね」


 そう燐が言うと教室に先生がやって来た。


 昼休み屋上で俺は燐と二人お弁当を食べる。

 

 「さっきはありがとう」

 「え!?」

 「え!? って俺の事で怒ってくれたんだよね?」

 「え!? あれ出雲君の事だったの!?」

 「いや俺以外に燐と仲いい陰キャなんかいないし」

 「誰の事か分からなかった。私、人の事レベルとか陽キャとか陰キャとかで見ないんだよね。あくまで付き合いたい人と付き合ってる感じ」

 「怖くないのか?」

 「何が?」

 「俺と親しくしてると周囲からの評判落ちるだろ。あんな奴と一緒だなんてみたいな」

 「ううん全然。だって周囲の評価とか気にしないし。言いたい人は言わせておけばいいよ」

 

 凄い強い性格だな。本当に凛としている。

 漢字は違うが、間違いなく燐だ。


 「そっかありがとう。俺は正直気にしてた。俺のせいで燐に迷惑が掛かるんじゃないかと思って」

 「思わないよ。だから二度とそう言う考えしないで。私が悲しくなる。出雲君は私にとって最高の親友だから」

 「う、うん」


 俺は凄い照れくさくなった。

 そして同時に燐の表情に見惚れた。


 「さあ食べようか」

 「あ、ああ」


 俺と燐は弁当を食べ始めた。


        ◇


 「できたー」

 「やったね出雲君」

 「ああ。でもこれ本当に投稿するのか?」

 「無理強いはしないけど、読者が増えると嬉しいよ」

 「じ、じゃあち、ちょっとだけ」

 「うん。でも私が一番最初に読むでいい?」

 「手伝ってもらったから殆ど内容知ってるだろ?」

 「そうだけど。最初から最後まで一番最初に読みたいな」


 燐は笑顔でそう言った。

 ああ可愛すぎる。だけど同時に怖かった。

 燐を好きになってしまった時の自分を想像したら。

 だって責任なんて怖くてとれない。幸せにできる自信が無い。


 「分かった。一番の読者は燐な」

 「ありがとう出雲君」


 こうして俺は『ブラックオンライン』と呼ばれるVRMMO物の小説を二十万字ちょい書き上げた。参考にしたのは色々なオンラインゲームだ。それのVRバージョン。

 内容は至ってシンプルでVRMMMO内で起きた事件を解決していくストーリーだ。

 文章の書き方は燐に教わった。後ロリ母。

 俺は『ブラックオンライン』を燐が読んだ後に、ウェブに投稿した。

 燐は「面白いよこれ。もう少し捻れば化けるよ」と自分の事のように嬉しそうに言ってくれた。

 それが凄く嬉しかった。

 その後ブクマや評価を処女作にしては結構もらえて俺は嬉しくなった。もっとラノベを書きたいと思うようになった。

 そして燐が転校してから半年が経過した頃、俺にとってとてもある重要な日がやって来る。

 そこで俺は改めて自分の弱さを自覚する事となる。

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