第十七話 初デートその1

 俺は待ち合わせの時刻である九時の三十分前に着く。

 少し早すぎたかなと思った時、俺の視界に白いワンピース姿で薄ピンク色のミニスカートを着用したサングラスとマスク姿の美少女がそこには居た。

 変装してもオーラを感じるのは流石有名人だな。


 「早いな白雪」

 「ええ、待たせるのはよくないわ」

 「何分前から待ってたんだ?」

 「出雲君とそんなに変わらないわ」

 「そ、そうか」


 絶対早く来てたな。

 まあ追及はしないでおくが。

 しかし変装してても可愛いな。相変わらず天使である。

 

 「じゃあ行くか」

 「デートプランは決めてくれたの?」

 「ま、まあ一応な」

 「ありがとう出雲君嬉しいわ」


 昨日一日寝ないで考えたよ。

 白雪が好きそうな所を姉の白雪舞花に聞いたり、好きな映画のジャンルとかを妹の白雪加恋に聞いたりな。加恋は今度デートする約束で教えてくれたが。


 「先ずは水族館でも行くか」

 「ええ」


 白雪は魚が好きだと舞花が言っていた。

 だから水族館に行くことにした。

 幸いそこまでは混雑しないと事前に情報を調べてきた。


 「ねえ出雲君。体育祭どうだった?」

 「住沢にパス出してるだけだった」


 バスの中で白雪は俺に密着してくる。

 俺は凄いドキドキの中何とか質問に答える。


 「ドリブルしなかったの?」

 「バスケなんて授業以外やらないからできないって。帰宅部なのに無双できる住沢が凄すぎるんだよ」

 「住沢君は確かに凄いわね。でも出雲君はもっと凄いわよ」

 「そ、そうかありがとう」


 今日はいつも以上にご機嫌だな。

 まあ楽しんでくれれば何よりだが。


 「他には何やったの?」

 「応援合戦とかリレーとかコスプレ玉入れとかかな。勝ったのは俺達紅組だよ」

 「楽しそうね。来年は参加できるといいな」

 

 白雪が羨ましそうな表情で俺の目を見て語る。

 殆どの生徒連中は白雪の方を羨ましがるだろうけどな。

 まあ男子は住沢以外、俺を羨ましがるだろうが。


 「ラジオだけでなく独占インタビューの収録だったんだろ?」

 「ええ。かなり緊張したわ」

 「白雪でも緊張する事あるんだな」

 「あるわよ。私を何だと思ってるのかしら出雲君」

 「うーん俺のお嫁さん。って冗談――」


 俺が冗談で言うとすぐ横にいる白雪が顔を真っ赤にさせて俯いていた。

 俺の左手を握って。


 「…………」

 「…………」


 その後は沈黙の中水族館まで向かった。

 ああ恥ずかしい。


            ◇


 水族館の中で色々な魚を見る。

 目の前にいる魚はアカモンガラ。名前は赤なのに、見た目は濃い青をしている。

 全く矛盾してる奴だ。

 だが同時にこの魚が喋れるならこう言うだろう。


 『いやお前も外側から応援したいとか言っておきながらデートして楽しんでるじゃないか』と。

 

 いや全く以てその通りである。でもそれでも俺は――


 「ねえ出雲君、私色々見たいんだけどいいかな?」

 

 いつもの白雪からは想像できないテンションの高さでキラキラ目を輝かせながら俺に言う。


 「いいよ。一緒に見るか」

 「うん」


 俺達はこうしてワニとかカクレクマノミとかネムリブカとかメジャーな生き物からマイナーな生き物まで見物した。

 そして残るはイルカショーである。


 「前の方だと濡れるから後ろに行くか?」

 「一応カッパ買ったけど、後ろがいいわ。変装が解けたら嫌だもの」

 「そうだな。知名度更に上がってるもんな」

 「いい事だけじゃないわね」

 「それだけ白雪が凄いって事だろ」

 「ありがとう出雲君」


 白雪は俺の言葉に心底嬉しそうにしていた。

 有名税だから嫌な事もあるよな。

 俺でさえ生放送で誹謗中傷されることも普通にあるし。

 白雪だってプライベートの時間くらい欲しいよな。


 「本日はイルカショーをご覧いただき誠にありがとうございます。それではゲストの加子ちゃん、イルカさんたちに指示してみて」

 「はーい」


 小さな女の子がイルカに指示するとイルカは指示通りに動いた。

 一斉に飛んだり、潜ったり三匹のイルカが意思疎通が出来ているような連携を見せている。

 凄いなこのイルカ達。

 隣の白雪も楽しそうに真剣に見ている。

 俺の手を繋ぎながら。


            ◇


 「楽しかったわね出雲君。私ちょっとお手洗いに行ってきていいかしら」

 「ああ、じゃあここで待ってるな」

 「ありがとう」


 イルカショーが終わって昼目前になっていた。

 白雪はトイレに行った為現在一人である。

 スマホでも弄ろうかな。


 「あれ出雲君じゃん。こんな所で何してるの?」

 

 俺が名前を呼ばれて振り返るとそこには思い出したくもない少女が居た。

 名前は黒羽燐。

 濃い茶髪のロングヘア―の美少女。

 青いパーカーにジーンズと随分ラフな格好だ。


 「誰だっけ?」

 「えー酷いね。私の事覚えてないの?」

 「…………」

 「一人で水族館? 流石にそれはないよね」

 「茶化すために声かけてきたのか?」

 「もしかして怒ってる? まあ当然だよね」

 「別に」

 「この後暇?」

 「暇じゃない」

 「そっか。でも出雲君にも水族館来るような友達出来たんだね。よかった」

 「つっ――ああ、中学時代とは違うんでな」

 「そっか。あ、最後に一ついい」

 

 凄く嫌な予感がした。

 思わず耳を塞ぎたくなった。


 「私は今でも出雲君が好きだよ」

 「え!?」


 その言葉を黒羽燐は言った。

 そしてトイレから出てきた白雪初音がその言葉を聞いた。

 

 「じゃあねー。近いうちに会えるよ私達」


 そう言って黒羽燐は姿を消した。

 

 「白雪!? 違うんだ今のは」

 「あの人誰?」

 「中学の同級生だ」

 「あれが出雲君をぜ――」

 「昼飯食べようか」


 俺は白雪に続きの言葉を言わせないようにして、手を握って水族館を出た。

 今日俺は会いたくなかった人物に出会ってしまった。

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