第五話 服選び
デパートの中で買い物をする事にした俺達は一階から順に回って見ていく。
しかし滅茶苦茶気まずい。
そんな時、俺の横に来た住沢が耳元でこそっと囁いた。
「お前の事凄い見てるな白雪。やっぱり何かあっただろ」
「まあ色々とな」
「後で教えれよ。話せる範囲でいいからさ」
「あ、ああ」
こいつめっちゃいい奴じゃん。何か陰キャな俺でも普通に接しれるし、そりゃモテるわな。
そんな事を思っていると携帯が鳴った。
『私以外の女性を見ないで。浮気はいけないわ』
必死に隣で隠れて歩きながらスマホを弄っている。
歩きスマホは危ないのでやめような。しかもアイドル声優なんだから。
『見てるのはお前だろ。ていうかいつもこのメンバーと遊ぶのか?』
『やっぱり気になるのね。出雲君も嫁の様子が気になるようね』
『嫁かどうかは置いておいて気にはなるな。何せ有名人ってプライバシー少ないだろ』
『置かなくていいわ。それと寧音とはよく遊ぶわよ。まあこういう仕事が無い時だけだけどね。そっちこそ意外だわ。住沢君と遊ぶのね』
『まあ一応ね。あいついい奴だからな』
『浮気は駄目よ出雲君』
『何で同性に浮気するんだよ』
『意外とBL好きかと思って』
『別に嫌いじゃないけど』
『やっぱり用心しないと』
いやしなくていいから。
はあ~何でこんな事に。
「そう言えばさお前がお勧めしてくれたゲーム、妹にプレゼントしたらめっちゃ喜んでたわ。サンキューな猫屋敷」
「そ、そうか。良かった」
「妹クラスに馴染めてなくてさ。それで凄いゲーム好きだから何かクラスメイトと盛り上がれるゲームがあれば馴染めるかなと思って。でも俺そこまでゲーム詳しくないから。だから助かったよ」
「役に立てたなら良かった」
「また次も宜しくな。なんなら俺にもおすすめのゲーム教えてくれよな」
「いいけど」
やっぱり住沢はいい奴だな。妹思いでもあるし空気も読めるし、顔もかっこいいし、そりゃ人気だよな。俺なんかと遊んで楽しいのだろうか?
『住沢君と何話してるの?』
『こんなに近い距離なんだから直接話せばいいだろ。前に選んだゲームの話だよ』
『直接話すと距離を置くじゃない出雲君』
『いやそれはお前がお嫁さんとか言うからだろ』
『お嫁さんになるのは私よ。それだけは譲れないわ』
はあ~、一体俺の何処に惚れてるんだ?
俺なんて女子からモテるような魅力なんてないぞ。
しかもあの有名声優アイドルが何故だ。
自分の胸に手を当てて考えても一向に答えが出ない。
「ねえ晴彦ここで服買っていい?」
泉寧音がくるりと可愛らしく一回転して住沢に聞いた。
「いいぞ。俺と猫屋敷は外で待ってようか?」
「ううん。晴彦も猫屋敷君も一緒に選ぼうよ。折角みんなで買い物に来たんだしさ」
「女性陣の服選ぶのは俺でも難しいぞ」
「慣れてるくせに~」
こうして俺達は女性陣の服を選ぶ事となった。
何で俺まで。センスなんかねえぞ。ていうかどういう服がいいのか全く分からない。
「ここ今は人もあまりいないし、試着しても大丈夫じゃないか白雪」
「そうね。じゃあ出雲君選んでくれる?」
白雪の言葉に住沢は手を口に当てて笑う。泉寧音は目をキョトンとさせている。桜坂凛は両手で俺に何かを訴えてきている。
「いいけどセンスないぞ」
「構わないわ。出雲君が選んだことに意味があるのだから」
「ああ、そうですか」
白雪は色々な服を持って試着室へと入っていった。
「ねえねえ猫屋敷君、初音ちゃんと仲いいの?」
「え!?」
「いやだって初音ちゃんが異性を名前呼びしたの私の記憶では初めてだし、今だって服選んでってお願いしてるし」
どうする。告白されたなんて言える筈が無い。
だけど他に適当な理由が見つからない。
焦る俺は言葉を必死に紡ぎ出そうとする。
そんな時だった。
「ゲーム友達なんだよ。な猫屋敷?」
「あ、ああ。そうなんだよ。白雪意外とゲーム好きでさ。それで一緒にやる仲なんだ」
「そういう事。余り詮索するなよ泉」
住沢の言葉に納得した泉が「うんうん」と頷く。
助かった~。こいつ本当にいい奴だな。
片目でウインクしてくる住沢。
後で何か奢らないとな。
その後俺は白雪が試着した服が似合ってるかどうかを自分の信頼できないセンスで答えた。
桜坂凛と泉寧音も色々な服を主に住沢に選んでもらい服屋での買い物は終わった。
そして現在俺はフードコートの椅子に座っている。
真正面には白雪初音が。
他の三人はアイスなどを買いに行っている。
「今日は驚いたわ。まさか出雲君が住沢君と出掛けるなんて」
「ああ誘われてな。そう言えば白雪も来るんだったら弁当箱返せば良かったな。明日返すわ」
「弁当箱を会う口実にするなんてやるじゃない出雲君。とうとう思い出したのねあの日の事」
「ただ返すだけだろうが。ていうかあの日って何だよ?」
「つっ――まだ思い出せないのね。仕方が無いわ。でも私は出雲君が好きだから。この思いに嘘偽りは無いわ」
白雪は顔を真っ赤にしながらそう俺に言った。
正直ドキッとさせられた。心臓が高鳴った。
それでも俺は外側から応援するオタクでいたい。
「そう言えば魔法少女リルカ以外にも主演決まったよな。鋼の都市ミランのメインヒロインアイルーン役で」
「流石旦那様ね。嫁の事は何でも知ってるのね」
「旦那じゃない。日本の法律では男性は十八歳からだから無理だ」
「知ってるわ。でも事実上夫婦でしょ」
「事実上ってなんだよ。まだ恋人ですらねえよ」
「まだということは?」
しまった。罠にはまった。
恋人になる予定もないのに。
「出雲君は私以外に好きな人がいるのかしら?」
「いませんけど」
「そう」
うん? 何だ今の反応?
頬をうっすら赤らめている白雪。
正直凄く可愛かった。
「俺はオタクだから外側から応援したいの。プライバシーに踏み込むつもりはないんだよ」
「もう踏み込んでるわ」
「まあそれは否定できないが」
まさか同じ高校だとは思いもしなかったしな。
よくよく考えたら本当に凄い事だよな。
「取り敢えず出雲君の答えが聞きたいわ。私が好きかどうか。あの頃と気持ちが変わってないと信じてるわ」
あの頃って何だ?
前に白雪と会った事あったっけ?
いや俺の記憶上ない筈だ。何せこんな美少女と会ってたら絶対に記憶に残っている。
じゃあ一体あの頃とは何だ? 誰かと勘違いしてるのか?
「一ファンとしては大好きだ。偶像としてではなく一人の人間としてならまだ分からない」
俺は真剣な表情でそう告げた。
傷つけてしまったかもしれない。だけど白雪は俺に嘘を付かない。
だから俺も嘘偽りない言葉を発した。
「そう分かったわ。でも私は出雲君との約束忘れてないから。それに――」
白雪が何かを言いかけた時、丁度三人が戻って来た。
「初音ちゃん買って来たよ」
「ありがとう寧音」
何を言いかけたんだろうか。
凄く気になったが俺はそれ以上この場で追及する事は出来なかった。
◇
帰り道丁度同じ帰路の住沢と一緒に歩く。
「なあ白雪ってお前の事余程好きなんだな」
「そ、そうかな?」
「誤魔化さなくてもいいぞ。お前も気づいてるんだろ、彼女の好意に。お前の事常に意識してたしな」
「実は告白された」
「へえ~あの白雪がか。それで猫屋敷の答えは?」
「断った。だって俺は外側から応援したいから。偶像の白雪初音しか知らないから」
「そっか。ならこれから知ればいいんじゃないか」
「え!?」
「だってそうだろ。知らなきゃ好きも嫌いもないだろ」
確かにそうだな。俺は偶像としての白雪初音は詳しくても普段の、本当の白雪初音の事は何も知らない。ここまで好意を持ってくれている彼女を俺は知る必要があるのかもしれない。
「まあ取り敢えず明日から作戦会議だな」
「いい奴だなお前」
「そうか? 普通だろ」
夕刻の中冷たい風が俺の髪を揺らした。
住沢が凄く輝いて見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます