第八話 オタクの夢
昨日姉の白雪舞花と会った夜、白雪初音から怒涛の連絡が舞い込んできた。
携帯が鳴りっぱなしでついついマナーモードのサイレントにしてしまった。
『姉さんと会ってどうだった出雲君?』
『掴みどころのない人だった』
『やっぱり浮気したのね』
『してねえよ。話が飛躍しすぎ』
いやまあ浮気しないか誘われたけどね。
何とか理性を保つことに成功したが。
『流石白雪のお姉さんだなって感じ』
『余り姉さんを褒めないで。褒めるなら私にして』
何この返信。嫉妬してるってこと?
可愛すぎなんですけど。
『まあ兎に角会ってよかったよ』
『姉さんも私がお嫁さんになるって言った時凄い喜んでたわ』
『そ、そうか』
白雪舞花との会話は正直今の白雪には正直に話せる気がしなかった。
何せ茶化しながらも重い空気になることがあったからだ。
あの言葉が忘れられない。
『初音ちゃんはするよ。それぐらい君が大切なんだよね。だから君は初音ちゃんを受け入れるしかないよね』
はあ~俺はどうすればいいんだ。
もし俺が本当の意味で白雪を拒絶した時、何故か白雪はこの世からいなくなってしまいそうな雰囲気を感じた。
外側から応援するだけじゃダメなのか?
全然考えが纏まらないや。
『あ、そうだ出雲君。アフレコとか興味ある?』
『え? 凄いあるけど』
『次の土曜日のアフレコ見学に来ない?』
『俺が行っていいのか?』
『付き合ってることは言ってないし言えないけど、友達として特別に見学させてあげられるわ』
『絶対に行く』
『じゃあ次の土曜日楽しみにしててね』
中間テストなんて考えてる暇ねえ。オタクとして絶対行くぞ。
俺の気分は180度転換した。
因みに付き合ってないけどね白雪。
そして現在――
中間テストが二日後に迫った土曜日、呑気にも俺はアニメ鋼の都市ミランのアフレコ現場に友達として特別に見学させて貰った。
「俺まで一緒で良かったのか?」
「白雪がOK出してた」
「私も良かったのかな来て」
「白雪の友達として特別に見学させてもらえるんだから甘えていいだろ」
「そ、そうだよね」
俺は現在これから放映予定のアニメ鋼の都市ミランのアフレコ現場に住沢と泉と来ていた。
「あ、猫屋敷君、住沢君、泉ちゃん。今日は楽しんでいってね」
桜坂凛がいつもと違う姿で俺達の前にやって来る。
普通の可愛らしいピンク色のTシャツに青いジーンズだ。
厚底の靴を履いており音の鳴る物は一切身に着けていない。
「桜坂さんもレイファン役で参加するんだよね」
「流石猫屋敷君詳しいね。まあ私はサブキャラ役だけどね」
「それでも凄いよ」
「ありがとう。少しずつ目標の為一歩ずつ前に進んでるよ」
「頑張って」
そう言って桜坂凛はアフレコ現場に入っていった。
他のベテラン声優さん達や監督などに丁寧に挨拶している。
「それにしても凄いな。何か俺まで緊張してきた」
住沢が珍しく緊張している。
まあ俺も同じなんだが。
「私も緊張してきた。沢山人がいるね」
泉寧音もどうやら緊張した面持ちなようだ。
まあそれもその筈。何せ音響制作の人や音響監督も真剣な表情で機械の前に座っている。それに役者の声優たちが真剣な表情でモニターに向かって台本を開いている。プロの現場のオーラは半端ない。
そりゃ俺も含めて素人は緊張するのは当然だ。
因みに白雪は最初に挨拶を俺達に済ませて収録現場に一早く入っていた。
流石白雪だな。
その後アニメ鋼の都市ミランのキャラクターの声を担当する声優たちのアフレコが始まった。
『私は決して負けることはありません。この国の為にも』
『そうか。ならお前の覚悟確かめさせて貰う』
『望むところです』
主人公のライルとメインヒロインのアイルーンの声を担当する声優の早瀬海と白雪初音。
圧巻の演技に俺は全身に鳥肌が立った。
監督からは一発OKが貰えるほどである。
その後もレイファン役の桜坂凛が、
『ここで諦めたら駄目なんです。立ってくださいアイルーン様』
などこちらも圧巻の演技だった。
ベテラン声優達が凄いのは勿論だが、新人若手声優の二人も負けてない。
特に白雪初音のオーラと演技は凄かった。
◇
「白雪も桜坂も凄かったよ。正直声優についてはそんなに詳しくなかったけどそれでも圧巻だった」
「ありがとう住沢君」
「ありがとうね住沢君」
アフレコが終わり休憩室で休憩している。
俺達は最後まで食い入るようにアフレコ現場を見ていた。
「そう言えば今日のって第六話のシーンだよな」
「そうよ出雲君。流石私の――」
俺は咄嗟に白雪の口を押えた。
それを見ていた住沢は笑い、桜坂は慌てた様子を見せていた。
泉だけは首を傾げていた。
俺は小声で隣に座っている白雪に耳打ちする。
「こんな場所でお嫁さんの言葉を使うな。せめて泉が居ない時にしてくれ」
「何故泉さん? まさか浮気したのね」
「してねえよ。知らないんだよお前が俺を好きな事」
「そ、そう。住沢君と凛は知ってるのね」
「ああ知ってるんだよ。それにマネージャーとか他の声優とかに聞かれても不味いだろ。記者だってどこにいるか分からないし」
「そうね。ここまで私を心配してくれる出雲君はやっぱり私の旦那さんだわ」
「いや付き合ってすらいねえよ」
「早く頷きなさい」
駄目だこいつ何とかしないと。
マジでそのうちスクープになりそう。
俺は傷ついても構わないが白雪の評判が落ちるのは一ファンとして避けたい。
「ねえ折角だし明日中間テストの勉強しない。明後日から中間テストだし」
泉寧音が突然話の話題を変えて提案する。
「いいけど何処でやるんだ? 都合悪い人いるんじゃないか?」
住沢が声に出す。
俺は一人で勉強したい。頼む俺を誘うなよ泉。
「私はいいわよ、凛もいいわよね?」
「うん。明日は予定ないしいいよ」
「出雲君もいいわよね?」
「え、いや」
「
「あ、はい」
俺の返答と同時に泉が笑顔で両手を顎の下に当てて、言葉を発する。
「猫屋敷君の家でやろう」
「は!?」
俺はこの日から更なる災難に巻き込まれることとなる。
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