第二十一話 二人の会話

 白雪舞花side


 「わーお。凄いね本がびっしり」

 「勝手に触らないでくださいね」

 「うんうん。分かってるよ」

 「じゃあいいですけど」


 私はリビングの大きな豪華なソファに腰かけて部屋を見回す。

 凄いリビングだな。本棚に本がびっしり。

 来客用の部屋は別なのかな。


 「燐ちゃんって呼んでもいい?」

 「構いませんが」

 「じゃあ燐ちゃん。君一人暮らしなの?」

 「ええそうですが。それが何か?」 

 「いや高校生で一人暮らしって凄いなと思ってさ。色々大変でしょ」

 「そんな事ありませんよ。寧ろ気楽で居心地がいいですよ」

 「強いんだね燐ちゃんは」


 黒羽燐は大きくため息をついた。

 私はそれを見て嫌われてるなーと思った。

 ああこれって出雲君との時と同じだ。

 私って結構嫌われるタイプだな。


 「それで話とは何ですか?」

 「おっ、いきなり切り出すんだ」

 「早く帰ってほしいんです。私も暇じゃないので」

 「それもそっか。売れっ子作家だもんね」

 

 私の隣に黒羽燐は上品な佇まいで座った。

 この子意外と躾がなってる子なんだな。


 「単刀直入に聞くけど君は出雲君とどういう関係?」

 「そうですね。簡単に言うと中学生の同級生です。まあ三年の春には私は別の中学に編入しましたが」

 「へー編入したんだ。じゃあ卒業まで一緒じゃなかったんだね」

 「そうですね。で、それが何か?」

 

 うーん随分警戒されてるな。

 でもこの子悪い子ではないんだよね。

 私の直感がそう言ってる。


 「出雲君に何したの?」

 「何で貴方がそれを聞くんですか? 関係ないですよね」


 関係ないか。確かに言われてみればそうかも。

 でも出雲君と関係持っちゃったしな。いやらしい意味では無い方のね。


 「初音ちゃんの彼氏が君が来てから落ち込んでるみたいだから。彼女の姉としてサポートしてあげたいなと思ってね」

 「それ嘘ですよね」

 「どういう意味かな?」

 「出雲君は誰とも付き合ってないですよね。今日の昼休み初音ちゃんとお話ししたんですが、彼女一方的な好意を両想いと勘違いしてますよ」


 黒羽燐は私に向かって真剣な表情で隣でそう言って見せた。

 流石にこの子凄いな。いい目を持ってる。


 「それは姉としても知ってるんだよね。出雲君は誰とでも適切な距離を保つタイプだから」

 「そうですね。だから貴方に出雲君との関係を話す理由はありませんよね」

 「そうだね。でも教えて欲しいな燐ちゃん」


 私は黒羽燐をソファに押し倒した。

 私は結構強引だよ燐ちゃん。


           ◇


 黒羽燐side


 「ちょっと何してるんですか!? 警察呼びますよ」

 「えーいいじゃん。私と燐ちゃんの仲なんだし」

 「今日初めてお会いしましたよね。たった数十分の関係で親友みたいな言い回しやめてください」

 「釣れないなあー」


 この人頭おかしいでしょ。

 初音ちゃんは少し思い込みが激しいけどいい子だと思う。でも姉は意外と性格が悪いかも。私が言えた事じゃないけど。


 「いい加減にしてください!」

 「おわあっ」


 私は初音ちゃんの姉を押し返した。

 笑顔で舌を軽く出して「ごめんね。可愛くてついからかっちゃった」と言った初音ちゃんの姉を見て大きくため息をついた。


 「仕方ない。今日は帰るよ。あ、そうだ連絡先教えて」

 「何でですか?」

 「友達になった証だよ」

 「友達じゃないですよね。ただの他人ですよね」

 「胸の感触いいね。大きくて」

 「なっ――」


 私は咄嗟に胸を両手で覆い隠した。

 この人犯罪者と変わらない。


 「はあ~分かりました。教えてあげます。但し用事が無い時はかけないでくださいね」

 「用事があるときはいいんだ」

 「まあいいですよ。でも出られない時もありますからね」

 「オッケー。私は白雪舞花。後輩の連絡先ゲットー」

 

 この人見た感じ大学生ぽいけど、暇なのかな?

 大学って学問を追及する場所だよね?

 でも頭は良さそうだな。


 「あ、そうだ。初音ちゃんを宜しくね。仲良くしてあげてね」

 「私にそんな資格ありませんよ」

 「そうなの?」

 「ええ。何せ出雲君を傷つけて逃げた卑怯者で最低な女ですから」

 「へえー。でも私が見るに君はいい子だと思うけどな」

 「それは過大評価ですね。見る目が無さすぎます」

 「残念視力はいいんだ」

 「今視力の話はしてないですよね」

 「ははっ、燐ちゃん突っ込んだ。可愛い―」

 

 はあ~。この人本当に子供みたい。

 でも大人の部分もある。いい塩梅なんだろうね。

 

 (初音ちゃんには幸せになって欲しいな)


 私はそう思いながら白雪舞花を見送った。


         ◇


 俺は家のベッドで寝転がり黒羽燐の事を考えていた。

  

 「多分逃げ出したかったわけじゃないんだよな」


 何なんだろうこの気持ちは。

 俺はどうすればいいのかな。

 そんな時だった。


 「メール?」

 

 俺は一通のメールが届いたのを確認する。

 そしてそのメールに目を通す。


 『海光社の編集部です。この間投稿したライトノベルの最終選考が通過したので個別にお知らせします。多分賞取るので、続き考えといてね。打合せしたいんで今月空いてる日連絡ください。担当編集雨宮苺より』


 は!?

 嘘だろ。こんな時にこんなメール。

 タイミング悪すぎだろ。

 俺はスマホをベッドにぶん投げた。

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