仲間
サレナとヴィーナの前に降りてきたのは、どうやら2人と同じ怪物を狩るものの様でした。
しかし随分2人と見た目が違います。
黒基調なのは同じですが、それ以外はほとんど似ていません。
「あんたら、名前は?」
口の悪い方は、大体身長150センチ位でしょうか。和服、それも浴衣に襷を掛けた様な格好に、束ねてもなお腰まで伸びる桜色の髪。背中から突き出て見える無骨な物体は武器でしょうか。
そして、顔の半分ほどを覆う白い布。こちらがサレナと同じ役割の子の様です。
「だから…言葉遣い…気にしてって…。あ、ウィレはウィレっていいます。こっちはセト。口が悪くてごめんなさい…いつも言ってるんですけど…。」
こちらの気弱そうな子の名前はウィレというようです。
セトという子と同じく、浴衣の様な服に襷掛け、そして桜色の髪。セトが長いのに対して、ウィレは短髪です。
そして一番特徴的なのが、顔半分を覆う厳ついヘッドギア。ヴィーナと同じ役割なのは見て分かります。
「あー…あたしはヴィーナ、こっちはサレナ。」
「ヴィーナ、サレナ。よし分かった。俺はセトだ。よろしく。」
「あの……よろしくお願いします…。」
ウィレがお辞儀するのに合わせて、セトもぺこりと頭を下げました。口は悪いですが礼儀は心得ているようです。口は悪いですが。
つられてヴィーナもお辞儀しようとするのをセトが止めました。
「先に聞くがお前ら、今まで他に誰かに会ったりしたか?」
「あー…2人、会いはしたけど…。」
「けど?」
「えっとね…その…。」
口籠もるヴィーナ。殺したなんて中々言えるものではないので仕方ありません。
どう言うか悩んでいると、先に口を開いたのは意外にもサレナでした。
「2人とも殺したよ。」
「…ほう?そりゃなんでだ?」
「片方は怪物になった。もう片方もすぐになりそうだったから先に殺した。それだけ。」
ヴィーナは驚いて振り返りました。自分と怪物以外にサレナが口を開くとは思わなかったからでしょう。
「なら良いんだ。詳しくは後で聞かせてもらう。」
「………良い、ね。ふぅん。」
「何だ?含みのある言い方だな。」
「いや?何も。今言うべきことじゃないだけ。」
「…サレナ?」
いまいち煮え切らないサレナの態度にヴィーナは疑念を抱きます。普段ならそんな回りくどい事は言わないので、何かが癇に障りでもしたのでしょうか。
そんな事を考えているヴィーナや口を閉ざしてしまったサレナの顔色をうかがいながら、ウィレが恐る恐る口を開きました。
「あの…お二方は本部には行かれましたか?まだなら…先にそちらに行きましょう?」
「本部?何それ?」
首を傾げる2人にセトは何か合点がいったのか、一つ頷いて言いました。
「だから俺のことが分からなかったわけか。なら、今から本部に連れてってやる。行くぞ。」
ウィレとセトに促され、ヴィーナとサレナはまた歩き出しました。その時ちゃんと手を繋ぐ事も忘れません。
「本部とは言っちゃいるが、まあただの溜まり場みてぇなもんでな。」
林立する廃墟の間を縫って歩きながら、セトは話し始めます。
曰く、
・リツとウィッツという手練れの2人が取り仕切っている
・他にも大勢の仲間がいる
・様々な怪物の倒し方や攻撃方法について情報交換もしている
・セトとウィレはそこで偵察や仲間の捜索を担当している
等等、ヴィーナとサレナには全てが初耳のものでした。
「まぁとりあえずはこんなところだ。分かったか?」
「大体はね。あたし達に接触して来たのは仲間を集めるためってことで良い?」
「ま、そうだな。怪物にもなってないみたいだし、見たところお前ら近接戦闘出来るだろ?好都合だったんだよ。」
「そういう事ね。あなたの武器…それ銃?には見えないけど…。」
「そう見えなくて悪かったな。銃だよ。そういうお前らの武器…そりゃなんだ?棍棒?」
「棍棒じゃなくて杖だよ?見えない?殴る以外にも色々使えるんだから。」
「それこそ見えねぇや。」
セトの背中には、風変わりな銃のような物体が2丁吊られていました。しかし、銃と呼ぶにはあまりにもバランスが悪すぎるのです。
一丁はまず長過ぎます。見た目はなんとかライフルに見えなくも無いですが、長さがセトの身長ほどもあります。
もう一丁は大き過ぎます。フォルムは拳銃に似ていますが、セトの胴体よりも大きいのはあまりにも大き過ぎます。それなのにグリップの一部が不自然にくびれています。
「銃…って、なんだっけ。」
「弾がでて当たりゃいいんだよ。見た目なんて些細な問題だ。」
「………うわっ!」
躓いたサレナの声で、ヴィーナはセトとの会話につい夢中になっていた事に気付きました。
慌てて助け起こすヴィーナへサレナは恨みがましく顔を向けます。
「…………………………。」
「………ごめん。」
「……………………………………。」
「…いやほんとごめん。」
立ち上がってもヴィーナの顔を間近で見つめるサレナ。ヴィーナも歩き辛そうです。
「サレナ…。ごめんだからちょっと離れてくれないと歩けない…。」
「……………………………………。」
「あの…サレナさん本当ごめんなさい…。」
「……ふふっ。あははは!」
突然弾けた笑い声。2人が顔を上げると声の主はばつが悪そうに口を押さえましたが、それでも声が漏れています。
「お前…ふふっ、そんな風にも笑えたんだな。ウィレ。」
声の主はウィレでした。頬を髪と同じ桜色に染めながら笑っています。
「ウィレだって笑いますよー。いや、お二人が余りにも仲良しさんなのが面白くって…ふふっ、あはははは!」
「え、そんなに仲良く見える?」
この程度はいつもの事だと思っていたヴィーナが困惑しました。
下手したらこれ以上の事をいつもしているのですから当然です。
「少なくともウィレたちはそこまではしないですよー?本部でも見たことありませんね。」
「えー…?」
2人は顔を見合わせました。目を合わせられるわけではありませんが、それだけで意思は通じるのです。
通じたその意思とは、
「無自覚にやってたけどもしかしてわたし達結構恥ずかしいことしてた?」
です。可愛いですね。
少し赤くなって固まってしまった2人を見てウィレはまた声をあげて笑います。その声でようやく正気に戻ったヴィーナは、サレナの頭を軽く叩いてまた歩く体勢に戻りました。
「お前ら息合ってんなぁ。良い事だ…フフッ」
「「お前まで笑うな!」」
「ほらそこまで息ぴったりじゃねぇか。」
「「…………。」」
今度こそ2人は黙り込んでしまいました。しかし手は繋いだままですし、覗く顔も赤く染まっています。
流石のセトももう突っ込んではいけないと思ったのか口の端を歪めて声を出さずに笑い、振り返りました。
「ほら行くぞ。そこまで遠いわけじゃねぇがこのペースじゃ時間がいくら合っても足りゃしねぇ。」
「…ごめんなさい…からかってしまうような真似を……ふふっ。」
「「………………。」」
恥ずかしいなら繋いだ手を離せば良いのに、2人にはその選択肢は無いようです。
「そういえば!大勢って言ってたけど、どれくらいの人数が居るの?」
「そこまでは知らねぇ。数えた事もねぇし、第一ころころ面子が変わるから把握も出来ねぇんだよ。知りたきゃ着いてからリツに聞いてくれ。あいつなら多分全員分把握してるさ。」
ヴィーナの苦し紛れな話題転換も失敗に終わりましたとさ。
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