第十四話 念願のライブ
白雪加恋との勉強会が無事終わり数日が経とうとしていた。
『やっほー出雲君。元気にしてる?』
『何で俺の連絡先知ってるんですか!?』
『買ったんだよね。君の連絡先』
チャットの送り主は白雪舞花。
どんなルートで俺の連絡先を入手したか知らないが、どうやら俺の個人情報は売買されているらしい。
どれぐらいの値段なんだろうか? 一割でいいんでください。
最早そんな事を思うくらい突っ込む気になれなかった。
『それで何の用件ですか?』
白雪家は正直恐ろしい人間の集まりだ。
できれば深くは関わりたくないのだが。
『相変わらず嫌われてるねー。初音ちゃんのライブの件だよ』
『ライブ?』
『魔法少女リルカのイベントでライブが行われるでしょ。それのチケット出雲君当選した?』
そのライブか。勿論――外れたよ。
何だよちくしょう、腹立つな。俺がどれだけ魔法少女リルカを愛してると思ってるんだよ。
リルカの踊りまで完璧だぞ。
白雪も結局チケット取ってくれなかったしな。
『落選しましたよ。それが何か?』
『やっぱりねー。あれは倍率凄い高いからね。因みに私は当選したよ』
『嫌味を言うためにチャットしたんですか? 今すぐブロックしますね』
俺はチャットの白雪舞花をブロックする。
ふー今日も一日平穏で過ごせそうだ。
トゥルートゥルーランララン♪
トゥルートゥルーランララン♪
俺の携帯から魔法少女リルカの主題歌の着信音が流れる。
電話の相手は勿論白雪舞花だ。
くそ、電話番号まで知ってやがるのか。
「酷いね君。本当にブロックするなんて」
「陰キャでダメージ耐性ないんで」
「嫌味言うために私がチャットする筈ないでしょ」
「どうだか?」
「ははっ、本当に君から信用を得られてないね。君にプレゼントしようと思ってね」
「何をですか?」
どうせろくでもない物だろうな。
時限爆弾だったりして。若しくは危ない薬とか。
ああ怖い。着払いで送り返そう。
「魔法少女リルカのチケットだよ。実は二枚当選したんだ」
「本当ですか!?」
俺は先程の思考を一瞬で払い捨て、白雪舞花の言葉に食いつく。
「おっ乗って来たね。本当だよ。どうかな私と一緒にリルカのイベント行かない?」
「アニメに興味あったんですね」
「まあね。それに可愛い可愛い妹の初音ちゃんが出てるしね」
ここは行くしかないだろう。何せあの倍率の高い魔法少女リルカのイベントだ。しかもライブも同時に行われるのだ。ファンなら垂涎の代物だ。
「行きます。お金は払いますんで」
「いいよいいよ。それより君の答えを聞かせて貰いたいな。じゃあ今週の日曜日迎えに行くからね。夜の部だから帰りもちゃんと送るから安心してよ」
「答えなんてもう知ってる癖に」
「ははっ、そうかも」
俺はこうして白雪舞花と魔法少女リルカのイベントに参加することになった。
日曜日まで眠れないぞ。
リルカサイコー。
◇
「凄い荷物だね」
「色々グッズ買ったりするんで」
「奢ろうか?」
「いいです。自分で買ってこそなので」
「そういう世界なんだね」
「そうですね。舞花さんもオタクになれば分かりますよ」
「生粋のオタクになったら出雲君と付き合えるのかな?」
「それはないですね」
「残念」
俺は白雪舞花の車で某県某区のある大きなドームのイベントに向かう。
凄い楽しみだな。やっぱりイベントはライブはいいよなー。
昨日は全然興奮して眠れなかったぜ。
「君はリルカが好きなの?」
「好きですね。あ、でも一番はシャルカかもしれないです」
「ああ、あのミステリアスな黒髪の」
「そうです。意外と知ってるんですね」
「まあそこそこは」
イベント会場について本人確認を行い、中に入る。俺は同行者としてウキウキで着いていく。
「席に座ろうか」
「その前に物販でグッズ購入するんで先座っててください」
「あ、私の分も宜しくね」
「分かりました。好み分からないんで俺と同じのでいいですか?」
「それでいいよー」
白雪舞花は席に座ってスマホを弄っている。
俺は人混みを掻き分けて、長い行列の最後尾に並んだ。
さてグッズ買うぞ。
◇
白雪初音side
『ちょっと姉さん出雲君と何でいるの?』
『彼落選したから私が一枚チケット譲ったんだ。二人で応援してるから頑張ってね』
聞いてないわ。そんな事。
出雲君の前だと凄い緊張して駄目かも。
『ま、まあそれは嬉しいけど』
『どんな衣装か楽しみだな。朗読会とか楽しみなんだよね』
『緊張するようなこと言わないで』
『プロなら緊張しても本番ではファンの為に仕事するものだよ』
『分かってるわよ。じゃあまた後でね』
ああどうしよう心臓がバクバクする。
出雲君がいるんだこの会場に。
どうしよう、視線が合ったら。
「初音ちゃん、そろそろ開演するよ」
「は、はい」
ああもう、私しっかりしないと。
出雲君はリルカの大ファンなんだ。
失望させたくない。
◇
「すみません開演ギリギリで」
「いいよいいよ。それより結構買ったね。お金大丈夫?」
「大丈夫です。こう見えて稼いでるので」
「へえー、それって例の――」
白雪舞花が何かを言おうとしたところで、魔法少女リルカのイベントが始まった。
そして声優のコメンタリーや朗読会などが始まって終わる。
俺の好きなシャルカ役の声優、輝絵梨さんも熱演してくれた。
そして最後に魔法少女リルカの主題歌のライブが始まった。
『輝けムーン。響けマインドに~』
俺はステージ中央で堂々と笑顔で楽しそうに歌っている白雪初音を見て心底見惚れた。
とても輝いていて美しかった。
一瞬視線が合ってドキドキした。
向こうも少し頬を赤らめていた。
「まだまだリルカは活躍しますので宜しくお願いしまーす!」
こうして数時間のイベントは体感時間一分にも満たない速さで幕を閉じた。
ああオタクで良かった。
◇
「イベント凄かったね。初音ちゃんも一緒にと思ったけどマネージャーが送るんだって。まあこのあと打ち合わせとかあるそうだしね」
「そうですね。リルカ凄かったです。そして白雪も」
「喪失感と高揚感に襲われてる顔だね。どっか寄ってく?」
「いえ、大丈夫です。近くで降ろして貰えれば」
「そこは家まで送るよ。それで答えは?」
白雪舞花が信号待ちの中答えを聞いてくる。
俺はもう心に決めていた。
「やっぱり俺は外側から応援していたいです。オタクなので」
俺は満面の笑みで答えを出す。
「そっか。でもそれは修羅の道だね」
「そうですね。白雪を傷つけるかもしれない。でも俺には白雪のパートナーになれる気はしないです。だって彼女はあんなに輝いていて、一方俺は――」
俺が続きを言おうとした瞬間、白雪舞花は車を止めて俺に寄りかかってくる。
「何してるんですか?」
「何か青春っていいなあと思ってさ」
「中高時代に幾らでも舞花さんなら青春できたでしょ」
「こんな青春は出来なかったかな。誰かに本気で思い思われるってなんかいいよね」
何となくその言葉が俺の心に響いた。そして脳裏から離れなかった。
「舞花さんにもいい人できるんじゃないですか?」
「出雲君、もしかして口説いてる?」
「口説いてません。性格が好みでないので」
「容姿は好みなんだ」
「否定はしません」
「ははっ、やっぱり面白いね君。私も応援してるよ今のところは」
「どういう意味ですか?」
「さあ教えない」
その後沈黙したまま俺は家まで送ってもらった。
リルカのグッズ代はしっかり受け取って。
代わりにチケット代はしっかり支払って。
◇
白雪初音side
「ああ出雲君と視線合っちゃった」
私はステージで歌ってるとき、朗読会をしてる時、常にプロとして意識していた。
だが一瞬だけ視線が合ってしまった。
その時、異常な心臓の高鳴りを感じた。
そして同時に改めて私は思った。
「ああやっぱり私は出雲君が大好きだな」
帰りのマネージャーとの会話は上の空だった。
イベントの達成感と高揚感が余計に出雲君を輝かせて脳裏に映してくる。
楽しそうだったな出雲君。
やっぱり外側から応援したいのかな。
「ううん。私は出雲君のお嫁さんになるの」
私はマネージャーに聞こえない小声でそう呟いた。
そしてイベントは無事に終わった。
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