第十六話 初デートの約束
体育祭の準備が始まって二週間ほどが経過した。
早い物でもう直ぐ体育祭が始まろうとしていた。
俺は全く嬉しくないのだが。
スポーツなんてやるより見てる方がいいに決まっている。
これは俺の持論だが運動なら別にスポーツじゃなくてもいいだろと思ってしまっているのだ。特に騎馬戦なんて危ないだろうが。
『出雲君ちょっといい?』
『いいけどどうした白雪?』
『大事な話があるの』
『分かった。旧校舎に行くよ』
『お願いね』
どうしたんだろうか? いつにも増して真剣なチャットな気がするが。
まさか仕事で何か悩み事か? 一ファンとして出来ることは全力でしよう。
◇
旧校舎の空き教室に急いでやって来た俺はもう既に白雪が居ることに気が付いた。
相変わらず綺麗な佇まいだな。目の保養になる。
「出雲君どうしよう?」
「どうした白雪?」
涙目になりながら俺に弱音を吐く白雪。
正直滅茶苦茶可愛い。心臓がバクバクいっている。
鎮まれ心臓よ。あ、止まったら駄目だぞ。
「私体育祭に出られなくなった」
「え!? 怪我したのか?」
俺は焦る。まさか怪我をしたのかと。
でも普通に歩いてるし、違うよな。
手にも怪我はなさそうだ。
「怪我じゃないわ。仕事よ。急遽声優としての仕事が入ったの」
「そうか。でも単位日数は大丈夫だろ。進級できる筈だ」
「単位は大丈夫だけど、出雲君の活躍が見れなくなるわ。どうしよう」
ああ成程ね。それでこの世の終わりみたいな表情をしていた訳か。
でも大丈夫です白雪。俺は体育祭活躍などしないので。
「安心しろ。俺は帰宅部だ。活躍しないから」
「出雲君意外と運動できるの知ってるわ」
あ、そこまで知ってたんですね。昔アニメの影響でジョギング筋トレしまくってたからな。
意外と帰宅部なのに運動できるのだ。
「仕事はキャンセルできない。けど出雲君の活躍姿も見たいわ。どうしたらいいかしら?」
どうしたらいいと言われてもな。体育祭に出られないのは仕方が無いし、他に白雪の為になりそうな事は……あった。
だがこれは外側から応援したい俺が口にしていいのか?
いやこれも一ファンとして元気になってもらいたい為の活動だ。
割り切ろう。
「じ、じゃあ俺と出掛けるか?」
「デ、デートって事!?」
「あ、ああそうとも言えるな」
「行く行く」
凄い立ち直りの速さだ。そして凄く顔が近い。
だがやっぱり元気になってくれた、よかった。
声優アイドルとしての白雪初音が見られなくなったら俺としては凄く悲しい。もしかしたら立ち直れないかもしれない。それぐらい大ファンなのだ。
「いつ行くの?」
「そうだな。体育祭が今週の土曜日だからその翌日の日曜日はどうだ? 予定空いてるか?」
「ちょっと待ってスケジュール確認するわ」
白雪はスマホをガン見している。どうやらスケジュール帳アプリでチェックしているようだ。そして一分ほど経過した後、凄い可愛い満面の笑顔で顔を上げた。
「空いてるわ。出雲君」
「じゃあその日デートするか」
「うん」
こうして俺は白雪初音と恋人でもないのにデートする事になった。
これは一ファンとしてだからな。決して恋愛感情があるわけではないのだ。
◇
そして体育祭当日がやって来た。凄い憂鬱だ。
当然白雪初音は欠席した。男子からは凄いこの世の終わりみたいな声が木霊したが、人気声優なんだ仕方が無いだろう。
「白雪さんのスポーツ姿見たかったな」
「白雪さんがいれば凄い華があったのに」
「この衣装折角作ったんだけどね。でも人気声優だし仕方が無いよね。私達も頑張ろうか」
俺達一年A組は白雪初音不在を嘆きつつも体育祭を行った。
俺はバスケットボールで住沢にパスだけをしていた。
何せ帰宅部の癖に住沢は運動神経抜群なのだ。
「勝ったな猫屋敷」
「相変わらず凄いなお前。何でも出来るじゃん」
「いやいや何でもは出来ないって。現にお前に相談しただろ」
「まあそうだけど」
バスケやバレー、騎馬戦、応援団の応援などが終わって残るは何故か鳳桜学園特有のコスプレ玉入れだけだった。
玉入れなんて時間の無駄だろうが。しかも訳わからないコスプレさせられてるし。
これ特撮ですか? 俺の専門外なんですが。
「似合ってるよ猫屋敷君www」
「泉、絶対に馬鹿にしてるだろ。お前だって変な被り物じゃねえか」
「これは、今巷で有名なマスコットキャラだよ。人気があるの」
「そうなのか知らなかった」
俺と泉が玉入れしながら喋っていると体育祭に真剣になっている生徒からきつい睨みが飛んできた。
ううっ、真剣にやろう。
その後クラス対抗戦の結果が発表され、優勝は俺達紅組だった。
きっと二、三年や住沢などが頑張ったんだろうな。後白雪に告白して粉砕した石田とかも。
まあ俺は結局陰キャらしく影が薄いまま、幽霊のようにいただけなんですが。
何はともあれ体育祭は無事に終了した。
◇
体育祭終了後、住沢と泉と桜坂と帰っていた。
桜坂は「白組負けたけど来年は負けないもん」と言っていた。
どうやら彼女は何に対しても真剣な素晴らしい人間のようだ。
「明日空いてる人―」
泉が急に少し大きな声で俺達に告げた。
「どうしたんだ泉?」
「何となく暇だから出掛けない。このメンバーと初音ちゃん誘って」
「俺はいいけど、他は」
ああ俺は無理だ。何せ明日は白雪とデートですから。
だがデートとは泉の前では言えない。
さてどうしよう。
「私もいいよ。明日は仕事もないし」
「オッケー。猫屋敷君は?」
俺に全員の視線が向けられる。
ううっ、胃が痛い。断りづらい。
だが断るしかないだろうな。
「俺は明日予定があって無理かな。ごめんな空気読めなくて」
「いいよいいよ。じゃあまた今度にしようか」
「いや、俺抜きで遊びに行けばいいんじゃないか。ま、まあ白雪は仕事があるかもだけど」
「うーん、どうしようか晴彦?」
住沢は俺に耳元で告げる。
「明日白雪と予定あるんだろ?」
「何で知って!?」
「何となく表情で分かる」
「凄いなお前。エスパーじゃん」
「取り敢えず断っておいてやるよ。もし俺達が出かけて偶然出会ったらやだろ」
「あ、ああ。頼む」
住沢何ていい奴なんだ。
俺はもうお前なしでは生きていけないかもしれない。
灯里が惚れるのも納得だわ。
お兄ちゃんが許す。
「あ、悪い。やっぱり俺も無理だったわ。明日は予定があるから」
「ええー。そっかー。じゃあまた今度だね」
「そうだな。今度またこのメンバーと白雪で遊ぼうぜ」
「うん、そうだね」
俺はこうして難を逃れることに成功した。
さあ明日は白雪と初デートだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます