第十五話 住沢晴彦の相談

 「いよいよ体育祭の時期が近づいて来た。体育祭準備委員を始め皆で頑張ろう。ま、私は面倒だがな」


 夢川瀬奈。高校教師で数学担当。

 黒髪のロングストレートで容姿端麗である。校内一美人と生徒や他の教師から言われる美人教師だ。

 本人はやる気なしで、教師に向いているとはとても第三者から見て思えないんだが。


 「クラス対抗でバレーとかバスケットボールとかをやる。振り分け行うぞ」


こうして体育祭の種目振り分けを行った。まあ俺は完全受け身で適当に配置されるだけなんだが。

 こうして俺はバスケットボールに振り分けされた。種目の練習が必要だから放課後残らないといけない。はあ~体育祭なんかどうでもいい。休みたい。


                ◇


 放課後俺は嫌々とバスケの練習をする為体育館へ移動しようとするが、一人のイケメン陽キャに声を掛けられる。


 「猫屋敷、放課後空いてるか?」

 

 住沢晴彦に声を掛けられる。他の生徒から多大な人気を誇っている住沢は俺に声を掛ける今も周囲に人が集まっている。


 「いいけど、今日から体育祭の準備だろ。俺はバスケットボールの練習あるぞ」

 「俺もバスケだから、一緒にサボれる。な、少しだけ相談があるんだ」

 

 住沢が俺に相談ね。またゲーム選択かな。

 まあ練習よりは断然いいけど。


 「いいよ。サボる理由は体調不良でいいよな」

 「ああ。サンキュー猫屋敷」


 さっきから周囲の人に聞かれないように小声でやり取りする俺達。

 そして住沢は他のバスケの練習のメンバーに「ごめん、何か体だるくて念のため今日一日大事取るわ」と言って俺を連れて教室を出ていく。

 他の生徒は「住沢君が体調不良だって。お見舞い行った方がいいかな」「大丈夫かな」とか心配されていた。同じ理由で告げた俺には携帯のチャットで心配してくれた白雪と「大丈夫?」と言ってくれた泉だけだった。何か世の中不公平じゃないですか?


              ◇


 「それで相談って何だ?」


 近くのファミレスに入った俺と住沢。

 アイスコーヒーを注文して席に腰かけている。


 「お前の妹の灯里ちゃんいるだろ?」

 「ああ、いるけどどうした?」

 「俺さ妹とネトゲ始めたんだよ」

 「へえーそうなんだ。意外だな」


 まるで相談内容が読めませんが。

 一体ここから俺に何の相談なんだ?

 妹の灯里が何の関係が。


 「俺の妹さ。正直ブラコンなんだよ」

 「え!? 何それ羨ましい」

 「はははっ、羨ましいか。気持ち悪がられるかと思ったわ」

 「いや普通に妹に好かれるっていい事だろ。俺の妹なんて冷たすぎて酷いぞ」

 「灯里ちゃんいい子だろ」

 「ま、まあな」


 アイスコーヒーが店員によって運ばれてくる。

 俺はそのアイスコーヒーを一口ストローで飲んだ。


 「前にさ妹がクラスに馴染めてなかったって言ったろ。あれさ俺の責任なんだよ」

 「住沢の責任?」

 「ああ。自分で言うのもなんだが俺の事が好きすぎてクラスの奴より俺といる時間を優先してたんだよ。そしたら馴染めなくなってさ。まあ今はゲームの事がきっかけで少しずつ馴染めて来てるけどな。といってももう中学三年だから別々になるけどな」

 「そうかそれは大変だな」


 しかし妹にこれだけ好かれるってどんだけ住沢いい奴なんだよ。

 若しかして灯里が俺に懐かないのって俺が嫌な奴だからか?

 ああ、考えるのやめよう。何か悲しくなってきた。


 「まあそれは分かったが、ネトゲの件や灯里と何の関係が?」

 「レッドタートルってネトゲ知ってるか?」


 レッドタートルだと!? 今流行りの最も評価の高いMMORPGじゃないか。

 つい最近そこでVtuberのYUIさんと出会ったぞ。


 「俺もプレイしてるけど」

 「本当か!? なら助けてくれ」

 「何を?」

 「お前の妹の灯里がそのネトゲを本名でプレイしてる。それで偶然俺とフレンドになって、俺に「相変わらず素敵ですね」とか「住沢先輩かっこいいですね」とかチャットで送って来る。それを妹に見られた。今現在修羅場ってる」

 

 俺は余りの事に思考が暫く停止する。

 あのう灯里さん。貴方何やってるんですか。本名なんて危ないでしょうが。

 それに凄い面倒ごとに巻き込まれてる目の前の住沢を見て俺は正直気の毒に思った。


 「つまり簡単に要約すると灯里のせいで住沢の妹が嫉妬に狂ってると言う事か?」

 「そう言う事だ。灯里ちゃんも本気じゃないんだろうけど、俺の妹は本気にしてる」

 

 いやあどうだろうな。灯里って面食いだから、住沢に本気で惚れてても可笑しくないぞ。

 兄を差し置いて他の男に好意を見せるなんて、お兄ちゃん悲しいぞ。そんな娘に育てた覚えはありません。

 まあ妹なんだが。


 「兎に角猫屋敷から灯里ちゃんにそれとなく止めるように言ってくれ」

 「それはいいが、ていうか何で灯里が住沢だって知ったんだ?」

 「うん? それは俺も本名でプレイしてるからだけど」

 「今すぐプレイヤーネーム変えろ」

 「はい」


 俺の本気の言葉に住沢は敬語になった。

 初めて俺が上に立った瞬間かもしれない。


              ◇


 「灯里ちょっといいか?」

 

 俺が灯里の部屋をノックする。

 すると不機嫌そうな灯里が部屋から出てきた。


 「何お兄ちゃん。私今勉強中なんだけど」

 「ああそれは悪い。でも少しだけ重要な話があるんだ」

 「いいよ。入って」

 「あ、ああ」


 何で妹の部屋に入るのに緊張しないといけないんだろうか。

 でも実際入るのって結構久しぶりだよな。

 棚には少女漫画、参考書などが並んでいた。

 ネイルの道具や化粧の道具などもある。

 使ってるかは知らないが、今どきの中学生は化粧もするものなのか?

 しなくても灯里は十分可愛いと思うのだが。


 「それで話って何?」

 「住沢晴彦知ってるだろ?」

 「そりゃあね。住沢先輩カッコいいし」


 俺は緊張した様子で丸いテーブルの前に座って話をする。

 女子特有のいい匂いがする。床に敷いてある絨毯もフカフカだ。


 「ネトゲで知り合ってるだろ?」

 「何でお兄ちゃんが知ってるの!?」

 「ああ、いや俺もそのネトゲやってて住沢とフレンドだから。偶然な」

 「そ、そうなんだ。で、それが何か?」


 言いずれえ。めっちゃ空気が重いんですが。

 ロリ母助けてください。


 「先ず本名でプレイするのやめろ。危ないから」

 「あ、うん。ごめんゲームとか余り詳しくなくて」

 「後で変えろよ。それと住沢に素敵とかカッコいいとか茶かすのやめろ。ちょっと住沢困ってる。住沢も完璧超人じゃないぞ」

 「分かった。今度から気を付けるね。話はそれだけ?」

 「あ、ああそうだけど」

 「因みにお兄ちゃんのプレイヤーネームは何?」

 「え!? ダークキャットだけど」

 「ふーんそうなんだ。分かった。私勉強があるから出て行ってくれる」

 「あ、はい」


 俺は気まずさの中部屋から出る。

 あれ? 意外と灯里の奴素直に受け入れたな。

 住沢の事好きじゃないのか?

 

 「まあいいや取り敢えず解決したし」


 俺はその事を住沢に伝えた。


 『ありがとうな猫屋敷。この恩は忘れない』

 『いや大袈裟だから。別にいいよ』

 『あ、それとプレイヤーネーム変更したからな』

 『ああ』

 『あ、そうだ猫屋敷のプレイヤーネームは?』

 『ダークキャットだ』

 『フレンド申請しとくな』

 『あ、うん』


 こうして俺は住沢の悩みをまた一つ解決してしまった。

 イケメン陽キャって大変なんだな。

 まあ俺も最近複雑な人間関係を構築してしまっているんだが。


 「さてラノベ読もう」


 俺はベッドに座ってラノベを読み始める。

 今日読むラノベは『僕だけが知っている最強の剣』という某新人賞で銀賞だった作品だ。

 さあ一気読みだ。

 俺は今日も現実逃避に励むのであった。

 オタクサイコー。

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