旅路には瓦礫と○○○を添えて
さて問題です。○○○にはどんな3文字が入るでしょう?
「サレナ!こっちは展開完了!いつでもいけるよー!」
「パーニャぁ!こっちもいけるよぉ〜!」
後衛の二人は打ち合わせ通りの場所に待機し、自分の相方に合図を送ります。
前衛の彼等はと言えば、
「了解!二人とも引き続きスキャンしててくれ!」
「……………」
パーニャは司令塔として全員に指示を飛ばし、サレナは仕事人の如く杖を握り直します。二人に目があったら視線だけでも殺せそうな雰囲気です。
二人が前衛、二人が後衛と万全の態勢で怪物からの初撃に備える四人ですが、
「………動かねえ?なんだこいつ?」
「スキャンは相変わらず全部ダメだね…どうなってるの?」
「寝てるのかなぁ?」
「……………………」
まるで彼等に気付いていないのか、怪物は全く動きません。ほんとに寝てるんでしょうか。
「なんか拍子抜けだなぁ。ほれほれ起きろー」
パーニャがハンマーの先でゴンゴンと怪物をつつきました。が、反応はありません。
「なぁヴィーナよ…これほんとに怪物か?何しても動かねえし、硬すぎるぞ?」
「さっきまで動いてたのは確実だよ。あの瓦礫から逃げる時に私達を追っかけてたんだから…でもここまでして動かないのはおかしいな…死んでるなら溶け出すはず…。」
「むぅ……ッダラァッ!」
ヴィーナの方を向いていたパーニャが振り向きざまに叩きつけた大振りの一撃も、金属質な響きとともにあっさり弾かれてしまいました。怪物はやはりびくともしません。
「痛っつぅ…ダメだこりゃ。一旦退こう。改めて対策立てないとどうにも出来んわ。サレナ?意気込んでたところ悪いが戻ろうや。」
「戻るのね?おっけーそこから七時方向に戻ってきてー。」
サレナはコクリと頷くと、パーニャの後に続いて怪物の元を離れ、後衛の2人と合流します。
「おかえり〜。で?手応えは?」
「返り討ちにあっちゃったねぇ〜?」
ニヤニヤ笑いながらヴィーナが皮肉をカマし、ウーニャがそれに悪ノリしました。ひどい奴らです。
「はっはっはっはテメェらがまともにスキャン出来てればこんなことにはならなかったんだけどなぁ?見た目だけ立派なソレは飾りかぁ?いらねぇならその皮肉垂れ流す口ごと叩き潰して瓦礫に沈めてやろうか?」
パーニャも負けずと憎まれ口を叩きます。似た者同士ですね。
まあそんな事はどうでもいいのです。必要なのは今あの怪物を倒すために何が必要かなのです。
「とにかく、あいつは動かない上に生半可な攻撃じゃ傷一つ付きがらねぇ。なんかおかしいぜ?あいつ何なんだ?」
「それが分かんないからこんだけ議論してんじゃな………」
ウーニャがパーニャ達の後ろを見たまま固まりました。どうしたんでしょう?
「?おいウーニャどう…」
「サレナ伏せろ!」
「パーニャ避けてぇっ!」
硬く鋭いものが風を切る音がしました。
同時にウーニャがパーニャを突き飛ばします。
「おいウーニャ何す…」
「ッッアアアアアアアア!」
「ウーニャ⁈ウーニャ!どうしたんだよ!おいお前らどうなってるんだ!」
「サレナ!パーニャ!そのまま前に走って!ウーニャ!早くこっちに!二撃目が来るから!」
どれだけ近づいても、パーニャがぶん殴ってもぴくりともしなかったあの怪物が、彼らの気が一瞬緩んだ隙を突いて背後に忍び寄り、球体の裏側から刃のような触手を伸ばしてウーニャの腕を肘の付け根からすぱっと斬り落としたのでした。
「痛いイダイぃぃぃぃ!たすけてパーニャァァァ!ッッあたしの腕がァァァアイダッ…」
「うるさいウーニャちょっと寝てろ!パーニャ!あたしがナビゲートするからまずは退いて!」
傷口、いえ、斬り口から溢れた血溜まりの中で腕があった場所を抑え、泣き叫びながらのたうちまわっていたウーニャをヴィーナが殴り倒して昏倒させました。斬られた腕は血塗れのまま、まだ少し動いています。
奇しくもそこは、以前レーナが瓦礫の町で倒した怪物と寸分違わず同じところです。
負傷したウーニャを抱えて三人は退こうとします。
取り敢えず、怪物の攻撃が届かないところまで。陣形を立て直さねばなりませんしウーニャの手当てもしなければなりません。
しかし、そんな見え透いた隙を怪物が見逃す筈もなく、
「サレナ11時方向からの縦斬り、後退しつつ躱せ!」
「……」
「パーニャ!」
「分かってる!後退の方向だけ示してくれ!」
「七時方向にひたすら下がれば良し!もうなんであなたそんなに避けられるの⁈本当は見えてるんじゃない?」
矢継ぎ早に指示を飛ばすヴィーナは、パーニャが本当にナビゲート無しで攻撃を躱し続けているのに驚きます。どうやらウーニャの言葉をあまり信じていなかったようです。
「そんなこと言ってる暇があったら!ウーニャを守れ!」
確かに見えていないはずなのです。パーニャの目隠しはサレナよりも色が濃いですが、違いといえばそれだけ。上にも下にもズレていません。それなのにパーニャは怪物の攻撃をスルスルと躱していきます。
まるで、目の前の怪物と息があっているかのような動きです。
そんなパーニャを、サレナがじっと見つめていました。
「ッだありゃっ!ああもう!ヴィーナぁ!まだ着かねえのかよ!」
自分よりも大きな大槌を抱えて怪物の攻撃を躱し続けるだけでも相当に神経を使う筈なのに、パーニャはその上反撃までこなしてみせます。まぁあっさり弾かれてはいますが。
「よっ…とお!こっちは退避完了!ウーニャの事は気にすんな!こっから反撃開始だテメェら!奴の無い目に物見せてやれ!」
逃げの一手を吐かされてイライラしていたのでしょうか、ヴィーナの口が相当悪くなっています。
「パーニャ!一旦その場所で待機!いつでも飛び出せるようにしといて!サレナ!殴ってダメならぶった斬れ!11時方向!」
「……ッらあぁっ!」
パーニャと合流してから一切口を開かなかったサレナが初めて口を開きました。それだけでパーニャは驚きましたが、次に起こった事象はその驚きをも通り越していきました。
サレナが怪物の体をやすやすと傷つけていくのです。
「は⁈なんで斬れんだよぉ!あたしがあんだけやってもダメだったのに…あたしって………」
パーニャは驚きを通り越して絶望しかけているようです。
「よっし!サレナ!もっと斬れ!殻剥がせればスキャンも通る!はず!だといいな!」
「せめて断言してくれ!」
パーニャが待機しながらヴィーナとコントのような掛け合いをしているのを尻目に、サレナはどんどんと怪物の殻を削り取っていきます。
全面を覆っていた銀色が剥がされ削られ切り取られ、その内側を露出させていきます。見慣れた薄い肌色が出てくるまでにさほど時間はかかりませんでした。
それと時を同じくして、ヴィーナの嬉しそうな声が響きます。
「ッッ!スキャン通った!サレナ!コアの場所!そいつの丁度中心少し上だ!パーニャ!正面の殻剥げてるから中身半分削り取れ!」
「オーケェイ!弾かれた恨み思い知れやぁぁ!」
パーニャの一撃で怪物の半分位が削り取られ、コアが露出します。
何度も弾かれた挙句にヴィーナとウーニャにそのことで煽られていたので、篭った恨みは相当なものだったでしょう。
「上出来!サレナ!10時方向パーニャと場所入れ替われ!」
「よしっ!サレナ!12時方向正面にコア!ぶち抜いて終わらせろ!」
一瞬の内にパーニャと場所を入れ替えたサレナは、正面のコアを
「っだああぁらっ!」
周りの身体ごと大上段から真っ二つに両断しました。
二つに割れた怪物の身体が瓦礫の上を転がりながら溶けていきます。その乾いた音を勝利のファンファーレ代わりに、彼らは少しの間休息することにしました。
確かに怪物が倒れたのを見届けると三人はウーニャの元に倒れ込むように集まりました。しかしまだ、ウーニャの目覚める気配はありません。
「おーいウーニャ!あいつ倒したぞ!お前の腕の借りは返したから早く…起きてくれ…」
「おーい、もう終わったよー。中々起きないなぁ…まぁ眠らせたのはあたしだけど…早く起きてー!」
眠らせる原因と眠らせた元凶がウーニャをぺしぺし叩きながら呼びますが、ウーニャは起きません。それどころかサレナも居なくなってしまっています。
「……起きない」
「起きないね………」
「なぁ…ヴィーナ…?もしこのままウーニャが起きなかったら…あたしはどうすれば…?」
ずっと一緒に戦ってきた仲間を失いそうな現実に、パーニャも弱り切っているようでした。さっきまで威勢よくハンマーを振り回していたのが嘘みたいです。
「パーニャさえ良ければあたし達と組むって事も出来るけど…ウーニャは…置いていくことになると思う。荷物にしかならない状態のを連れていくわけにもいかないから…。」
「……そうか……ウーニャ…」
「ずいぶん深刻な話ししてるけどぉ…わたしおじゃまかなぁ…?」
そんな空気の中でもウーニャは平常運転のようです。…?
「ウーニャぁぁ!起きてくれたのかぁぁぁぁ!」
うるさいです。
「パーニャぁぁぁ!無事でよかったよぉぉぉ!」
もっとうるさいです。再び生きて会えたことを喜ぶのはいいですが、もう少し静かにはならないのでしょうか。
「荒っぽい真似してごめんなさいねウーニャ。その腕はもう戻らないと思うけど…一応活動に支障はないからね。これからも2人でやっていけると思うよ。まぁ…2人かどうかはサレナ次第かも、だけどね。」
2人とは対照的にヴィーナは冷静です。耳に優しいですね。
そんな三人の元に足音が近付きます。そう言えば、サレナが居なくなってしまっていたんでした。
「あ、起きたんだね。よかったよかった。ヴィーナ治療の時は何時も荒っぽいからもう起きないかと思ったよ。パーニャの方は別にやる必要も意味もないから、ウーニャだけでも起きてくれてよかったよかった。」
ずっと喋らなかったさっきとはまるで別人の様に流暢に喋るサレナに、パーニャもウーニャもきょとんとしています。それに構わずヴィーナは、
「サレナおかえりー。ウーニャはもう大丈夫。パーニャの方はもう手遅れだから問題無くやっちゃって良いからね。今いる場所から12時方向にいるよ。」
「やっちゃってって…?なんの事だ?」
訝しげにヴィーナの方を見つめるパーニャですが、それにヴィーナはあっさりと返します。
「?敵がいるじゃない。そこに。あーもしかして自分じゃ理解出来ないかな?」
「?何処にっ………ぁあ?」
すとん、と。まるで毎日やる当たり前の仕事のように。サレナは、パーニャを右肩口から左の腰まで両断しました。
パーニャの間抜けな声がやけに響きました。
「……サレナ。頭外してる。10時方向に転がったから潰しちゃって。左足のすぐ近く。」
「了解。」
「……………はぇ?」
自分の相棒がなす術もなく殺されかけている現状にようやく理解が追いつきかけたウーニャが疑問と非難と絶望の混ざった声をあげると同時に、サレナはずり落ちたパーニャの頭をこれまたあっさりと踏み潰します。
気持ちの悪い、嫌な音がしました。
「あー。ウーニャには特に関係無いから特に気にしなくて良いよ?あれはいわば危険の芽を摘み取ってるだけだからさ?もうちょっと寝てな?」
ヴィーナはウーニャに優しく言います。
が、ウーニャはまるで納得していません。
「関係無いってぇ…あたしの相棒…だよぉ?危険の芽って……どういうことぉ…?」
困惑したウーニャが弱々しくヴィーナに問いかけます
「それに関してはサレナの方が知ってるよね?」
「説明が必要か…。んーとね?一応最初に言っておくと、こうせざるを得なかったのはウーニャにも責任の一端があるんだよ?」
「…えぇ?」
「ヴィーナとかウーニャみたいにそれ越しに見てる分には良いんだけどね。わたし達は武器を握ってあの怪物達と直に戦っているわけですよ。するとね…何というか…あの怪物達を自分の中に取り込んでる感じになるのよね。」
2人のヘッドギアを指差しながら、パーニャだった死体が溶けていく音をBGMにサレナが説明を始めます。
「取り込んだ分は段々と私達の中に溜まっていくんだよ。あの怪物が、わたし達の中に溜まっていくんだよ。そしてそれは、怪物に傷付けられると取り込む量が増えていくんだよ。傷口から入ってくるみたいにさ。それが溜まりすぎると、どうなるか分かる?」
「……あいつらに、なっちゃうってことぉ?」
「そういうこと。だからあいつらと同じになる前に殺したの。そうしておかないとわたし達が危険だし、何より面倒だ。ほら、見なよあれ。あれさ、悪く言えば君のせいなのよ。君が無能だったせいで、パーニャは傷付き過ぎたから、ああなった。それで非難されるのはちょっと嫌だよ?」
今はもうほとんど溶けかけ、原型も殆ど留めていないパーニャだったものを指差して、サレナは宣告します。
誰のせいでこうなったかを。誰が無能だったのかを、ただ事実として口に出します。
「一応ウーニャは問題無いから、あなたさえ良ければあたし達と来る?戦う相棒が居ないのは危険よ?」
ヴィーナが提案しました。
「ヴィーナ…本気?わたしはヴィーナ以外いらないんだけど…。」
「んー?それはウーニャ次第かな?」
「………………あたしのせい……パーニャ…パーニャ…パーニャ………」
「あれ、大丈夫?ウーニャーー?おーい。」
「…いやぁ……いやぁ………」
「??何が?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!もうやだよぉぉ!」
発狂したようにウーニャは2人から離れて走り出しました。片腕が無いので少々不格好な走り方です。それを見たサレナは呆れたように杖を構えます。まるで槍を投げるように。
「あれはもうダメだね…。怪物どもにやられる前に終わらせてやろうか。ったあっ!」
言い終えると同時に投げられた杖は、寸分違わずウーニャの後頭部を串刺しにして地面に突き立ちました。
「あー……うるさいのが減った。取りに行かないと…。」
「いや…少し休もうサレナ?疲れちゃったよ……。」
「そだね。ヴィーナ、あいつらの相手で疲れちゃってたでしょ?本当は苛々してたの聞いてて分かってたよ。」
改めて、二人は暫く休むことにしました。ヴィーナは波長の合わない二人と常に一緒にいましたし、サレナも勝手のわからない怪物相手に戦い、その後も二人を殺すのに体力を使ってしまいました。疲れるのは当然でしょう。
得体の知れない変な怪物とプラスアルファを倒した二人は、また暫しの休息をとります。でもここで休んでしまったら血の臭いが取れなくなってしまいそうですね。
それでも二人はそんなこと気にしません。何故なら怪物を倒すのに関係ないからです。
最初の問題の正解は、「血と骸」でしたとさ。
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