血染めの道
「ヴィーナ」「ヴィーナ」「ねぇなんでぇ?」「なんでだよ」「何も殺す必要も無かったと思うんだけどぉ…」「なんで殺したんだよ」「なんでぇ?」「なんでなんだ?」「痛いよぉ」「痛ぇんだよ」「頭痛いよぉ…」「腕が痛むんだよ」「穴空いちゃった頭痛いよぉ」「斬られて無くなった身体が痛むんだよ」「痛いよぉ」「潰された頭も痛むんだよ」「ねぇ」「おい」「なんで?」「なんでだよ」「教えてよ」「答えろよ」「なんで殺したんだよ?」
夜が明けました。サレナが起き出してきましたが、ヴィーナが起きてきません。
「ふぁ……朝だよー。ヴィーナ起きて…。あれ?ヴィーナ?」
サレナが呼ぶまでもなく、いつもならサレナよりも早く起きているヴィーナが、今日は起きてこないのです。
瓦礫の町の時とは逆にヴィーナがどこかに行ってしまったのかとも思いましたが、手探りで触ってみると昨日寝た場所と同じところにヴィーナはちゃんといました。
ということは、ただのねぼすけさんでしょうか。
「ヴィーナ起きてー。朝だよー。おーい。…………起きろーーー!」
ヴィーナのヘッドギアは幅広で、目以外にも頭の上部分ほとんどを隠す様に覆っているので、耳も隠れてしまっています。
しかしヴィーナはいつもサレナをナビゲートする為に叫んでいますし、こそっとサレナが言った悪口も聞こえています。耳元で叫んだサレナの声が聞こえていないはずはないのです。
「ヴィーナ寝てるしわたしも寝ようかな…えいっ!」
サレナはヴィーナのお腹の上にダイブしてみました。まだ起きません。
ほっぺつんつんしてみました。まだ起きません。
「むぅ…本当に寝てるだけ?死んで無い…
よね?」
どうやらちゃんと息はしています。寝てるだけですね。
「ヴィーナ〜……」
次は何をしてやろうかとサレナがヘッドギアのレンズにドアップで自分をうつしてみようとした瞬間でした。
「ッうぁぁぁぁぁ!あたしに近寄るなぁぁぁ!」
ヴィーナが急に跳ね起きました。ヴィーナの顔にキスせんばかりに接近していたサレナは避ける間もありません。鈍い音がしてサレナが悶絶しました。
しかしレンズに顔が映っただけで跳ね起きるとは、そこまでサレナの顔面が怖かったのでしょうか。
「痛ったあぁ…レンズが…顔に…」
「ぁぁぁぁぁ!違う!あたしじゃ無い!あなたたちを殺したのは!あたしじゃ無い!だからそんな目であたしを見るなぁ……あれ?サレナ?どしたの?」
「どしたも…こしたも…ヴィーナのそのヘッドギアのレンズがね…顔に…角が…痛い………」
「あらあらそれはごめんね。ちょっと目覚めが…悪くてね。」
いつもは自分がやらかした事でも積極的にふざけていくヴィーナが、どうも今日は歯切れが悪いのです。
「目覚めが悪いって?ヴィーナどうしたの?そんなことになる出来事は特に思い当たらないんだけど…。」
「いやぁ…。あの二人が夢に出てきちゃっただけよ。もう多分大丈夫だから。さ、行こ?怪物達は待っちゃくれないんだから!」
口調こそ元気になった様ですが、サレナは相棒の不調を察しました。ヴィーナの顔を見る事は出来ませんが、その分声色で相棒の事はよく分かるのです。伊達に四六時中一緒に居る訳ではないのです。
「…………………」
「あれ?サレナどしたの?動けない?」
「ヴィーナ」
「だーかーら何?どしたの?」
「こっちの台詞。何があったの?教えて。」
「…やっぱり分かる?」
ばつが悪そうにヴィーナは舌を出して見せます。
「顔は見えないけどそれくらいは分かる。どれだけ一緒にいたと思ってるの?」
「そりゃそうかー……むぅ」
「話してみせて?何があったの?」
「ちょっと…話さないとダメ?」
「ダメ」
有無を言わせぬ雰囲気の即答です。ちょっと怖い位の。
「あの二人がね…夢に出てきちゃったのよ。なんで殺したのってさ…。パーニャとか腕落とした時のままだし、ウーニャも頭に穴空いてたんだよ。それもう喋れないでしょって傷なのに声が聞こえるのよね…。あんまりちゃんと寝られてない…。」
「なんで殺したのって…あの時説明しなかったっけ?あいつらと同じになりかけてたから殺したって言ったと思ってたんだけど。」
「確かにそうなんだけどね?他に何かなかったのかって責められてるのかなー…。」
「死んだ相手に何考えても無駄でしょ。そこに自分が殺したか殺してないかは関係無いの。わたし達は怪物を殺す為に目覚めたんだから殺すことだけ考えてればいいのさっ!」
話は終わりとばかりにサレナはヴィーナをぎゅーっと抱き締めました。少し、ヴィーナの表情が和らぎます。
「ちょっと!サレナ力強いんだから加減してよ!ちょっと痛いんだからね?それ。」
「うん!でもこれで元気になったでしょ?さ、今度こそいこうか!」
流石はサレナ、相方の元気になるツボは知り尽くしているようです。さっきとは見違えるように元気を取り戻したヴィーナは、少し笑ってサレナの後を追いました。
少々の血溜まり程度では、彼らの足は鈍らないのです。
歩き始めたヴィーナはしばらくしてふと振り返りました。崩落した瓦礫の町はまだ大きく見えますが、戦場を彩った血溜まりはもう小さく霞んで見えません。
「…………なぁんだ。離れて見てみればこんなに小さいものだねぇ!」
ヴィーナは何か吹っ切れたようでした。
「ヴィーナ?どしたの?なんか見えた?」
「いや?逆だよ。あたしたちを取り巻く瓦礫に比べれば私達なんてちっぽけだなぁと思っただけ。少し離れてみれば簡単に分かるのに今更気づいたよ!」
「…??大丈夫そうだけど…?どうしちゃったの?」
晴れやかに答えるヴィーナにサレナは少し困惑しています。
「大丈夫!さぁ行こう!まだまだ奴等を殺さないとね!」
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