第一話 憂鬱な学校生活開始
「はあ~どうしてこんな展開に」
俺は放課後一人教室でそう呟いた。
そしてポケットに入っているスマホに通知音が頻繁に流れてくる。
いっそマナーモードにするか? いやでもあの笑顔が怖い。
そう俺は先日アイドル声優の白雪初音を振った。
恐らく世界でただ一人の告白を断った男である。
昨日――
「な、なな何を言っているか分かってるの出雲君。私達は声優とファンである前に一人の男女なのよ」
「いや俺はファンでいいよ。だって俺は声優としての白雪初音が好きだから」
「本気で言ってるの?」
「本気だけど」
めっちゃ笑顔が怖いんですが。そして何より何故俺に告白?
意味が分からないぞ。何か好意を抱かせることしたか?
咄嗟に記憶を呼び起こすがそれらしき確証はない。
というか俺と接点なんて同じ高校のクラスメイトというだけなんだが。
「あ、あの日の事覚えてないの?」
「あの日?」
「つっ――そう分かったわ。出雲君はどうやら忘れているようね。取り敢えず連絡先を交換しましょう。常に連絡が必要だわ」
「い、いや結構だ。オタクとしてそっとしておいてくれ」
「いいから貸しなさい」
凄い可愛らしい笑顔の上に恐ろしい仮面。
可愛らしい声にちょっとした殺意が籠っている。
「は、はい」
俺は思わずスマホをポケットから取り出して白雪初音に手渡した。
「いい、これから出雲君には私とのこと、あの日の約束思い出して貰うわ、いいわね。それから出雲君のお嫁さんになるのは私よ、分かった?」
「…………」
「
「は、はい」
こうして俺はなし崩し的に白雪初音と連絡先を交換した。
そして現在――
「げっ、通知百件!?」
チャットアプリGINEの未読メッセージが百件を超えていた。
はあ~勘弁してくれ。俺はファンとして君を応援したいんだが。
しかしまああれだな。第三者つまり他のクラスメイトやファンから見るとこの光景も微笑ましく、そして何より羨ましく感じるんだろうな。今日の朝も「白雪さんのお弁当相変わらず可愛い」「いいなあ白雪さんの手作りお弁当」「かあーっ。俺も手作りお弁当食べたいぜ。そして毎日チャットのやり取りもしたい」などクラスメイトから可愛さを称賛されていた。
こいつらなら鬼のような通知にも耐えられそうだ。
白雪は「ありがとう」と言った愛想笑いで誤魔化していた。その間にもスマホを弄っている。クラスメイトから誰にそんなにチャットしてるのと聞かれると、顔を赤くしながら「ま、マネージャーよ」などと言って誤魔化していた。いやあれは絶対にマネージャーじゃなく俺だろうが。
そんな白雪を見て「かわいいー」と声を大にして言っていたクラスメイト。
是非俺と立場を代わってくれクラスメイトよ。
そんな事を考えていると誰かが話しかけてきた。
「あれ猫屋敷じゃねえか? 何してるんだこんな所で?」
「ええーと、いやちょっと居残り?」
「居残り? 何だそりゃwww」
俺に話しかけてきたのは同じクラスの住沢晴彦。
学校で異性から人気がある俺が苦手な陽キャの一員だ。
ただ誰にでも隔てなく接するが。
「丁度いい。お前この後暇?」
「え、何で?」
「お前ゲーム好きだったよな?」
「ま、まあ」
「じゃあ付き合え。どのゲームがいいか教えて欲しいんだ」
「ひ、暇じゃないかも」
「その目は嘘だな。まあいいから付き合えよ。何か奢ってやるからさ」
はあ~。俺はこの日陽キャの住沢晴彦に連れまわされる事となった。
「それで盛り上がれそうなゲームってあるか?」
「盛り上がるならこの今話題のアクションゲームとか、こっちのパーティーゲームとか」
「おっ、このアクションゲーム面白そうじゃん。これ何人でできるの?」
「オフラインなら四人。オンラインなら十六人だけど」
「これ買うわ。やっぱり猫屋敷、お前ゲーム詳しいんだな」
「ま、まあね」
精神がすり減る。只でさえ今こっちはそれどころじゃないってのに。
「じゃあこの後ファミレスでも行くか」
「え!? いや俺はいいよ。帰るから」
「そうか? まあ無理にとは言わないが。ていうかさっきから携帯凄い鳴ってるけどいいのか?」
「え!? あ、ああ気にしないでくれ」
「ふーん。まあいいや今日はありがとな猫屋敷。そうだ連絡先交換しようぜ。次もこういう事頼みたいし」
「あ、うん」
俺はこの日住沢と連絡先を交換した。
何か陰キャオタクの俺の風向きがどんどん変な方向へと向かって行っているような。
静かに一人でオタクでいたいんだが。
その日の夜宿題を終えると、俺はスマホに表示された怒涛のメッセージを既読する。
その中で住沢からもメッセージが入っていた。
『そう言えば白雪初音ってお前の事気にしてるよな?』
こいつ気づいていたのか!?
いや待て告白を聞かれたとか?
『そうかな? あの白雪さんが俺なんかの事気に掛ける筈ないと思うけど』
よし誤魔化した。家族以外とメッセージなんて普段しないから緊張するな。
『いやいや結構お前の事見てるぞ。俺結構そういうの敏感だから』
『偶然じゃないかな?』
『まあいいや。今日はありがとなゲーム。実は妹に盛り上がれるゲームないかって頼まれててさ。俺そこまで詳しくないから、助かったわ』
『ああ別にいいよ』
その後サンキューの猫の可愛らしいスタンプが送られてきた。
俺も持っていたアニメのスタンプで適当に返した。
「はあ~疲れた」
ベッドで寝転がりながら、そう呟いた。
さてこっちはどうしよう?
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