第二話 手作り弁当

 四限目が終わり鐘が鳴ると同時にかなり憂鬱な気分で屋上へと向かう。

 誰もいないのを確認して。

 理由はただ一つ。あの白雪初音に呼ばれたからだ。


 『屋上で待ってるわ出雲君!!』


 魔法少女リルカの笑顔のスタンプと共に。

 ああ凄く怖い。


 「白雪さん。屋上開いてるんだね」

 「遅いわ出雲君。三十秒の遅刻よ」

 

 スマホのストップウォッチを見せてくる白雪初音。

 まさか計ってたのか。恐ろしすぎる。


 「それで昨日は何故無視したの?」

 「いやいやまず前提が可笑しい。何で急にお嫁さんになるなんだよ。高校生でその言葉口にする奴なんていないだろ」

 「それは自分の胸に手を当てて考えなさい。どう思い出した?」

 「いえ全然心当たりがありませんが」

 

 俺の言葉に少しだけむくれた表情をする。

 まあ凄く可愛い。だけど俺は決して恋などしない。


 「まあいいわ。これからは返事を返すように」

 「…………はい」

 「出雲君。はいこれ」

 「うん?」


 四角い箱がピンク色の可愛らしい布に包まれている。

 見たところお弁当のようだ。


 「これ白雪さんが俺に作ったのか?」

 「そうよ。それとさんはやめて。私と出雲君の仲なんだから」

 

 自分も君付けだろうが。さんと君の意味合いが違うのは知っているが納得できない。

 しかし従わなければ怖い目にあいそうだ。


 「ありがとう」

 「愛情込めて腕によりをかけたわ。栄養バランスも考えたわよ」

 

 一ファン相手にこういう行為はどうなのか?

 全国の白雪初音ファンが見たら発狂ものだろうな。

 何せあの白雪初音から手作り弁当を貰っているんだからな。


 「いただきます」

 「味は保証するわ。母も妹も美味しいと言っているもの」


 俺は黄色い形のいい卵焼きを口にする。

 

 「甘くて美味しい」

 「良かったわ。やっぱり出雲君は甘いの好きだものね」

 「え、何で知って!?」

 「自分の胸に聞きなさい」


 卵焼きは文句なくて美味しい。

 そして俺の言葉を聞いて喜んだ白雪も素直に可愛い。

 だが問題はそこじゃない。問題は何故俺の趣向を知っているのかだ。

 可笑しい。俺が甘い物好きなんてこの学校で知ってる奴はいない筈。

 ゲームなら知ってる奴いるけど。


 「あ、あのさ。一ファンとこういう行為は不味いんじゃないのか? 事務所的にも恋愛NGなんだろ?」

 「そうよ。だから誰もいない屋上なのよ。ここなら噂されることもないからね」

 「そ、そうですか」

 「で、今日はやるの?」

 「うん? 何を?」

 「つっ――い、いいわ。やっぱり気づいてないようね」


 何のことだ? まあいいか。

 俺はその後白雪が作った弁当を何だかんだ全部美味しくいただいて、弁当箱を洗って返す事にした。「そんなのいいわ」と言われたが流石にこれくらいはするべきだろう。


            ◇


 「お兄ちゃんが可愛らしい弁当を!?」

 「こ、これは色々な事情が」

 「へえ~どんな事情? あのお兄ちゃんがねー」

 「ま、まあ色々とな」

 「あ、誤魔化した」


 俺は妹の猫屋敷灯里から逃げるようにして部屋へと行く。

 後で洗おう。


 「はあ~疲れた。さてゲーム実況でもするか」


 俺はパソコンの電源を入れてゲーム実況の準備を行う。

 キャプチャーボードやマイクなど初期投資が高かったことを思い出す。

 そう俺はゲーム実況やアニメ生放送語りなどを顔を隠して行っている。

 チャンネル登録者も実は多く、結構ネットの世界では人気だ。


 よし勝った。もうこのゲームは全部クリアしたな。最後にコメントでも読むか。

 沢山チャット欄にコメントが流れてくる。初見さんの挨拶や賞賛のコメント、中には批判のコメントもある。余りにも酷い誹謗中傷のコメントなどはモデレーターを雇って削除させている。


 『今日も素敵です。生配信で見られて良かったです。アーカイブ是非残してくださいね。明日の魔法少女リルカの感想語りも楽しみにしています』


 あっ、かなりの頻度でコメントくれる子だ。初期からいる俺のファンで名前は白音さんだ。

 嬉しいな。やっぱり動画配信は最高だ。

 陰キャだからリアルよりネットが居心地がいい。

 

 その後何だかんだコメントに返信して、寝たのは深夜だった。

 一通のチャットが送られてくる。


 『明日もお弁当持っていくわね』


 俺のリアルの日常はどんどん崩壊していく。

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