第8話 ジマシアン大陸

二時間の船旅を終えたホライ達は魔導大陸ジマシアンに到着した。

ホライ達の乗っていた船は港町ノアに錨が降ろされ、次々と乗客が船から降りていった。

「うわー!ここがジマシアンかあ!」

「ふふ、まるで目を疑いたくなる光景がたくさんあるね。」

ロゼの言う通り、ノアの港町は屋根がクルクルと回る家や水晶玉が浮かぶ店、絨毯に乗って飛んでいる人など、ホライ達のいた大陸ではまず見られない光景がホライ達を出迎えた。

「ロゼ見て、魔法の絨毯!本当人が絨毯に乗って飛んでるよ!」

「これはすごい…。噂では聞いたことがあったけど本物を見るのは初めてだ…。」

「…。」

リーゼはその光景をぼんやりとした顔で眺めていた。

「リーゼ、こっちこっち。」

「ほえ…?あ、待ってくださ~い!」

リーゼが気がついて前を見るとホライ達が前に進んでいた。リーゼは駆け足でホライ達の元まで駆け寄っていた。

「…よかった。この町もこんなに…。」


ノアの港町はジヨーセンの町のように、たくさんの旅行客の楽しそうな声と商人達の客寄せ声で賑わっていた。

「いらっしゃいませー。お土産に魔導書はいかかですかー。生活に便利な魔法がたくさん覚えられますよー。」

「へえ、魔法だって。ちょっと見てみたいな。」

「いいね、もしかしたら君の光の魔法に関しても何かわかるかもしれないね。」

ホライ達は魔導書が売られている本屋に興味を持ち、各々で魔導書を見ていった。

「光の魔法…光の魔法…。うーん、ここにはないのかな…。」

「…やっぱり、勇者も使っていた魔法ってなると難しいのかな…。」

ホライとリーゼが光の魔法に関する魔導書を探したが、その本屋にはどこにも置いてなかった。

「ホライ、リーゼ、光の魔法の本は見つかったかい?」

「ううん、さっぱり…あれ、ロゼ?その本は?」

声をかけてきたロゼの手には緑色の表紙の本があった。

「ああ、これは「自然の魔導書」と言うもので自然の力を操る魔法を覚えられる魔導書なんだ。」

「自然の力を…?草木や花を自由に咲かせたりできるのですか?」

「へえ、それじゃあ村に花畑をたくさん作れるね!」

「ああ、この先の旅は何が起こるか分からないからね。護身用に覚えておこうと思ったんだ。」

「そっか…なら僕もなにか覚えてみようかな。」

「わ、私も覚えたいです。」

「好きに見ておいで、私は光の力が書かれた魔導書を探してみるよ。」

ホライとリーゼは散り散りになって面白そうな本を探し回った。

数分経ってから古い魔導書を読み漁るロゼの元に二人が揃って戻ってきた。

「ロゼー、僕これにする。」

「私はこれにしたいです。」

「なるほど、ホライは炎でリーゼは治癒…。面白い魔法を選んだね。」

「うん、炎ってあればご飯も作れるし、寒いと思ったら暖も取れるから便利かなって思ったんだ。」

「もし旅の途中でお二人が怪我をしたり風邪をひいてしまった時は私が治そうと思って…。」

「うん、二人とも素敵な考えだね。そのためにも早くこの魔法を覚えようか。」

「うん!」

三人はそれぞれが持ってきた魔導書を店員に包み紙に魔導書を包んでもらった。

三人は魔導書の店を出ると、ホライはワクワクしながら包み紙を解いて魔導書を読もうとした。

「ホライ君、もう読むの?」

「えへへ、早く覚えたいんだ。」

「前に気をつけて読むんだよ。ぶつかって怪我してもリーゼはまだ治癒魔法を使えないんだからね。」

「そ、そうなってもいいように私も覚えなくちゃ…。」

リーゼも魔導書の包みを解いて魔法を覚えようとした。


「さてと、魔法を覚えようとしているところ悪いけどこれからのプランについて君たちに話そうか。」

「あ、そうだね。まだどこに行くかとか聞いてなかったし。」

ロゼは乗船所でもらったジマシアン大陸のガイドブックを取り出し、近くの空いてるベンチに二人を座らせた。

「まず私たちがこのジマシアン大陸を冒険するなら、活動の拠点となる場所を見つけなくちゃいけないね。そこでまずはここを目指そうと思うんだ。」

ロゼはジマシアン大陸の地図が載ったページの真ん中あたりを指さした。

「ここ…ウィハード王国?」

「そう。ジマシアン大陸の中心とも言えるこの王国を拠点にしたいんだ。」

「でも、ここからかなり遠いですね…。」

リーゼの言う通りウィハード王国はノアの港町からかなり遠い所に位置しており、その間には鬱蒼と生い茂った森林地帯もあった。

「…森を抜けないといけないんだ。歩きで行ったらとても一日で着きそうにないよロゼ…?」

「ふふふ、このページを見てごらん。」

ロゼは地図のページをめくって、『魔法絨毯運行サービス』と書かれたページを見せた。

「魔法絨毯運行サービス…?もしかしてあの絨毯に乗ってどこにでも行けるの?」

「その通り。歩きで一日以上かかるウィハードへの道も、魔法の絨毯に乗れば20分程で着くんだ。」

「すごい…!あの魔法の絨毯に私達も乗ることが出来るのですね!」

「やったー!一回乗ってみたかったんだあの絨毯!」

「という事で、最初のプランはノアから出てる公共魔法絨毯に乗ってウィハード王国を目指す。二人ともいいね?」

「うん!」「はい!」

ホライとリーゼは子供らしくワクワクと胸を躍らせながら、ロゼに手を引かれて魔法の絨毯の停留所へと向かった。

しかし、三人が停留所に着くとそこは長蛇の列が出来上がっていた。

「うわっ…なにこれ。みんな魔法の絨毯に乗りたがってるの?」

「そうらしいね…。しかしこんなにも長い列が出来るものなのか…。」

「…なんだか前の方がザワついていませんか?」

絨毯を待つ長蛇の列から「遅くないか?」「まだ来ないのか?」と中々こない魔法の絨毯にイライラする声が聞こえていた。

三人が様子がおかしいと気がついた時、一人用の魔法の絨毯に乗った男性が大急ぎでやってきた。

「み、みなさん申し訳ございません!ウィハード王国行きの魔法絨毯なのですが、絨毯が原因不明の事故にあって運転手共々行方不明となっております!」

「えっ!?」

その男性の言葉で並んでいた人々はどよめきだし、どういうことだと大声を出す人も現れだした。

「ですので申し訳ありませんが、魔法の絨毯の運転手が戻ってくるまでもう暫くお待ちください!」

並んでいた人々は怒る者もいればがっかりする者、呆れてその場を去る者とバラバラになっていた。ホライ達はがっかりしながらその場をすごすごと立ち去っていた。

「そんなぁ…せっかく魔法の絨毯に乗れると思ったのに…。」

「仕方ないさ、事故はいつでも起こりうるものだよ。」

「でも…魔法の絨毯に乗れないのなら歩きで行くしかありませんよね…。」

ロゼはガイドブックを再び広げると、少しため息をついて二人に新たなプランを説明した。

「二人とも、予定を変更して歩きでウィハードまで向かうとしよう。」

「やっぱり歩きになるのか…。僕は大丈夫だけどリーゼは大丈夫かな。」

「いいや、さすがにウィハードまでずっと歩いたりはしないさ。途中途中で村や町に寄って休みを取りながら行くんだよ。」

ロゼはガイドブックを開いて二人に見せた。

ガイドブックにはさっきまで付いていなかった箇所に赤丸が付いていた。

「この赤丸で囲んだ所に寄っていく、という事ですか?」

「うん、それにその村や町は魔法の絨毯の停留所があるんだ。僕らが歩きで向かっているうちに問題が解決すればそこから絨毯に乗ってウィハードに向かえるよ。」

「ほんと?やったー!」

また絨毯に乗れるかもしれないと分かったホライとリーゼの二人は分かりやすく顔に明るみを出して喜んでいた。

「ふふふ、二人とも良かったね。それじゃあ早速向かうとしようか。」

「うん、まずはこの村だね!」

ホライが指さした村は『クロマジュの村』という名で、ジマシアン大陸の魔導師達が平和に暮らす村の一つであった。

「クロマジュの村…。魔道士さん達がいっぱいいる村なのですね…。私たちに魔法を教えてくれたらいいな…。」

「そうだね。僕も光の魔法についてなにか知れたらいいな。」

ホライ、ロゼ、リーゼの三人はそんな期待も胸にノアの港町を出発した。

原因不明の事故によって魔法の絨毯に乗れなくなり、幸先の悪いスタートになってしまったホライ達の旅。これはこれからホライ達に降りかかる困難や試練、そしてこれから世界に巻き起こる災いの狼煙になるのかもしれない。






一方その頃、ジマシアン大陸の某所ではゼオが一人の女性と話をしていた。

ゼオとは対照的に白いローブを身にまとっていた女性はフードで顔を隠しながらゼオの話を聞いていた。

「…これを、本当に…。」

「どうした。まさか今になって強大な力に恐れをなしたわけではなかろう。」

「…いえ、これなら…。この力を持てば…私の力をこの世界に知らしめることができる…。」

「そう…復讐するんだ。この世界に。」

「…はい。私の力で…世界を変えます。」

そう話す二人の目の前には塔のように巨大な大砲が聳え立っていたのだった。








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