第四話 帰りたい
今日は日曜日。家でゆっくりしようと思いベッドでゴロゴロゲームをしている。
昨日は散々だった。まさかの声優桜坂凛から連絡が来るとは。しかも何か恋愛応援されてるし。
「あっ、この声白雪だ」
俺がプレイしているゲームのキャラクターボイスが白雪初音だった。
改めて可愛く凛としていて透明感のある声だな。
それに若手声優なのに演技力が非常に高い。
流石売れっ子声優だな。
こんな凄い人にプロポーズされたとか今でも現実感が無い。
『よう、これから出掛けるけど来ないか?』
スマホの着信が鳴ったので取り敢えず恐る恐る確認する。
すると相手は住沢晴彦だった。
「はあ~助かった。一番まともな奴で良かった」
しかし何故陰キャの俺なんかに声を掛けたんだ?
あいつ位友好関係が広ければ幾らでも遊ぶ友達がいるだろうに。
『来いよ。きっと楽しいぞ』
まあいいか。折角誘われたんだ行ってみるのも悪くないだろ。
『行くよ。何処集合?』
『駅前のデパートの前な。分からなかったら連絡寄越せ』
『分かった。今から向かう』
『おう』
可愛らしい待ってるぜという言葉を発した猫のスタンプが送られてきた。
俺も取り敢えず好きなアニメのスタンプで返信した。
そういやこいつ深夜アニメのスタンプなのに抵抗ないんだな。
陽キャだけど誰にでも隔てなく接するしいい奴だ。
「さて急いで準備しないと」
俺は一応外出用のTシャツにジーンズという無難な組み合わせの恰好で向かう。
髪も一応出来るだけセットして身なりを整えた。
陰キャが出来る精一杯の努力を行った。
「お兄ちゃんどこ行くの?」
灯里はソファーにラフな格好+裸足で寝転がりながらスマホを弄っていた。
一つしか違わないんだからそろそろ兄にも警戒心をだな。
いやそれはそれで悲しいが。
「友達と遊びに行く」
「ええぇええ!? あのお兄ちゃんが友達と!」
「そんなに驚く事じゃねえだろうが」
「いやだってあのオタクのお兄ちゃんがだよ」
「オタクだって友達くらいいるわ」
灯里は暫し顎に手を当てながら考えてそしてニヤつく。
何か嫌な予感がする。
「もしかして例のお弁当の彼女?」
「あれは違う。偶々弁当貰ったんだ。それとその人じゃない」
「へえー。まあいいけど。楽しんで来てね」
「あ、ああ」
俺は灯里から解放されて急いで駅前のデパートに向かう。
そう言えば住沢何も言ってなかったけど、多分一人じゃないよな。
何か胃が痛くなってきた。
◇
「よう早いな」
「お、おはよう」
「ああおはよう」
住沢が一人で駅前のデパートにやってくる。
あれ一人なんだ? てっきり複数人で来るもんだと。
「他には?」
「ああ、あと三人来る予定だよ。待ってようぜ」
「ああ」
三人も来るのか。はあ~全員陽キャだろうな。
馴染めればいいんだが。
だが会話の引き出しが少ない俺には無謀ともいえる。
アニメやゲーム、ラノベ、声優などなら幾らでも話せるんだけどな。
「お待たせ」
「待たせた?」
「暑いわ」
三人の女子が上品な格好でやって来る。
一人はかなりの怪しげな変装をしているが。
ていうかこの声、白雪だろ。
どうしてここに。
「相変わらずアイドル声優は大変だな。桜坂はいいのか? 変装しなくても」
「私は有名じゃないし大丈夫」
三人の女子の内訳はこうだ。
泉寧音。クラスでよく白雪と話している女子だ。
スクールカーストは高い。
白いブラウスにおしゃれな水玉模様の柄が入ったミニスカートを着用している。
少しきわどいのが目に毒だ。
茶髪のショートカットが良く似合う。
桜坂凛。隣のクラスの人物で俺にウイッターでDMを送ってきた人物だ。
ピンク色のおしゃれなTシャツにタイトスカートを着用している。
少し赤みがかった髪がとても綺麗で目に焼き付く。
ていうか何故ここにいる。俺は聞いていないぞ。
そして最も会いたくない人物の一人白雪初音。
俺に異常なまでの好意を寄せている人気若手声優アイドルだ。
黒い帽子にサングラスにマスクとかなり怪しい恰好をしている。
暑いのにTシャツの上から黒いコートを身に纏っている。
下はジーンズだ。
ていうかお前も何故ここにいる。
俺は聞いていない。
「ちょっといいか住沢」
「うん何だ?」
俺は住沢を少しだけ女子たちから離して小声で会話する。
「何で白雪がここにいるんだ? しかも桜坂さんまで」
「いや元々は俺と泉と隣のクラスの一ノ瀬と遊ぶ予定だったんだけどさ。何か猫屋敷面白いから誘おうって思って誘ったんだよ。そしたら偶々泉がそれなら初音ちゃんも誘おうよって話になって、白雪がさらに桜坂を誘った。そして今に至る」
「帰っていいか?」
「いや何でだよ。ていうか白雪と何かあったのか? 桜坂とも」
「…………いや何もない」
「ふうん。まあいいや兎に角もう集合したんだ遊ぼうぜ」
「はあ~。分かった」
「よしじゃあ行くか」
俺はこの日人生で最も帰りたい一日となった。
白雪と桜坂さんが俺をチラチラと見てくるのが精神的に辛い。
そしてそれを見て笑う住沢にも殺意を覚えた。
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