第6話 探求の旅へ

港町ジヨーセンでは、ホライのことを探しに来たロゼがニコルの家を訪ねてきていた。

ホライが心配で気が気でないロゼを落ち着かせるために、ニコルは彼を自分の家に入れて話を聞いていた。

「ホライに…ホライにもしもの事があったら…!私はどうすれば…!」

「ロゼさん…。焦ってもどうにもなりません。今はホライ君の無事を祈りましょう。」

「ニコル先生、ですが…!」

ロゼは焦った顔でニコルに詰め寄った。するとニコルの家のドアを強くノックする音が聞こえてきた。

「おーい!ニコルさん!大変だあ!」

「町長さん…?こんな時間になんの用でしょうか…?」

ニコルが鍵を外してドアを開けると、ぜえぜえと息を切らしながら町長が家に入ってきた。

「ニコルさん!海賊だ!海賊の奴らがまたこの町に!」

町長が港の方角を指差すと、大きな船がやってくるのが見えていた。

「何…?こんな夜に来たことは一度もないはず…。」

「海賊…!ホライ!!」

「ロゼさん!」

ロゼは町長を退けてニコルの家を飛び出し、携帯していた鞭を片手に港まで走った。

遅れてニコルと町長、そして騒ぎを察した町人達が港に集まったのだった。

「海賊め…ホライはどこだ!」

「ロゼさん落ち着いてください!相手は大勢いるのですよ!」

各々がざわめいていると、海賊船から橋がかけられてその中から海賊がぞろぞろと出てきた。町人達は驚いて逃げ出したりその場で腰を抜かして震えていると、海賊達は一斉に整列しだした。

「ジヨーセンの町に着きやした!皆さんどうぞお降り下さい!」

ロゼ達がその様子を唖然としながら見ていると、船からホライ、リーゼ、モカジの3人が降りてきたのだった。

「はあ…やっと帰ってこれたよ…。」

「船旅、楽しかったですね。」

「ずぅっと座ってたからおしりが痛いなぁ。」

「ホ、ホライ!!」

ロゼはホライの姿が目に入ると、彼の元に出向いて彼を強く抱きしめた。

「うわわわっ!?ロ、ロゼ…!?どうしてここにいるの…!!」

「よかった…!本当によかった…!」

人目を気にせずロゼがホライを抱きしめていると、その後ろからニコルがやってきた。

「…ホライ君、これは一体どういうことなのですか?」

「ニコル先生、話せば結構長くなるんだけど…。」

ホライはロゼとニコル、そして町長や町人達を集めてこれまでにあったことを話した。

「つ、つまり君たちが海賊をやっつけて…、海賊達を改心させたという事ですかな…?」

「そうだよ、町長さん。」

「や…やったー!やったー!もう海賊に怯えなくていいんだー!」

町長が年甲斐もなく大はしゃぎすると、町人達も抱きしめあったり踊ったりして大喜びした。

「皆の者!この町の平和と、この町を救ってくれた小さな英雄たちの活躍を祝う宴を始めようぞ!今すぐに準備にとりかかるのだー!」

「「「「おおー!!」」」」

町長からの号令に、町人達はウキウキしながら宴の準備を始めた。

「ささ、ホライ殿、リーゼ殿、モカジ殿。宴の準備が出来るまでゆっくり休んでいてくだされ。」

「え…?あ、うん…。」

(英雄って言われても…私何もしてないんだけどな…。)


町長達が宴の準備を進めている間、ホライ達は一旦ニコルの家に集まった。

「…ロゼ、心配かけてごめんなさい。」

「…。」

ホライはニコルの家に着くや否や、ロゼに頭を下げた。ロゼはそんなホライの頭を優しく撫でて応えた。

「…君は昔からそうだった。許せないことがあったら、無茶をしてでもそれを止めようとした…。今回もそうなんだろう?」

「…うん。」

「君は本当に良い子だね…。だけど、もう二度とこんな無茶をしないで欲しい…。君が傷つく姿はもう見たくないんだ…。」

「…ロゼ、分かった。」

「うん、だけど君が無事で本当に良かった。」

ロゼは今度は優しくホライを抱きしめた。

「うぅ…。ロゼって人、いいお兄さんだなぁ。」

「うん、本当にいいお兄さん…。いいな…。」

ニコルはロゼとホライが話している間に、魔法に関する資料を読み漁っていた。

「しかし色々と気になるところがありますね…。ホライ君の光の力…。」

「うん、僕も急に体が光り出して、唱えたことがない魔法が頭に入ってきたんです。」

「…光の魔法『ライズ』。かつてこの世界を救った勇者も使っていたと言われる魔法です。」

「勇者も…?そんなすごい魔法をホライさんが使えたのですか…?」

「勇者もとは言っても、我々一般人も修行を積めば扱えるようにはなります。ただホライ君のようにいきなり使えるようになる例は聞いたことがありません…。」

「…ホライ、君は本当に不思議な子だね…。」

その場にいた全員が考え込んでいると、町長がニコルの家に入ってきた。

「皆さん、宴の準備が整いましたよ!さあさ、町人があなた達を待っております!」

「わわわっ、ちょっと…」

町長はホライを押して無理やり宴の会場まで案内した。他の4人もそれに続いて町長についていき、笑顔の町人達が集まる宴の会場に到着した。


「皆の者!今このジヨーセンの町に新たな伝説が生まれた!悪しき海賊から我々を救い、我々の宝物を取り返してくれた偉大なる英雄たちの誕生を祝って、かんぱーい!!」

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」

町人達が飲み物が注がれたグラスを高々と掲げて、町の英雄であるホライ達を祝福した。

壇上に上げられた3人は用意された食事に手をつけていた。

「わははぁ、うめぇなぁここのご飯!」

「えーっと…た、食べていいのかな…。私なんにもしてないのに…。」

モカジは豪快に用意された食事を食べ、リーゼは遠慮をして中々箸を進めていなかった。

リーゼがホライの方に目を向けると、浮かない顔をしながらご飯を食べるホライが目に入った。

「ホライさん…。」

「ん…リーゼ。どうしたの?」

「…やっぱり気になっているのですね。あの時言われたこと…。」

「うん、それもそうだけど…。光の力の事も気になるんだ…。僕って何者なのかな…?」

ホライは星空を見上げながら分かるはずもない疑問に思いを馳せていた。

そしてホライは疲れが回ってきたのか、食事にほとんどありつけずにそのまま眠ってしまったのだった。


次の日、ホライが目を覚ますと自分の家の自分の部屋にいた。

「あれ…?僕の部屋…?そっか、確か宴の途中で寝ちゃったんだっけ…。」

すると部屋の外から料理を作る音が聞こえてきた。

「誰かいるの…?ロゼかな…?」

ホライが部屋を出て台所を見てみると、そこにはリーゼが料理を作っていた。

「リーゼ!」

「あ、ホライさん起きたのですね。あの宴の時に寝ちゃったから、ロゼさんと一緒にスナエコの村まで運んできたのですよ。」

「そ、そうなんだ、ありがとうねリーゼ…。でもリーゼはどうして僕の家に?」

「私は旅をしてるから、帰るところがなかったの。このまま旅を続けようと思ったけど、ロゼさんが『夜にレディが一人で旅にするのは危険だから、今日はホライの家に泊まっていきなさい』って…。」

「なるほどね…。」

リーゼは用意した朝ごはんをテーブルの上に並べた。ホライは席に着いてリーゼと一緒に朝ごはんを食べた。

「モカジさんは船乗りになるためにジヨーセンの町に残ったんです。」

「そうなんだ。また今度会いに行こうかな。ところでさ、リーゼはこの後どうするのさ?」

「はい、また旅を再開して赤い宝石を探しに行こうと…。」

二人が食事を取っていると、優しいノック音と共にロゼがホライの家のドアを開けた。

「やあホライ、おは…」

「ロゼさん、おはようございます。」

「…そうか、リーゼもいたんだね。おはよう。二人とも知らない間に随分と仲良くなったんだね…。」

「ロゼ、入りなよ。一緒にご飯食べよ。」

ロゼは家にあがるとホライの隣に座った。

「ホライ、君が取り返したヨミさんの指輪は僕が届けておいたよ。ヨミさんが今度お礼をしたいって。」

「そっか。ヨミおばあちゃんが元気になってよかった!」

ホライは嬉しそうにパンを頬張っていた。

「ところでリーゼ、君はこの後どうするつもりだい?」

「私は…赤い宝石を探して旅を続けようかと…。」

「そうか…レディが一人旅に出かけるのは私としては反対だが…やむを得ない事情があるなら仕方がないな…。」

「ん…ロゼ、その事なんだけどさ…。」

ホライがご飯を口に運ぶ手を止めてロゼの方を向いた。

「僕もリーゼの旅についていきたい。」

「!!?」

「えっ?」

ロゼはホライの突拍子のない発言に食べていたパンを喉に詰まらせて激しく咳き込んでいた。

リーゼに水をもらって落ち着いたロゼはホライの肩を掴んで詰め寄った。

「ホホホホホライ!?何を言い出すんだいきなり!?」

「いや、僕もリーゼの旅について行こうかなって…。女の子一人で旅をするのが危険なら僕もついて行った方が安全だしいいかなと思ったからさ。」

「君だって子供だろう!それにわざわざ君が旅に出る理由なんてないはずだ!」

「ううん、ロゼ…実は…。」

ホライは灯台でゼオが話していたことをロゼに打ち明けた。

「…結局僕のブローチも無かったし、あいつらが持っているなら取り返したいんだ。ロゼ…分かってくれないかな…。」

「…確かに、あのブローチは君にとって大事なものだ。取り返したいと言う気持ちも分かる。」

「それに…、気になってるんだ。あの光の力。」

ホライは両手のひらを自分の方に向けてまじまじと眺めた。

「…今まで気になってなかったけどさ、昨日の出来事で気になりだしたんだ。自分が何者なのかが…。」

「ホライ…そうか…。これまで私も君の見えざる部分には目を背けてきたが…、そろそろ向き合わないといけないようだね…。」

「…?」

ホライとロゼの会話にリーゼは置いてけぼりになっていた。ロゼは重い腰を上げてホライの頭に優しく手を置いた。

「分かったよホライ。いずれはこんな時が来るとは思っていた。リーゼとの旅で、本当の君を見つけてくるといい。」

「ほんと…?ロゼ、ありがとう!」

「ただし、一つ条件がある。私もその旅についていかせてもらうよ。」

「ロ、ロゼも!?」

「へ?ロゼさんもですか?」

「当然さ、どういった目的であっても君たち子供が二人だけで旅をするだなんて危険だよ。せめて私がついていって君たちの面倒を見なければ…。」

ロゼは腰に手を当ててホライを諭した。ホライとリーゼは目を見合わせて、意見を合致させたかのように首を縦に降った。

「うん、そうだね。分かったよロゼ。ロゼがいてくれればきっと頼りになると思うな!」

「ロゼさん、よろしくお願いします。」

「ふふふ、楽しい旅になるといいね。それじゃあ二人とも、旅の支度を始めようか。まずはどこから行くかのプランも立てないとね。」

「おー!」

3人は各々で必要なものをリュックに詰め込んで支度を始めた。


ホライ達は準備を終えると、村の人たちを旅に出ることを知らせた。

その知らせを聞いた村人達はホライ達を見送るために、一斉に村の入口まで集まってきた。

「ロゼ様~…ロゼ様行かないで~…」

「私たちともっとデートしましょ~…」

「すまないねレディ達…。目的を果たしたら、必ずこの村に戻ってくるよ。その時は旅の話をお土産に君たちに聞かせてあげるよ。」

「や…約束ですよ~…ロゼ様~…。」

ロゼの周りにはロゼの旅立ちを悲しむ女性たちが集まっていた。ロゼはそんな女性たちの頭を撫でて、優しく慰めていた。

そしてヨミはホライとリーゼを見送ろうと彼らの前にやって来た。

「大丈夫だよホライ君、海賊を倒したあなたならきっと悪い人が来てもやっつけられるよ。リーゼちゃんとロゼさんを守ってあげてね。」

「うん、ありがとうヨミおばあちゃん。僕頑張るよ!」

「リーゼちゃんも、無理はしちゃいけないよ。きっとホライ君が守ってくれるから、安心して旅をしなさい。赤い宝石が見つかるといいねえ。」

「ありがとうございます、ヨミおばあ様。」

ホライはガッツポーズで、リーゼはペコリとお辞儀をしてヨミの言葉に応えた。

「…よし、それじゃあ二人とも、行こうか!」

ホライ達は村人達の声援を背に受けて、村を出発した。

これからどんな人と出会えるのか、どんな試練が待ち受けているのか、三人は一抹の不安と大きな期待を胸にその足をジヨーセンの町に向けて進んだ。

今ここに、もう一人の勇者の伝説が始まったのだった。








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