第六話 白雪舞花

 日曜日の買い物から一夜明けた月曜日。

 授業が終わり、昼休みへと突入していた。


 「これありがとうな」


 俺はこないだのお弁当箱を返却する。


 「わざわざありがとう出雲君。今日のお弁当は出雲君の大好きなアスパラベーコンよ」

 「ありがとう――って何で俺の好物知ってるんだよ」

 「胸に手を当てて考えなさい」

 「お前それしか言わないのか」


 これだけ俺についての情報を知っているとなると、やはり昔何処かで会って仲良くしていたのか? いや俺にそんな仲いい友達はいなかった。

 はあ~一体何なんだ白雪初音という少女は。


 「それより声優活動はどうなんだよ」

 

 俺は文句を言いながらも白雪の手作りのアスパラベーコンを食べつつ、聞く。


 「順調よ。ただこの業界外と内では違う部分もあるから」

 「華やかな場所だけではないって事か?」

 「まあね。仕事取るのも一苦労だしね。オーディションとか競争率激しいし。歌やダンスも必須スキルよ」

 「そっか、何か違う次元に住んでるんだな白雪は」

 「だから出雲君といる時が一番楽しいのよ。唯一の幸せだわ」

 「そりゃどうも」


 俺が屋上で白雪と弁当を食べている。

 晴天の中カラスが元気よく飛び回っている。


 「ねえ出雲君一つお願い聞いて貰ってもいいかしら?」

 

 真剣な瞳で俺を見つめてくる。凄く可愛い。

 正直滅茶苦茶高嶺の花なんだよな本来は。

 何故か俺はプロポーズを受けてるが。


 「俺に出来る事なら」

 「姉さんが会いたいってきかなくて」

 「白雪のお姉さんが!?」

 

 そう言えば姉がいるって言ってたな。

 まあそもそも俺は白雪初音の大ファンだから知ってたけどね。

 公表された情報だったし。


 「会いたい理由は?」

 「付き合ってること言ったら紹介してって言われたわ」

 「は!?」


 え、何言ってんのこの人。

 俺と付き合ってないよね白雪さん。

 誤情報を流しすぎだろ。


 「結婚予定とも言ったわ」


 何どや顔で言い放ってるの。

 まさか両親にまで!?


 「なあ、両親には言ったのか?」

 「ええ勿論よ」


 白雪は今日一番の満面の笑みで可愛らしく素直に答えた。

 正直逆の立場だったら俺は絶対に言わない。

 こいつ正気か。


 「あのう、まだ付き合ってもないよね。俺達」

 「出雲君のお嫁さんは私よ」

 

 ああ駄目だ話が通じてない。


 「今日の放課後は姉さん忙しいから明日の放課後出雲君の家に迎えに来る予定よ」

 「いや勝手に話し進めるなよ」

 「会ってくれないの?」


 可愛らしい、それでいてあざとさがない素直な潤んだ瞳で上目遣いをしてくる。

 こんな状況男なら断れる筈ないだろうが。

 仕方ない、白雪のお姉さんに会って付き合ってないって言おう。

 それしか選択肢が思い浮かばない。


 「分かった会うよ。二人きりでか?」

 「私明日は忙しいから二人きりだけど……はっ、まさか出雲君姉さんと浮気」

 「ねえよ」

 「そうそれは良かったわ。ま、まあそうよね」


 何で焦ってるんだよ。白雪の姉とは明日が初対面だぞ。浮気する筈ねえだろうが。

 ていうか浮気も何も付き合ってないんだけどな。


 その後は昼休みを白雪と雑談を交わしながらお弁当を食べて終わった。


              ◇


 「それで姉に会う事になったのか。白雪って面白い奴だな」

 「笑い事じゃねえ。勝手に話がどんどん膨れ上がってるんだが」

 「ははっ、悪い悪い。それで白雪のお姉さんにはどう説明するんだ?」

 

 どうも何も付き合ってないって言うしかないだろうな。

 いやだがもし否定すれば白雪は嘘つき呼ばわりされる可能性があるぞ。

 声優ならメンタル面も重要だしな。

 一ファンとしてなら声優としての白雪初音を応援したい。


 「なあどうしたらいいんだ?」

 

 俺は思わず住沢に頼った。

 いやもうこいつしか頼れる存在が居ない。


 「うーん、そうだな……取り敢えず嘘は良くないから付き合ってはいない事にはしといた方がいいな。それで更に言うなら家族には事情を説明するとか」

 「一方的に好意持たれてることをか?」

 「ストレートな物言いではなく柔らかい表現で言うんだ。まだ付き合ってはいないけど告白された的な事を。それでまだ返事はしていないとでも言えば少しの間は時間が稼げるんじゃないか。その後は猫屋敷次第だ。本当に好きになって付き合うのか、ファンとして外側から応援するのかはな」


 成程。流石陽キャで人気者の住沢だ。的確なアドバイスをしてくれる。


 「白雪も完璧に見えておっちょこちょいな所あるだろ。だから家族なら理解してくれんじゃないか」

 「そうだといいけどな」

 「ま、頑張れよ。じゃあな」

 「あ、ああ。ありがとうな」

 「いいって。俺達友達だろ」


 住沢はその言葉を言って放課後の人のいない教室を微笑みながら出て行った。

 俺は「友達だろ」と言われて正直内心嬉しかった。

 陰キャゆえに友達いなかったしな。


 「さて明日の放課後に備えて考えを纏めておこう」


          ◇


 そして翌日の放課後、俺が家に帰ると青色の一台のコンパクトカーが停車していた。


 「へえ~君が猫屋敷出雲君?」

 「そうですけど、白雪のお姉さんですか?」

 「そうだよ、私は白雪舞花。カバン置いたらドライブ行こうか」

 「は、はい」


 この日俺は白雪初音の姉の白雪舞花と出会った。

 正直胃が痛いんですが。

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