過去編

第二十三話 出会い

 俺は今日も中学生活を謳歌してはいなかった。

 基本的にクラスで孤立していて、一人だ。

 まあ虐められてるわけではないけどな。


 「えー今日はお前たちに大事な報告がある」


 教師がそうホームルームの時に告げると、生徒たちがざわついた。

 

 「えー先生、なんですか?」

 「まさか辞めるんですか?」

 「抜き打ちテストは嫌だ―」


 クラスメイト達が各々言葉を口に出す。

 そんな言葉を聞いて俺は大きくため息をついた。

 面倒だな。帰ってゲームしたい。


 「お前ら少し黙れ、俺は辞めないぞ。今日は転校生がやって来る」

 

 教師の言葉に生徒たちが一瞬静まり返って、そして時が動き出したかのように興奮する。


 「えー転校生!? 男子、女子?」

 「イケメンだったらいいなー」

 「俺は超絶美少女がいい」


 はあ~くだらない。

 学校なんかなくなればいいのに。

 勉強なら家で出来るだろ。予備校だっていい。

 無駄なシステムだな。


 「じゃあ黒羽入れ」

 「はーい」


 俺は一応転校生がどんな容姿なのか見る為に前を向く。

 適度な距離を保つために見極めは重要だ。

 この世界では損得勘定が全てだ。


 「今日からこの学校で学ぶ黒羽燐です宜しくお願いします」

 

 あれ!? 黒羽燐!?

 どっかで聞いたな。

 そうだ。今ライトノベルのデビュー作で話題の黒羽燐だ。

 いや偶然かもしれない。同じ名前なんて別にいるよな。


 「じゃあ席は猫屋敷の隣な」

 「はい」


 黒羽燐が凄い綺麗な姿勢でこちらへと向かってくる。

 俺は思わずその綺麗すぎる容姿に見惚れた。

 いやいや恋愛感情はない。ただ美しい物を見ると人間は基本見惚れるだけだ。


 「すっげえ美人」

 「うわあ付き合いたい」

 「凄いな。俺は告白するわ」


 男子たちが騒ぎ出す。

 まあこの容姿なら当然か。

 

 「ちょっと男子見過ぎ。気持ち悪いよ」

 「そうそう。黒羽さんも迷惑だよ」

 「これだから男子は」


 丁度男子の言葉の後に女子が男子を非難した。

 まあ女子にとってみればこういう意見が飛び交うのも当然か。


 「宜しくね猫屋敷君」

 「あ、ああ宜しく黒羽さん」

 

 こうして俺と黒羽燐の出会いの物語が始まった。


           ◇


 「黒羽さん。いや燐ちゃんって呼んでいい?」

 「私も燐ちゃんって呼びたい」

 「うんうん私も」


 黒羽燐は多くの生徒に囲まれて質問攻めされている。

 他のクラスからもやってきて転校初日にもう有名人になっていた。


 「おい可哀そうだろうが。ごめんな黒羽さん、うちの女子たちが礼儀知らずで」

 「全然平気だよ。私皆と仲良くなりたいし」


 陽キャでスクールカーストが高い男子たちが黒羽に優しく話しかける。

 だけど俺から見たら黒羽に自分をアピールしてるようにしか見えない。

 滑稽だな。


 その後体育の授業をまだジャージを持っていなかった黒羽燐は見学した。

 一方俺も面倒くさくてサボった。


 「あれ猫屋敷君も見学?」

 「あ、ああ。ちょっと体調がな」


 俺は嘘を付いた。


 「そうなんだ。隣いい?」

 「いいよ」


 俺の隣に黒羽燐が丁寧に座る。

 シャンプーだろうか。良く分からないがいい匂いがした。


 「猫屋敷君は本好きなんだね」

 「え!?」

 「だって休み時間中ずっと本読んでたから」

 「あ、ああそう言う事ね。まあライトノベルだけどね」

 

 オタクと思われて気持ち悪がられただろうか。

 幾ら作者と言えど、オタクに理解があるとは限らないし。


 「ライトノベル好きなの!?」

 「う、うん。やっぱり気持ち悪いかな?」

 「ううん。そんな事ない。私も大好きだもの。因みにステラの心臓って知ってる?」


 黒羽が恥ずかしそうに言った。

 綺麗な艶が入った茶髪のロングストレート。大きなつぶらな茶色い瞳。整った睫毛。くっきりした鼻梁。

 これだけの容姿の持ち主が恥ずかしそうに顔を赤くしている。

 正直凄い可愛かった。


 「知ってる。俺その本持ってるし」

 「知ってるんだ。私実はライトノベル作家なんだ。運よくデビュー出来て重版もかかって。でも中々周囲には言えなくて」

 「別に言わなくていいんじゃないか。聞かれたら答えればいいし」

 「そうだよね。でも良かったな私ライトノベルに理解ある友達全然いなかったから」

 

 黒羽燐は嬉しそうな表情で体育座りをして語る。

 

 「俺はステラの心臓大好きだよ。重版されるのも理解できる。あの心情描写や戦闘描写は読んでいて圧巻だよ」

 「本当!? 嬉しい。ありがとう」

 「これからも頑張ってな黒羽さん」

 「燐でいいよ。ていうか燐がいいな」


 俺を見つめてくる黒羽燐。

 俺は正直凄いドキドキした。


 「じゃあ燐頑張れよ」

 「うん出雲君」


 こうして俺は黒羽燐と仲良くなった。

 だがこれがきっかけでこの後の壮絶な現実が待ち受けていることを俺と黒羽はまだ知らない。

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