箱庭の少女

@amacha3

箱庭の少女

いつもと変わらない朝

いつもと変わらない昼下がり

いつもと変わらない夜の闇


いつもと変わらない私の日常


私はこの家から1度も外に出たことがない。

生まれた時から病気を患っていて、自分の部屋から同い年の子供達が楽しそうに遊んでいるのを、ただただじっと見つめていることしか出来なかった。

羨ましいと思ったことは何百回とあれど、病気だから仕方ないと諦めるほうが早かったので、親の手を煩わせずに出来たのは良かったのかもしれない。

友達と呼べる人は16年居ないが、寂しいと思ったことはなかった。

毎日同じ時間に医師と看護師が来て、沢山の本や雑誌などを持ってきてくれるからだ。

イマドキの女子が読むようなものから、歴史書、専門書…部屋に図書館が出来てしまうのではないかというくらいの本を私はずっと読み続けてきた。

「病気の進行も進んでないようだし大丈夫そうだね!!」

「そうですか。進んでないのに外出が出来ないなんておかしなものですよね…」

「…まぁ…いきなり無理をすることは心身共に悪いから…その…」

「ふふっ…先生、いつも同じ答え。先生…私ね…なんだか16年間ずっと箱庭で生活しているような気持ちになるの。外に出られないだけじゃない。なんとなく…いつも誰かに見られているような気持ちにふとした時になるの。可笑しいでしょ?」

「…16年も家族と僕達だけの接触だから、そういう気持ちになるのかもしれないね…」



「そろそろ潮時かもしれんな」

「16年隠し通せただけでも良かったのかもしれない」

「本当のことを知った時、彼女は受け入れてくれるだろうか」

「世界は半分以上滅び、今再生の最中。地上に出ることが叶わず、地下で優秀な人類を造る『チャレンジチルドレン計画』の一人と知ったら…」

「彼女の強さと運を信じよう。16年も生き残ったんだぞ。他のチルドレンは10年持つか持たないかだった。それに…」

「そうだったな。彼女は…滅びの日に地上で生き残った男女の体内から採取した、卵子と精子で造られたチルドレンだったな。」

「誰よりも強くたくましくこの時代を生き抜いてくれるだろう…きっと…」


現在、地下シェルターには人間よりAiが半数以上を占めて暮らしている。

地下という狭い空間で生き残れなかった者が多く、生き残れた者はいつか地上に出られるように子孫を作ることを課され日々生きている。

箱庭の少女…いつか真実を知る日が訪れるだろう。

今は何も知らずに穏やかに過ごしてほしい。


『シェルター管理Aiプログラム日誌より。』

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