第二十二話 和解

 はあ~色々重なりすぎて思考が追いつかない。

 鬱になりそうだ。

 

 「燐ちゃんおはよう」

 「おはよう寧音ちゃん」

 「燐ちゃんの原作のアニメ見たよ。面白かった」

 「ありがとう。凄い嬉しい」

 「原作も買うからね」

 「無理はしないでね。お金かかるし」

 

 黒羽燐と泉寧音が隣で仲良く笑いあって話してる。

 俺も黒羽に用があるが、無理だ、話しかける勇気が無い。

 どうすれば前の関係に戻れるだろうか。

 そもそも俺が悪いのかもしれない。

 何せあの時俺が――


 『昼休みちょっといいかしら?』


 俺が机に突っ伏して考え事をしていると、白雪初音からチャットがきた。

 こっちともギクシャクしてるな。

 でも会わないのは不自然だよな。


 『いいよ。旧校舎でいいか?』

 『うん』


 俺はチャットに返信すると再び机に突っ伏した。

 頭の中は黒羽燐の事で一杯だった。


           ◇


 「それで白雪、話って?」

 「黒羽さんとのこと聞きたくて。やっぱり凄く気になるの」

 

 やっぱりその話題か。

 だけどこれを話す気にはなれない。例え白雪であったとしても。


 「悪い話せない」

 「何で!?」

 「自分の感情が上手く纏まらないんだ。黒羽とどうしたいのかを」

 「私は出雲君のお嫁さんよ。支えたいわ」

 「今は突っ込む気にはなれない。でも少しだけ話すとするなら俺は彼女の好意を拒絶した。今の白雪以上に」

 「つっ――」

 「悪いこれ以上は話す気は無い。それと俺は外側から応援すると言っただろ。一ファンなんだ。白雪に恋愛感情はない」

 「つっ――デートしてくれたのは好意じゃないの?」

 「一ファンとして落ち込んでる白雪なんて見たくなかったんだ。だから元気づけようとデートに誘った。傷つけたならごめん」

 「何で誰の好意も受け入れないの?」

 「責任を負うのが怖いんだ」


 俺はそう一言言って白雪が作ってくれた弁当を食べずにその場を出た。

 残された白雪は悲しそうな表情をしていた。


              ◇

 黒羽燐side


 『やっほー燐ちゃん。学校終わった?』

 『暇なんですか? 大学生ですよね? 勉強してください』

 『大丈夫。講義はちゃんと理解してるから。優秀な親友がいるからね』

 『そうですか。それで何の用件ですか?』

 『海光社って知ってる?』


 海光社。多くの有名ライトノベルを輩出しているレーベルだ。

 私も一作そこで書かせて頂いている。

 でも舞花先輩が何故?


 『知ってますよ。何せ私そこから本出してますし』

 『じゃあもう知ってるのかな? 出雲君デビューするかもしれないんだよ』

 『え!?』


 出雲君が!?

 書いていたのまだ。

 もうてっきり書かなくなってるもんだと思ってた。


 『知らなかったです。ていうか何処でその情報を?』

 『公式サイトに最終選考通過作品が掲載されてて、そこに出雲君載ってたよ』

 『舞花先輩が何故そんな公式サイトを見てるんですか? 作家志望なんですか?』

 『違うよ。燐ちゃんの作品買って読んだんだよね。そしたらさ偶然ホームページに新人賞の項目あるからどんな物なのかなと思ってさ』

 

 私の作品読んだんだ。素直に嬉しい。

 しかも買ってくれたなんて。


 『出雲君と何があったかは私も詳しくは分からないけどさ。取り敢えず話の種としては使えるんじゃないかな』

 『何故舞花先輩が私に肩入れするんですか。普通初音ちゃんに肩入れしますよね』

 

 何を考えているのかが分からない。

 本当にこの人は考えが読めない。

 

 『確かにさ。燐ちゃんの言う通り初音ちゃんは可愛い可愛い大切な妹だよ。でもねそれより私って好奇心が勝っちゃうんだ。今すっごく楽しいんだよね』

 『楽しい? どういう意味ですか?』

 

 意味が分からない。

 こんな修羅場ってるのが楽しい?

 性格が歪んでるのかなこの人。


 『結局さ。出雲君が誰に真に心を開くのかが興味があるわけ。初音ちゃんなのか燐ちゃんなのか、はたまた私のような第三の人間なのかをね』

 『それが私に肩入れする理由ですか?』

 『取り敢えず過去と向き合わないと始まらないと思うんだよね。過去は過去って割り切れないタイプでしょ二人とも』

 

 見透かされてる。

 この人凄い人の心情を読むのが上手い。

 何か憧れてしまうな。


 『つまり逃げないでお互い向き合えって事ですよね』

 『察しがいいね燐ちゃん。期待してるよ』


 そう言って私のチャット画面に私の原作アニメのメインヒロインエミリアのスタンプが表示された。

 あの人スタンプまで買ってくれたんだ。


 「行かないと」


 私は急いで出雲君の下へと言った。


           ◇

 俺は白雪に酷いことを言ってしまったんではないかと少し後悔した。

 でも遅かれ早かれ傷つける事には変わりない。

 だって俺は彼女の好意を受け入れるつもりはないんだから。


 「そうだ。海光社に連絡しないと」


 俺が帰り道スマホで電話しようとした瞬間、背後から声が掛かった。


 「はあはあ出雲君」

 「黒羽!? どうしてここに」

 「話があるのいいかな?」


 拒絶したかった。逃げたかった。

 でも彼女の瞳は、表情は真剣そのものだった。

 

 「いいよ」

 「ありがとう出雲君」


 俺は逃げることを少しだけ止めてみることにした。


 公園のブランコで二人揺られながら話始める。


 「ごめんなさい」

 「え!?」

 「あの時逃げてしまって」

 「正直辛かった。あの後の一年は地獄だった」

 

 俺は本音を口にした。

 例え黒羽を傷つけることになったとしても。


 「想像を絶するよね。私だったら耐えられなかったかもしれない。ううん耐えられなかった」

 「何で転校したんだ?」

 

 もう全て聞くしかない。

 いや全て聞きたい。


 「学校側はいじめを否定して親が私のいじめを回避する為無理やり遠くの学校に編入させたの」

 「それで!?」

 「うん。言い訳に聞こえるかもしれないけど私言ったんだ。嫌だって。出雲君を一人にしたくないって」

 「つっ――」


 俺はその言葉が嘘偽りないと分かってしまった。

 だからこそ凄く嬉しく感じてしまった。


 「でもね、私は中学生。無理だった、親に逆らうのは」

 「そうか。連絡できなかったのも」

 「うん。全て変えられた。電話番号、メールアドレス、チャットアプリ」

 「やっぱり仕方が無かったんだな」

 

 俺がその言葉を言うと黒羽燐は顔を曇らせた。


 「仕方が無くないよ。出雲君はそのせいで一年間苦しんだんだよ。トラウマだって持ってるかもしれない。PTSDになってたっておかしくないよ」

 

 俺は吐き出すようにそう言った黒羽燐に近づくためブランコを降りた。

 

 「確かに辛かった。でも理由が聞けて良かった。俺はもう大丈夫だよ。お前とまた会えて良かった」

 「つっ――」

 

 黒羽燐が涙を堪えているのが分かった。

 ああやっぱり彼女もずっと辛かったんだなと思った。

 俺は確かに再会した時心臓がバクバクいうほどトラウマを抱えていた。

 同時に凄く怒っていた。でも本当は俺はただ彼女に傍にいて欲しかっただけなんだろう。

 何せ俺に夢と希望を与えてくれたのは彼女だからだ。

 

 「なあそう言えば俺まだライトノベル書いてるんだ」

 「知ってる。最終選考通ったんだよね。おめでとう」

 「知っていてくれたのか。嬉しいな」

 「まだ書いていてくれたんだね」

 「ああ」


 中学三年の春学校が辛くて現実逃避の為生配信を始めた。

 でも同時に黒羽燐が楽しさを教えてくれたライトノベルを書くことを俺は止めることが出来なかった。

 だから執筆は続けた。


 「でもやっぱり私は出雲君と仲良くする資格はないよ」

 

 違う。それは違う黒羽。

 俺はもう一度お前との関係を築く。


 「あるよ。俺はもう怒ってないし恨んでない。だってちゃんと本人の口から理由を聞けたから。それに元々は俺やお前を虐めた屑共が悪いんだ。だからもう一度俺と一緒に友達として、いや親友としていて欲しい」

 「いいの? 出雲君を傷つけた卑怯者だよ」

 「卑怯者じゃないだろ。お前はまだあの時中学生だぞ。仕方が無いさ。それに俺はお前が心から裏切った訳ではないと確信が持てて安心した」


 黒羽燐は涙を堪えきれずその場で流した。


 「今日から宜しくな燐」

 「うん出雲君」


 俺はこの日黒羽燐と仲直りした。

 そしてここから新たな関係を築くんだ。

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