転入編
手厚い歓迎
「今日からうちのクラスに転入生がやってくる。今日からお前たちは三年生だし今更だと思うかもしれないが、仲良くな」
四月上旬朝のHRにてー
突然担任の
ここは
西暦二一五五年、一部の国で武力抗争が起きるようになったこの世の中で資格を持ったものが武器を持つことが許された時代。
もちろん未だ武器の所持を日常化していない学校はある。
だがここ、魁皇学園にはそういった授業はないものの部活動やお家柄、または趣味で武器を扱うものも多く、活動自体はむしろ活発である。
もちろん命に関わるし危険も伴うのだが武器を扱い、将来に役立てたいと言う者も多く存在し、受験生の半数以上がそれを理由に学校を選ぶし転入してくるものも少なからずいる。
三年生になってからでなければこの学園にも転入生が来ること自体はそこまで不思議なこともない。
クラスのみんなはざわめくもそういった理由があるからか珍しいことではないと考え、落ち着きを取り戻す。
それどころかどんな転入生が来るのか心待ちにしている人間もいる。
「先生!!転入生は男子ですか?女子ですか?それとその人はかっこいいですか?かわいいですか?」
男子の一人からまさにお約束とも言える質問が挙がる。
その男子は女子から「うわぁ…」と白い目を向けられるものの、女子もなんだかんだ言って気になっているのだから現金なものだ。
「お前の期待を裏切るようで悪いが男子だ。かっこいいかそうでないかはお前らが見て判断しろ」
質問を受けた夏希は淡々と応える。
その言葉に男子は項垂れるものの、女子は少し期待している。
だが男子の中で「いや、もしかしたら男の娘かもしれぬぞ…」とぼやいている人間もいるからもうどうしようもない。
「まああんまり待たせても仕方ないしな。おい、入ってこい」
夏希が廊下に向かって人を呼ぶ。
その一言にみんなは唾を飲み込み、いまかいまかと待ち望んでいる。
だが呼んでも誰も入って来ず、一同を首をかしげるばかりである。
夏希自身もどうしたかと思い廊下を覗き込む。
夏希が先ほどから廊下で待たせていた生徒はいた。
ただ…
「……ぐぅ」
立ったまま寝ていた。
紺色のブレザーに包まれた灰色の髪の少年。
寒がりなのか赤色のマフラーを巻いていて中にはカーディガンも着込んでいる。
「…はぁ」
呆れたとばかりに夏希はため息をつく。
ただずっとこのままにしておくのも仕方ないので首根っこを掴み、教室に引き摺り込む。
その異様な光景を目にしてクラス一同は騒然としている。
そして教壇の前に立たせたかと思えば夏希が灰髪の少年の後ろに周り、腰回りに腕を回したかと思ったらそこから一瞬で…
「どっせええええええええええええええい!!」
「んぐぁ!!??」
プロレス技でいうジャーマンスープレックス(良い子は真似しないでね☆)を仕掛けた。
その光景には誰も何もいうことはなかったし、言えるわけがなかった。
何か余計なことを言えば次は自分だと思っているからである。
「〜〜〜〜〜〜!!??(何が起こったかわからないし痛すぎて息ができない)」
「多少待たせてしまったのはすまないとは思っている。だがそれとこれとは話が別だ。廊下で寝ていたことについて弁明はあるか?」
のたうち回りながら灰髪の少年は思った。
確かに寝てしまったことは申し訳ないとは思っている。
だが寝ている生徒に対していきなりジャーマンはないだろ、と。
そんな思いを乗せてキッと夏希を睨むものの、逆に睨み返されてしまい何も言い返せなかった。
「ず、ずびばぜんでじだ…」
「うむ、分かればよろしい。それで早速で悪いが自己紹介をしてもらうぞ」
「!??」
この状況で!?と言わんばかりにさらに夏希を睨む。
だが目で「いいからさっさとやれ」と言われてしまっては何も言えなかった。
なんだよこの人、まるで蛇じゃんなんて思ってたら「次蛇って言ったら殺す」なんて言われた。
もうこの世界が嫌になる。
だがそんなこと言ってても仕方ないので灰髪の少年は呼吸を整えて前を向く。
そしてここから始まるのだ。
「…この度転入してきた草薙晴一です。以後よろしく…」
地獄へ続く学園生活の一歩目が。
これから修羅の道を歩もうとはこの時は誰も、正確には一人を除いて思っていなかった。
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