片鱗
ついに頭がおかしくなったのかと、ヴィーナはサレナを見つめます。
「…サレナ?頭大丈夫?30メートルだよ?しかも距離30メートルじゃないよ?高さ30メートルだよ?馬鹿なの?」
「わたしなら多分できると思うのよね。だって?わたし?馬鹿じゃないから??」
ヴィーナは話を終わらせたつもりだったようですが、サレナはまだ根に持っていたようで…。
そしてサレナ、どうやら本気であの正体不明の物体を落とすつもりのようです。
「え…サレナ本気?」
「当たり前だよ!馬・鹿・じゃ・な・い・わたしは、もしかしたらあれを落とせるかもしれないからさ!ねぇヴィーナ?また手、貸して?」
もう一度馬鹿じゃないネタを擦ったサレナは満面の笑みでヴィーナの方を向きました。
まぁ目が塞がっているせいで口元しか笑っていませんが。後サレナ、ヴィーナを向いているつもりなのでしょうが微妙にズレた場所に顔が向いています。
「ねぇサレナ?仮にあれを落とせたとしてさ、あれが敵じゃない保証がある?落としたら襲ってきた!なんてことになるかもしれないんだよ?それでもやるの?」
不安そうにサレナを問い詰めるヴィーナですが、そんな事を気にもしないようでサレナは問題ないと言い放ちます。
これでは何をいっても無駄だと、ヴィーナは諦めて協力することにしました。
しばらくして、さっき二人がいた場所から少しずれた場所に変なオブジェクトが誕生しました。
足を開いて上体を上に反らし、左手をまっすぐ上にあげて右手に杖を構えたポーズ、よく見たらサレナです。
そしてそれに後ろから抱きついてサレナの狙いを補助しているのはヴィーナです。なんというか、一昔前のアートのような趣のあるポーズでした。
「サレナ。狙いはオッケー、いつでもいいよ。」
大きな声を出してサレナの狙いがぶれてはいけないので、ヴィーナは小声です。
「よし…いくよ!せーーの!てやぁぁッ!」
カタパルトから飛んでいく戦闘機のように、サレナの腕から放たれた杖は風を切って飛んで行きました。
まるで吸い込まれるように謎の物体に飛んでいった杖は
「………あ。」
途中で飛ぶ力を失い、落ちてきました。
「……ねぇサレナ?」
「……なんでしょうヴィーナさん。」
「一つ言っていい?」
「なんでしょうか?」
「ばーーーーーーか。」
「…返す言葉もありません………。」
もうしばらくして、また同じ体勢になった二人ですが、サレナがふと呟きました。
「…ねぇヴィーナ?ちょっと、休まない?」
「…そうしよっか。あたしもちょっと頭痛い。」
二人はしばらく休息してからもう一度挑戦することにしました。
「……ん…ふぁ…あぁぁぁぁ…。」
砂漠の砂に半ば埋もれた状態でサレナは目覚めました。細かい砂の寝床は中々に寝心地が良かった様で、サレナは気持ち良さそうに伸びをします。
「んーーっ!よく寝たぁ…。ヴィーナ?起きてる?」
「はいはいもう起きてるよー。ふふふっ…」
なんだか含みのある上にやたらと近いヴィーナの声に少し首を傾げたサレナでしたが、気にせずにあくびをしました。
しようと、しました。
「んふふふ…そーれっと!」
大きく開いたサレナの口に、ヴィーナが何か流し込みました。
「ふぁ…ッぶふぉぁっ!げほげほっゴフッ……おええぇぇ……。ヴィーナ…何すんだよ!これっゲホッ…何なの⁈」
「んーー?これはねー、そこら辺にいっぱいあるこの砂みたいな何かだよ?それがどうしたの?」
悪びれもせずにヴィーナは言い放ちました。ひどい奴です。
「それは!分かるけど!何でこんなことするの!何?まだ馬鹿の事根に持ってるの⁈」
「いや?ただのイタズラだよ?」
「……呆れて物も言えない…」
「元はと言えばあなたがどれだけ起こしても起きないのが悪いのに。あの上のやつ落とすんでしょ?ほら早く!さっさと立つ!」
「あんなに乗り気じゃなかったのに…変わり身早いんだから…もう…」
「まぁそれはそれ!これはこれ!ほーら起っきろーーう!」
サレナのローブを掴んでヴィーナが振り回します。寝起きにこの仕打ち、やっぱりひどい奴です。
しばらくして、昨日と同じ場所に昨日と同じ様なオブジェクトが誕生しました。違いと言えば、片方が少々砂の様なもので汚れている事でしょうか。
「さーて…ヴィーナ?行くよー?」
「狙いはオッケー。いつでもどうぞー。」
2人で息を合わせて、
「「ってぁぁりゃぁっ!」」
一晩寝て完全回復したサレナの投げた杖は、昨日よりもはるかに高いところまで飛んでいきます。風を切る音も軽やかに、杖は天井の物体に着弾しました。
「よし当たった!」
着弾した、までは良かったのですが。
「あ。」
「ん?ヴィーナどうしたの?」
「サレナ」
「何?」
「逃げろ。」
天井の物体は杖が着弾したところから粉々に砕け散り、尖った破片を撒き散らして落ちてきたのです。
「ズタボロになる前に逃げろーー!」
ヴィーナはサレナの手を引っ張ってその場を離れようと走ります。しかし地面の砂は走ろうとする足を絡めとり、二人を思うように進ませてはくれません。
と、急にサレナがヴィーナの手を振り払って立ち止まりました。
「サレナどうしたの?早く逃げないと!」
ヴィーナが急かしますが、サレナはそれを無視して振り返り、元いた場所に戻ろうとします。
「サレナ!何してるの⁈」
「杖…わたしの杖!あれが無いと駄目なのに!」
叫ぶサレナの様子は、以前杖を瓦礫の中に置き去りした時と同じでした。
「ちょっ…そんなの後でいいから!今は逃げっ…!」
腕を掴んだヴィーナをも振りほどき、サレナは元いた場所に戻ろうとします。そしてその上からは、砕けた物体の尖った破片が大量に降って来ています。
「サレナ…サレナぁっ!上!逃げてぇぇっ!」
取り残されたヴィーナが悲痛な叫び声を上げました。その絞り出すような声にサレナは何かを感じたのでしょうか。サレナはようやくヴィーナの方を振り返りました。しかし、戻りはしません。
「上?上がどうし」
言い終わる前に、破片がサレナの上に降り注ぎました。
「っぁぁぁ痛い痛い痛いいっ……」
腕で体を守ろうとするサレナですが、その腕すらもどんどんと血にまみれていきます。
「あああ!サレナぁ!早く!早くこっちにぃ!」
降り注ぐ破片になおも傷付けられるサレナ。それを間近で見せつけられて悲鳴をあげるヴィーナ。ですが何も出来ません。共倒れになるわけにはいかないのです。
「痛い痛いっ………」
動けずにひたすら傷付けられるサレナの動きが不意に止まりました。
「サレナ!サレナ?……どうしたのサレナ!」
ヴィーナの叫びも聞こえない様で、サレナは血まみれの右腕を掲げます。
その右腕が微かに、陽炎の様に揺らいでいることにヴィーナは気付きました。
「………aaaaァァァァアアアアアアガァッ!」
普段の声からはおよそ想像も出来ない、獣の様な叫び声を上げたサレナが、揺らいだ右腕を振りかざします。
すると。
ヴィーナが視認できないほどのところまで飛んでいっていたはずのサレナの杖が、いつの間にかサレナの右手に掴まれていました。
「アアアアアアっ…らぁっ!」
そのままサレナは杖を上に向けて振り抜きます。
杖から放たれた衝撃波が、謎の物体の破片たちを吹き飛ばすのと同時に、サレナは吊っていた糸が切れたようにその場に倒れました。
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