第九話 テスト勉強

 俺はアフレコ現場の見学の夜、急いで部屋を片付けていた。

 そこまで散らかってはいないが、念のためオタクグッズは片づけておこう。


 「泉の奴何で俺の家でテスト勉強何だよ。住沢とか自分の家とかでやれよ」


 昨日急に泉が言い出して、それに全員食いつくように乗っかって来た。

 特に白雪は顔を真っ赤にして「行く行く」と頷いていた。


 「お兄ちゃんどうしたの? 急に片づけて」

 「ドアぐらいノックしろよ。もう高校生だぞ」

 「はーい。それより何してるの? まさか家出!?」

 「ちげえよ。明日テスト勉強しに友達が来るんだよ」

 「え!? あのお兄ちゃんに。そんな馬鹿な」

 「黙れ灯里。俺を罵倒するな。俺のライフがさらに減る」

 「この部屋見せるの?」

 「だから片づけてるんだろうが」

 「因みにイケメンは来ますか?」

 「住沢なら来るよ」

 「ええ本当に!? 私も一緒に勉強していい?」

 

 灯里がキラキラした瞳で俺に上目遣いを使ってくる。

 こいつかなりの現金な奴だな。


 「駄目。余計な事喋りそうだし」

 「お兄ちゃんの事は何も喋らないからいいでしょ?」

 「邪魔するなよ」

 「はーい」


 灯里はご機嫌で部屋を出ていく。

 全く面食いめ。


 「そんな事より早く片付けよう」


 俺はその後も部屋を片付けた。


          ◇


 「「「お邪魔しまーす」」」

 「まあ凄い可愛い子達ね。それに凄いイケメン」

 「母さんはリビングで静かにしててくれ」

 「えーお母さんも混ざりたい」

 「駄目だ」


 俺に睨まれた猫屋敷瑠璃は頬をパンパンに膨らませて不満を露にした。

 俺の母は滅茶苦茶ロリ体型だ。何故か灯里と同じ位、いやそれより年下にさえ見える容姿だ。

 一体どういう構造をしているのか実に知りたい息子の俺である。


 「猫屋敷の母親凄い若いな。ていうか子供だな」

 「触れないでくれ。昔からこうなんだ。変化が無い」

 「世界七不思議に認定できるんじゃないか」

 「残りの六つは何だよ」

 「お前の彼女関連とか」

 「……付き合ってないからな俺と白雪」

 「白雪とは一言も言ってないけどな」

 

 住沢は笑いながら俺と会話する。

 腹立つなこいつ。

 彼女関連なんて白雪しかいないだろうが。


 「うわーここが猫屋敷君の部屋か。ていうか家大きいね」

 「ま、まあな」

 「でも一番驚いたのは猫屋敷君のお母さんが若すぎ、いや子供だったって事だけど」

 「そこは触れないでくれ」

 「え、う、うん」


 泉寧音は空気を読んでくれたようだ。

 だったら昨日の休憩室で空気を読んでくれ。


 「出雲君の部屋にあれがない」

 「うん? あれ?」

 「い、いえ何でもないわ。さあ勉強始めましょう」

 「あ、ああ」


 俺達は翌日に控えた中間テストの勉強を始める。

 ていうか翌日なので足掻いても大して変わらなそうだけどな。

 まあ一日は大きいが。


 「寧音ここ間違ってる」

 「嘘!? どうやるんだっけ」

 「ここはたすき掛けで」

 「うんうん」


 泉寧音はどうやら数学が苦手らしい。

 ていうか勉強が苦手なようだ。試験もギリギリの合格だったようだ。


 「紅茶とケーキ持ってきたわよ。休憩がてら食べてね」

 「ありがとうございます。美味しくいただきます」

 「あ、声優の白雪初音ちゃんよね。私テレビで見た」

 「知見してくれてありがとうございます。いつも出雲君にはお世話になっております」

 「出雲ちゃんがこんな可愛い白雪ちゃんのお世話を」

 「はいだって私は――」


 俺はやばいと思い白雪の口を塞ぐと同時に母さんを部屋から出す。


 「母さんはリビングか自室に行っててくれな」

 「えー、私も混ざりたい」

 「駄目だ」


 俺がキリっときつく睨むとしょんぼりしながらむくれて帰っていく。

 はあ~助かった。お嫁さんよなんて言われたらたまったもんじゃない。凄いややこしくなる。

 

 「お兄ちゃん私も勉強教えて欲しい」


 入れ替わりで妹の灯里が来た。

 灯里が住沢を見て凄い瞳を輝かせる。


 「住沢先輩勉強教えてください」

 「いいよ。えーと妹だよね」

 「はい灯里です。宜しくお願いします」

 「じゃあ一緒にやろうか」

 「はい住沢先輩」


 住沢は灯里に勉強を教えている。

 住沢は凄い頭いいからな。自分の勉強しなくても問題ないだろう。

 灯里も来年ここの鳳桜学園進学を狙っているようだから、本格的に勉強しないと不味いのは確かだ。

 だがどこか灯里は勉強に上の空になっているように感じるのは俺の気のせいだろうか。


 「ねえ猫屋敷君ちょっと」

 「うん?」


 俺は桜坂凛に呼び出されて部屋を出る。

 偶然を装いトイレに行くふりをする。


 「何だ桜坂?」

 「初音ちゃんとの事は家族には話してるよね?」

 「話してる筈ないだろ」

 「何で!?」

 「話したらややこしくなるだろうが。そもそも俺と白雪は付き合ってないんだぞ」

 「いつになったら付き合うの?」

 「告白は断ってるんだが」

 「初音ちゃんはそう思ってないよ」

 

 そうなんだよな。

 一度告白を断ってるにも関わらず何故かなかったことにされてる。

 それどころかお嫁さんを連呼して主張してきてる。

 結局俺はどうすればいいんだ?


 「初音ちゃん程いい人いないよ。後悔するよ」

 「いやそう言われてもだな。俺まだ全然白雪の事知らないし」

 「じゃあ色々教えてあげる。はいこれメモ」

 「メモ?」

 「初音ちゃんのスリーサイズから、趣味まで」

 「どんなメモだよ」

 「いいからこれで初音ちゃんを知るの」

 

 そうメモを押し付けられて部屋へと戻っていく桜坂凛。

 俺は一応スリーサイズが気になりメモをポケットにしまい、部屋へと戻る。

 部屋に戻ると大変な事が起きていた。


 「ラノベに漫画にゲームに、アニメのBD、あ、初音ちゃんの表紙の雑誌だ」

 「おい何やって!?」

 「エッチな本無いか物色中だよ」

 「ねえよ。やめろ」

 「猫屋敷君噂通りオタクなんだね。あ、何か高そうな機材がある」


 やばい。それは生配信の為の。

 これだけはクラスの奴らにばれる訳にはいかない。


 「いやこれは、ていうか勉強会だろ。中間テスト明日だぞ」

 「何か慌ててない猫屋敷君。怪しいな」


 泉寧音がじーっとこちらを見つめてくる。

 俺は僅かに視線を逸らした。


 「怪しい。この機材なに?」

 「いや、それは……」


 俺が困っていると、住沢が泉の頭を軽く叩く。


 「ほら猫屋敷困ってるだろ。やめろ」

 「はーい」


 住沢に言われて泉は仕方なくテーブルに戻る。

 はあ~助かった。住沢ナイス。


 その後夕方まで勉強して今日の勉強会は終わった。

 

           ◇


 『さっきの生配信の機材よね』

 『知ってたのか』

 『ええ良く知ってるわ。忘れられないわ』


 うん? どういう事だ?

 生配信に特別な思い出でもあるのか?


 『まだ生配信する予定あるの?』

 『ま、まあな。クラスの皆には言うなよ』

 『ええ。今度一視聴者として見に行くわね』

 

 そう言ってリルカのおやすみのスタンプが送られてきた。

 一体何なんだ? まさか白雪も生配信してるとか!?

 いやいやそんなまさかな。


 「寝るか」


 俺はベッドに入って眠りにつく。

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