第十三話 誤った選択
俺は午前中の授業を終えて、昼休みの鐘が鳴ると同時に旧校舎へと向かった。
理由は白雪に呼び出されたからだ。
『あれから加恋と何かあった?』
『まあ色々と』
『話を聞かせて貰うわ。旧校舎の音楽室で待ち合わせよ』
『また行くのか? 遠いんだが』
『屋上でもいいけど万が一誰かに見られたら不味いわ』
『分かった行くよ』
『流石出雲君。私の旦那さんなだけあるわね』
いつものやり取りを終えて俺はため息をつきながら教室を出た。
◇
「今日は出雲君の方が速かったわね。お嫁さん失格だわ」
何故か落ち込んでいる白雪。たかが一分にも満たない差でここまで落ち込むのは白雪ぐらいだろう。そして未だに俺のお嫁さんだと豪語している。
最早何を言っても俺のお嫁さんになる気なんだろうな。
だが俺はオタクでいたいので外側から応援したいんだが。
「白雪、旧校舎に来ること誰にも言ってないよな? 見られてもないよな?」
「大丈夫よ。そこは抜かりないわ」
「そうかならいいんだが」
流石に誰かに見られると不味い。
事情を話せば理解してくれそうなのは住沢と桜坂くらいだろう。
泉は何か駄目だ。口が軽そうだ。
「それで出雲君。加恋とはどうなの?」
白雪がジト目でこちらを見つめてくる。
相変わらず可愛い。
「どうって別に普通のやり取りだよ」
「何か隠してるわね。はっ、まさか浮気!?」
「何でも浮気に結び付けるな。俺は何股すればいいんだよ」
「私だけにするべきだわ。何せ出雲君を幸せに出来るのは私だけだもの」
「凄い自信だな」
「あの日の約束、そして恩返しをしないといけないわ。それは一生をかけて寄り添う事だと思うの」
重い。愛が重い。俺はいつの間にか彼女にこんな重い愛を抱かせてしまっているようだ。
当の本人は全く覚えてないのだが。
「それで何を隠してるの?」
はあ~正直に言うしかないか。
だけど言ったら白雪も来そうなんだよな。
正直面倒ごとになりそうなので来ないで欲しいんだが。
「お前の妹の勉強を見ることになった」
「そ、そうなの!? どこでやるの?」
「俺の家で」
「出雲君。中学生を家に連れ込むなんて卑猥よ」
「勉強するだけなんだよ。お前の妄想力が卑猥だよ」
「しかし、そうねあの子勉強、特に数学が苦手だし、し、仕方ないわね」
「許可してくれるのか?」
「勿論私も同伴よ」
「あ、そうですか。でも今日だけど予定大丈夫なのか?」
「え、今日!? それは無理。この後ラジオ収録があるの」
「ラジオ収録頑張って。絶対聞くからな」
白雪はガチ凹みしている。だが白雪初音はプロだ。仕事を放棄することはあり得ない。
涙目になりながら「浮気しないでね」と言って俺に抱き着いて来た。
一体俺をどんな奴だと思っているんだ白雪は。
そして一昨日のキス寸前の事を抱き着かれたときにふと脳裏に過ってしまった。
(駄目だ駄目だ。俺は一ファンとして白雪を応援するぞ)
こうして俺は何とか白雪加恋との勉強会を姉の白雪初音に認めて貰えたのであった。
◇
「お邪魔しまーす」
「あらいらっしゃい。新しい彼女?」
「そうでーす」
俺は白雪加恋の頭を軽く叩く。
そして全力で否定する。
「違う。友達の妹だ」
「酷いです出雲さん。それだと他人感満載じゃないですか」
「実際他人だろうが」
「えー私とあんなことやこんなことしようと妄想してる癖にー」
「ねえよ」
俺は急いで白雪加恋を部屋に連れていく。
そこで偶然二階の灯里と会った。
「あれお兄ちゃん、それに加恋ちゃん!?」
「あ、灯里ちゃんだー。今日はお兄さん借りますねー」
迂闊だった。同じ中学校だったな。
まさか名前で呼び合うほどの仲だとは思わなかったがな。
「お兄ちゃん、最近女遊び激しくない?」
「中学生と女遊びなんてするか。ていうか大体女遊びなんてしたことねえよ」
「この前は白雪先輩と桜坂先輩と泉先輩連れ込んでたでしょ」
「住沢もいただろうが」
「そうだけどさー」
俺と灯里の会話をしている間もニヤニヤ笑いながら俺の腕にギュッとくっ付いてくる。
この小悪魔系女子め。
「勉強教えて貰うんですよー。もう受験生ですからね」
「加恋ちゃんにお勉強ね。まあいいけど」
灯里は不機嫌な様子で一階へと降りていく。
一体何で不機嫌なんだ。意味が分からない。
「適当に座ってくれ」
「はーい。そう言えばお母さん中学生みたいでしたね」
「その話題は禁句な」
「あ、地雷でしたか」
「そうだ地雷だ」
「うっかり踏んじゃいました。すみません」
可愛げな笑顔でてへっと笑う白雪加恋。
凄いあざといな。
「灯里と仲いいのか?」
俺が紅茶とケーキを持ってテーブルに置く。
「ありがとうございます」と丁寧に礼を言う白雪加恋。
しっかりしてるところはしてるんだな。
「仲はいいですとは言えないですね。別に不仲ではありませんけど」
「そうか」
「それより話に聞いてた通りオタクですねー」
「誰から話聞いたんだよ」
「舞花お姉ちゃんに聞きましたー」
白雪舞花に聞いたのか。ていうか俺オタクだって話したっけ?
話してないような。でもあの人後輩という最強の情報網持ってるからな。
俺がオタクなの有名だし。
何故有名かはいつか話すかもしれないし話さないかもしれない。
「何かおすすめラノベありますかー」
「勉強しに来たんじゃねえのかよ」
「それはしますけど、私も出雲さんとお近づきになりたくてオタクになろうかなと」
「姉が出てるアニメはいいぞ。原作のラノベもおすすめだ」
「それはもう持ってます」
「あ、そう」
白雪加恋は俺にわざと近づいてくる。
高級シャンプーのいい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。
「近い。何の真似だ」
「本当にお姉ちゃんと付き合ってるんですか?」
「は!?」
「いやだって出雲さん一人が好きなタイプですよね。そんな人がうざいぐらいのベタベタさを持つお姉ちゃんと付き合うのかなと思って」
「白雪が付き合ってるって言ってたのか?」
「はい」
ああ妹にまで言ってるのか。
本当に最悪だ。
「付き合ってないけど」
「そうですかーやっぱり当たってました」
「凄い好意は持たれてるけどな」
「ああ、例の生配信ですね」
やっぱり生配信が関係あるのか。
正直覚えてないんだよな全然。
恐らく中学生の時だろうが、あの時色々人生に絶望してたからな。
脳が記憶を封じ込めてる気がする。
「悪いが生配信の件は覚えてない」
「そうなんですか!? お姉ちゃんの人生を変えたのにですか?」
「ま、まあな」
白雪加恋は顎に人差し指を当てて暫く何かを考えている。
余計な事を考えてなければいいんだが。
「出雲さんはお姉ちゃんとどうなりたいんですか?」
「え!?」
「それを聞かせてください」
白雪加恋は真剣な表情で俺に顔を近づけてくる。
俺の返答は――
「俺はただのオタクだ。そして白雪は俺の憧れの声優アイドルだ」
この返答が後の俺の人生を荒波に変える事となる。
もしかしたら白雪の気持ちを素直に受け入れるべきだったのかもしれない。
だけどどうしてもオタクとして外側から応援したかった。
何より白雪初音を幸せに出来る自信が無かった。
「ふーん。じゃあこれは誰にでもチャンスがありそうですね」
「は!?」
「何でもないです。勉強始めましょうか」
白雪加恋は悪戯な笑みを浮かべた。
正直可愛さ半分怖さ半分だった。
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