第十九話 黒羽燐

 俺は白雪とデートした翌日普通に登校する。

 体育祭の賑わいはすっかり終えており、通常通りの学校生活に戻っていた。

 だが少しいつもと空気が違うような。


 「おはよう猫屋敷、昨日はどうだった?」

 「あ、ああ楽しかったよ」

 「何かあったな」

 「ま、まあな」


 住沢は空気が読めるし、勘が鋭いしで誤魔化しても無駄だろう。

 だけど正直に話す気にもなれなかった。

 だって何て話せばいいか分からないから。


 「後で聞かせろよ」

 「あ、ああ」

 

 俺がそう言って席に着くと、複数の生徒がざわついているのを確認する。

 そう言えば普段通りの筈なのに、結構ざわざわしてたな。


 「晴彦知ってたか。今日編入生がやって来るんだってよ。しかもかなりの美少女らしいぞ」

 「へえー。初耳だな」

 「何故か知らないけど本人の意向で情報が伏せられてたらしいぞ」

 「いい奴だといいな」

 「ああ、超絶胸が大きく可愛い子だったらいいなー」

 「ははっ」


 住沢と話しているのは工藤。

 住沢に良く話しかけている陽キャだ。

 少し茶髪がかったベリーショートの髪型である。


 「だってよ猫屋敷」

 「興味ない」

 「お前は一筋だもんな」

 「何かを壮絶に勘違いしてるぞ」

 「そうか?」

 「そうだ」


 俺と住沢が茶化し合い話してるのを見て、工藤が首を傾げながら会話に割って入る。


 「最近晴彦、猫屋敷とよく話すよな」

 「ああ友達になったんだよ。な、猫屋敷」

 

 俺はコクリと頷いた。

 別に間違っては無いからな。

 実際こいつはいい奴だし、入学してから遊んだり、助けて貰ったりもした。

 だから友達なのは間違いない。


 「じゃあじゃあ俺も猫屋敷と友達になるわー」

 「は!?」

 「だって晴彦が友達認定するなら絶対いい奴でしょーが。ただのオタクだと思ってたけどいい奴なんだなー」

 「いや別にいい奴ではないけど」

 「まあまあ兎に角今日から友達なー。よろしくー」

 「あ、ああ」


 こうして俺は同じクラスの工藤と友達になった。

 はあ~面倒くさい。


 そして工藤と友達になった時、先生が教室の扉を開けて入って来る。

 そして鐘がなる。


 「えー今日はお前たちに大事な報告がある」

 

 クラス中が待ってましたと言わんばかりにざわつく。


 「やっぱりあの噂本当だったんだ」

 「どんな子なのかな。かなり可愛いって言うけど」

 「いい子だといいなー」

 

 クラス中の生徒が小声で話し合う。

 どうやら編入生に過度の期待をしているようだ。

 ああ編入生可哀そう。俺なら耐えられないわ。


 「じゃあ入れ黒羽」

 「はーい」


 黒羽? 聞き覚えのある苗字だな。

 まあよくいる苗字か。

 教室の扉をゆっくり開けて入って来た瞬間、教室中がざわつく。


 「え、嘘。あの黒羽燐!?」

 「嘘嘘。あの有名ラノベ作家の黒羽燐がうちの高校に!? なんで」

 「凄い。私大ファン」


 教室に入って来た編入生を見て俺は驚きが隠せず、つい激しい音を立てて席を立った。

 それに教室中の生徒全員が反応する。


 「どうした猫屋敷。何かあったか?」

 「い、いえ。何でもありません」

 「そうか。なら座れ」

 「は、はい」


 俺は心臓がバクバクいいながら自分の席に座った。

 何で黒羽燐がこの高校に!?

 俺は昨日の言葉を思い出す。

『じゃあねー。近いうちに会えるよ私達』

まさかあの言葉って!?


 「今日からこの高校で学ぶ黒羽燐です。宜しくお願いします」


 綺麗な艶が入った茶髪のロングストレート。大きなつぶらな茶色い瞳。整った睫毛。くっきりした鼻梁。白雪初音に負けずとも劣らない美少女。

 更に有名ラノベ作家というステータス付きだ。

 誰もが魅了されるのは仕方が無いだろう。


 「じゃあ黒羽は猫屋敷の隣の席な」

 「はーい」


 な!?。

 くそ、俺よ落ち着け。

 別にもう彼女とは何もないんだ。

  普通にしてれば問題ない。


 「ほらまた会えたでしょ出雲君」

 「お、おはよう。初めましてだね黒羽さん」

 「ふーん。そういう感じなんだ」

 「いつもこんな感じだから」

 「そっかー。分かった宜しくね猫屋敷君」

 「あ、ああ」


 こうして衝撃の月曜日が幕を開けた。


          ◇


 白雪初音side


 私は驚いた。

 黒羽燐という名前を聞いて。

 何でって思った。


 (何でうちの学校に来てるの?)

 

 思考がもうついて行けなかった。

 今出雲君はどんな顔してるだろうか。

 だって絶対彼女に会いたくない筈なんだ。

 私の勘違いでなければ。


 (姉さんに連絡しよう)


 白雪初音はスマホを隠れて弄った。

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