第二十話 編入理由
白雪初音side
私は何で思い出さなかったんだろうと思った。
黒羽燐ってあの有名なラノベ作家だ。
声優業界でも度々話題になる。
出雲君の事で頭がいっぱいで彼女に今日まで辿り着けなかった。
「ねえお昼一緒に食べない?」
私は黒羽燐に柔らかい表情を演じて話しかけた。
横で座っている出雲君の表情が曇ってる。
やっぱり何か二人にはあるんだ。
お嫁さんになる私が知らないと。
「いいよ。一緒に食べようか。でも今日は二人でいいかな?」
「ええ勿論。私声優だから是非有名ラノベ作家の貴重なお話聞きたいな」
「オッケー。寧音ちゃん、桜ちゃん、果歩ちゃんごめんね。今日は初音ちゃんと二人で食べるね」
黒羽燐は私の前で申し訳なさそうな表情で他のクラスメイトからの誘いを断った。
これだけ見るといい人にしか見えない。
でも油断は出来ない。
「分かった。有名人同士積もる話もあるよね。じゃあ明日食べようよ」
「オッケー。明日のお昼一緒に食べよう」
「うん」
こうして私は黒羽燐と二人屋上でお弁当を食べる。
丁度良く晴天日和である。
屋上に到着すると、黒羽燐が屋上のフェンス越しから景色を見る。
絵になっていて魅了されてしまった。
駄目よ私。今日は出雲君についての話があるんだから。
「ね、ねえい――」
「出雲君とどういう関係か聞きたい?」
「え!?」
「それが目的でしょ。違うの?」
全て見透かされてる目だ。
正直恐ろしく感じる。
それでも私は怯まない。
「ええ。出雲君とどういう関係か聞きたくて?」
「そっかー。昨日水族館に出雲君と来てたのって初音ちゃんだったかー」
「そうよ。私は出雲君のお嫁さんなの」
「お嫁さんねー。でも法律では男性は十八歳からだよ。出雲君まだ十六歳だよ」
そんな事知ってる。それよりお嫁さんの事驚かないんだ。
この人出雲君の事好きじゃないのかな。
でも昨日好きだって言ってたよね。
「実質よ。将来を誓い合う仲なの。行く行くはみたいな感じよ」
「残念だけど出雲君のお嫁さんにはなれないよ」
「それは黒羽さんがなるからって事かしら?」
私はきつい口調できつい声で睨んだ。
「そんなに怒らなくていいよ。ちがうちがう。誰も出雲君のお嫁さんにはなれないよ。それどころか恋人にすらね」
「な!?」
「彼はね。人と適度に距離を置く人物なんだよ。だから決して彼の心の本質の領域には踏み込めない」
黒羽燐はフェンスに背を預けてそう言った。
昼の太陽が彼女をギラギラと照らした。
「黒羽さんは一体出雲君の何なの?」
「一方的な片思いの性格の悪い好奇心旺盛な女の子かな」
「どういう意味?」
「そのままの意味だよ。さあ今日はこの辺にしてお弁当食べようか。お昼終わっちゃうよ」
「え、ええ」
私はそう言うしかなかった。
それ程圧倒される程のオーラを持っていた。
この人一体何なの?
◇
放課後俺は一人鞄を持って帰ろうとする。
そんな時、住沢が声を掛けてきた。
「一緒に帰ろうぜ」
「あ、ああ」
「どうした。今日朝から様子変だぞ」
「そ、そうか」
「もしかしてだけど黒羽さんが関係してる?」
相変わらず凄いな。これだけ察しが良ければ将来に困ることはないだろうな。
出世も早そうだ。
「ああ。だけど今は話す気になれない」
「そっか。なら無理に聞かない。話したくなったら話せよな」
「それでいいのか?」
「だって話したくないんだろ」
「そうだけど」
「ならいい」
「ありがとう」
俺は今日の心に抱えていた闇が少しだけ友達のお陰で晴れた気がした。
ああ住沢は本当にいい奴だな。
「じゃあな猫屋敷。後で連絡するわ」
「ああ。じゃあな」
俺は住沢と別れて信号を渡る。そんな時だった。
背後から声が掛かる。
「出雲君私から逃げてる?」
「逃げてない。ただお前の顔は見たくないんだ」
「あの日私が責任を果たさず逃げたから」
「つっ――」
俺はつい心に怒りが込み上げる。
それを冷静になった自分が飲み込んだ。
「お前何でこの高校に編入してきた」
「あの時逃げてしまったからかな。出雲君を置いて」
「今更贖罪のつもりか? 笑わせるな」
「やっぱり怒ってるんだね。まあ仕方が無いか。私が出雲君の立場だったら絶縁してるしね」
黒羽燐は自虐的な笑みを浮かべた。
その笑みを見て心が痛くなった。
「一言謝りに来たんだ。その為にこの高校に編入した訳。水族館では勇気がなかったからね」
「聞きたくない。それはお前の自己満足だ」
「そっか。じゃあやめとく。自己満足で自分だけ罪の意識から逃れようとするのはずるいもんね。じゃあね出雲君。また明日学校で」
そう言って黒羽燐は俺から離れようとする。
だが俺は自然と理由は不明だが彼女の腕を掴んでしまった。
「どうしたの出雲君!?」
「仕方が無かったんだろ?」
「それを肯定したらきっと私は更に性格が悪い女の子になっちゃうよ」
「それでもいい。仕方が無かったんだろ」
「…………ごめん行くね」
「おい!」
俺が掴んだ腕を振り払い黒羽燐は俺の視界から姿を消した。
「俺は一体どうすればいいんだ」
俺はその場から暫く動けなかった。
白雪舞花side
「やっほー黒羽燐ちゃん」
「誰ですか?」
「私は白雪初音の姉で出雲君の良き相談者だよ」
「へえーそうですか。ごめんなさい今そんな気分じゃないので」
「少しだけ話そうよ」
「警察呼びますよ」
「それは困るなー」
「というかどうして私の家知ってるんですか?」
「ちょっと凄い知り合いがいてね。教えて貰ったんだよ」
「はあ~。日本にプライバシーなんかないんですね」
「君は有名人だからね仕方が無いよ。有名税って奴」
「いいですよ。中に入ってください。大したものは出せませんけど」
「本当にいいの?」
「それが目的で来たんですよね」
「そうだけどさ。君が嫌なら無理強いしないよ」
「構いませんよ。但し他言無用でお願いします」
「うんうん。お姉さん約束するよ」
「助かります」
黒羽燐は私を高層マンションの自宅に入れてくれた。
初対面の人入れるってこの子大丈夫かな?
まあ出雲君の名前を出したからだろうけど。
(さてどんな事が聞けるかな)
私は黒羽燐の家に足を踏み入れた。
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