第5話 深まる謎
シノイは体制を立て直し、再び大剣を構えた。そして呼吸を整えながらホライに睨みをきかせるが、ホライは臆することなくジリジリと近づいてきていた。
「ア…アタイをぶっ飛ばすだって…?ちょっと力が出せたくらいでいい気になるんじゃないよ!!」
「こっちは本気だ!罪のない人達から大事なものを盗んで、僕の仲間まで傷つけて…。お前のことを絶対に許したまるか!!」
「くそっ…チビのくせに…!!調子に乗るんじゃないよ!!」
シノイは両手で大剣を持ち、ホライとの距離を一気に詰め、その大剣をホライの脳天に目がけて振り下ろしてきた。
「危ない!!」
「ホ、ホライぃ!」
しかしホライは振り下ろされた大剣を両手で軽く受け止めてみせた。受け止めた両手から血は一滴も流れ出ておらず、ホライの顔もケロッとしていた。
「えっ…?」
「な…!?アタイの大剣を…素手で受け止めて…!?」
「…うおおお…!」
ホライがその手に力を込めて大剣の刀身を強く握った。すると大剣はミシミシと音を立てて刀身がひび割れ出したのだった。
「アタイの大剣が…!?」
「おりゃあああ!!」
ホライはそのまま大剣を叩き折ってみせた。
「と…とんでもない力だぁ…。あいつあんなに強かったのかぁ…。」
「ほら、返すよ」
「…くっ!」
ホライは叩き折った刀身をシノイに投げつけ、シノイは折られた大剣でその刀身を弾いた。
「こ…この野郎…!何から何まで馬鹿にしやがって…!!」
「…その大剣が折られちゃ、もうお前は何も出来ないだろ。降参するなら許してやる。」
「なんだと…!」
「僕だって、お前たちのように戦えない相手を甚振るのは心が痛むんだ。ぶっ飛ばすのは勘弁してやるから早く海賊達を連れてここから去るんだ。」
ホライは落ち着いた態度でシノイを諭したが、その態度はシノイを落ち着かせるどころかプライドをさらに傷つけて彼女を激怒させた。
「ざけんな!!このアタイを…ここまで馬鹿にして…!!ここまで追い詰めておいて…見逃してやるだと…!?あんたはどこまでアタイの事をコケにすれば気が済むんだああああ!!」
シノイは半分になった大剣を力強く握りしめた、すると真っ赤なオーラが溢れ出し、シノイの大剣は新たに赤い刀身が付けられたかのように赤色に染められていた。
「な…なんですか…。すごく邪悪な力が…!」
「あ、ああ…お、おっかねぇ…。」
「もうどうなろうが知ったことか!!この灯台…いやこの島もろともお前たちを吹き飛ばしてやる!!」
「…!」
シノイが赤くなった大剣を振り上げたと同時に、ホライは両手を広げて腕に溜まっていた光を手に集めだした。
手に集まった光はさらに輝き出し、溢れんばかりの光がホライを包み出した。
「ホライさん…!?」
「くっ…!!させるかああああああ!!!」
シノイは赤色の大剣を振り下ろすと、床を削りながら突き進む赤黒い巨大な衝撃波がホライに向かって飛んできた。
赤黒い衝撃波が目の前に迫ってきていたホライは、広げていた腕を前に突き出し、手に集めた光を一気に放出した。
「…ライズ!!」
ホライの声とともにその光は極太の光線となって発射された。
光線はシノイの衝撃波を瞬く間に飲み込みだし、シノイの目と鼻の先まで迫ってきた。
「う、嘘だろ…アタイの最大の技なのに…。」
シノイは呆然としたままその光に飲み込まれた。その光が止むとシノイが立っていた後ろの壁には大きな穴が空いていた。
ホライの体を包んでいた光は徐々にその輝きを無くしていき、ホライの体から光が出なくなった。
ホライは力を使い果たしたのか、その場にペタンと座り込んで大きく息をはいた。
「ホライさん!ホライさん!」
「ホ、ホラぁイ!!」
リーゼとモカジはホライに駆け寄った。リーゼがホライの体を揺すると、ホライは疲れ気味な顔でリーゼに笑顔を向けた。
「や…やったよ…。勝ったよ…。」
「すげぇぞホライぃ!お前あんなに強かったんだなぁ!」
「あはは、やめてよモカジ…。」
モカジはホライの頭を強く撫で、ホライはちょっと鬱陶しそうにしながらも笑っていた。
「でも…ホライさんにあんな力があったなんて知らなかったです…。」
「いや…あんなの僕も初めて見たよ…。」
「えっ?元から持ってるんじゃなかったのかぁ?」
「ううん、なんだかものすごく怒ったら体が光り出したんだ…。そしたらあいつの動きがよく見えるようになって…。さっきの光線も…出し方が頭の中に吹き込まれたというか…。」
「な、なんだそりゃぁ。変な話だなぁ。」
「でも、そのおかげでホライさんは勝てたんだし…。なんでもいいのではないでしょうか?」
「ま、そうだね…。」
リーゼとモカジは2人でホライを起こして肩を持った。立ち上がったホライは自分の光で空けた壁の穴の方に目を向けた。
「うわあ…あの穴僕が空けたの…?」
「うん…。あの光、なんだかすごかったです…。」
そうホライが驚いていると、空いた穴から誰かが激しく息を荒らげながら登ってくるのが目に入った。
「…!!」
「ホライぃ?どうしたんだぁ?」
「あ…あれ…。まさか…。」
3人が壁の穴に目を向けると、傷ついたシノイが力を振り絞って登ってきていた。
「あ…あああ…!お、親分だあ!!」
「ぜえ…ぜえ…。く、くそったれ…。よくも…よくも…!!」
シノイはボロボロの体で折れた大剣をホライに向けて構えた。
「ま…まだ戦うつもりなのか…!?」
「当たり前だ…!勝負ってのは…どっちかが死ぬまでやるもんなんだよ…!!」
「バ、バカ!今にも死にそうな体で強がるな!本当に死んじゃったらどうするんだよ!!」
「黙れ…!構えろ…!!」
「ど…どうすればいいの…?」
シノイはホライの言うことに聞く耳を持たず、こちらにかかってこようとした。ホライはリーゼ達の支える手を振り払ってシノイと戦おうと木彫りの剣を構えた。
「…シノイ、もういい。」
その時聞き覚えのない声がどこからが聞こえてきた。
「だ、誰の声…?」
ホライ達はキョロキョロと周りを見回していたが、シノイだけはその動きを止めて後ろの壁の穴の方を向いていた。
「まさかお前ほどの者がそこまで圧されるとはな…。」
「ゼ…ゼオ様…。」
ホライ達がシノイの目線の先に目を向けると、黒いローブを羽織った男が空を飛んでいたのだった。
「だ…誰だあいつ…。」
「空を…飛んでいる…?」
男はそのまま穴から灯台の中に入り、シノイの前に立った。
「随分と酷い有様だな…。」
「…ごめんなさい。」
その男を前にしたシノイは、さっきまで見せていた強気の態度が嘘のように大人しくなって萎縮していた。
「あいつがあんなに大人しく…。モカジ、あの男は誰…?」
「お、俺も見たことないぞぉ…。親分よりも偉い人がいたなんて知らなかったぁ…。」
「ゼオ様…何でここに…?」
「…見つかったのでな。例のものがな。」
「え…!?あれが…!?」
「そうだ…。もう海賊ごっこは終わりだ。」
ゼオと名乗る男とシノイが話していたところにホライが割り込んできた。
「あ!ホライさん危ないですよ!」
「お、おい!お前は誰なんだ!お前が海賊の本当の親分なのか!?」
「お前は…。」
ゼオはホライの顔をじっと見つめていた。ホライが困惑しながらゼオの顔を見ていると、その黒ローブを羽織った姿に見覚えがあることを思い出した。
「お、お前は…!あの時祠で会った黒ローブ!!」
「…。」
「お前に盗まれたブローチを取り返しにここまで来たんだぞ!早く返せ!」
ホライはゼオに詰めてかかると、ゼオはそんなホライの軽く突き飛ばした。
「な…何するんだ!」
「…お前はなにか勘違いをしているようだな。」
「…?どういう事だ…?」
「…シノイ、行くぞ。」
ゼオは答えることなく後ろを振り向いて、シノイと共にその場を去ろうとした。
「ま、待てよ!ブローチ返せ!」
「…ホライ、と言ったな。あのブローチはお前にとって大事なもののようだな。」
「そ、そうだよ…!だからここまで来たんだ!」
「…ならば私たちを追いかけてみろ。海を越えた向こうの大陸でお前を待つ。」
そう言うとゼオはシノイを連れて目にも止まらぬ速さで飛び去って行ったのだった。
「ま、待て!どういう事だよ!おい!」
ホライが引き止めた時には既に二人の姿はそこに無かった。
ホライ達が唖然として灯台に空いた大きな穴を眺めていると、下の階からどたどたと海賊達が駆け上がってきた。
「お、親分!何が起こってるんですかい!?」
「な、なんだあのでかい穴は!?」
「いやそれよりも親分がいねえぞ!?どうなってやがるんだ!?」
海賊達はその有様を見て混乱していた。さっきまでの威勢が嘘のように情けなくオロオロしていた。
「お、親分はここにいるホライがやっつけたんだぞぉ!この壁に大穴を開けるほどのすごいビームを出してぶっ飛ばしちまったんだぁ!」
「ちょ、ちょっとモカジ…!」
モカジはホライを海賊達の前に出して、分かりやすいくらい調子に乗りだした。
「お、親分がぶっ飛ばされた…?」
「嘘だろ…あんなに強いお方が…?」
「あああ、あのガキが…?」
海賊達はざわめきだし、目を点にしてホライを見た。次の瞬間、その場にいた海賊達は全員地面に頭を擦り付けて土下座をしだした。
「「「すいませんでしたーーー!!!」」」
「お、親分がいなくなっちまったら俺たちは何も出来ないんですー!」
「これまで好き勝手できたのも親分の後ろ盾があったからでして…!」
「ど、どうか許してくだせぇー!もう盗みを働いたりしませんし、盗んだものは全部港町の皆さんにお返ししますからー!」
あれほど威勢の良かった海賊達が情けなく許しを乞う様を見たホライは困惑した。
「こ、この人達ってこんなに弱かったんだ…。」
「ホ、ホライぃ…どうするんだぁ?」
「うーんそうだな…。本当にもうこんな事しないって約束する?」
「も、もちろんです!もう盗みも暴力もお天道様に顔向けできないようなことは一切しません!だから命だけはお助けをー!」
ホライはやれやれとため息をついて、海賊達の命乞いに応じた。
「わかったわかった。そんなに謝るんだったら許してあげるよ。その代わり、僕たちをちゃんと港町まで連れて帰ってよ。」
「あ、あああありがとうございますー!ちゃんとあなた達の事をしっかり港町まで届けますので!」
「お、おめえら出港の準備をするぞー!!この灯台の中にある盗んだもの全部拾ってこーい!!」
海賊達は蜘蛛の子を散らすようにバラバラに別れて一斉に行動し始めた。
「うーん…情けない大人達…。」
「で、でも私たちこれで無事に帰れるんですよね?」
「そ、そうだぞぉ。結果オーライだぁ。俺も船の操縦は自信なかったから代わりに操縦してくれるならありがたいぞぉ。」
リーゼとモカジが事前に進めておいたことや、海賊達の大急ぎの支度もあって海賊船はすぐに出港できる状態だった。
海賊達にもてなされて海賊船に乗り込んだ3人は、船室でジヨーセンの港町に着くのを待った。
そしてホライ達の3人は海賊達から宝石類がまとめて入れられた袋をもらって、自分たちの探しているブローチや宝石が入ってないかを細かく探していた。
「これかなぁ。」
「それではないですね…。」
「うーん…これでもないな…。」
3人は何回も袋をひっくり返して確認してみたが、そこにはホライのブローチもリーゼの探していた赤い宝石も見当たらなかった。
「私の探している宝石…どこにもありませんでした…。」
「ホライのも見当たらないぞぉ。」
「そっか…。」
ホライはため息をつくと、机に肘を置いて考え始めた。
「…ホライさん、やっぱりあの人達のことが気になっているのですか?」
「え…まあ、そうだね…。」
ホライはあの時ゼオに言われた『私たちを追いかけてみろ』という言葉が胸の中で引っかかっていた。
「あんな事を言うってことはブローチはあいつらが持ってるってことなのかな…。でもどうして海賊でもなかったあいつらが僕のブローチを持ってるんだろ…。それにあいつらはブローチを何に使うんだろ…。」
「うーん…考えても分かりませんね…。」
「俺もうヘトヘトで考え事はしたくないぞぉ…。」
モカジが背もたれにおおきく寄っかかると、二人もため息をついて背もたれに寄っかかった。
「…海を越えた大陸で待つ、か…。」
いつまで考えてもホライの謎は解けなかった。
あの二人が何者なのかも、いったい何が目的なのかも、答えは見つからないまま、カモメの鳴き声も聞こえない海の波の音が空しく鳴り続けていた。
その頃ゼオとシノイは寂れた古城に身を潜め、そしてゼオは深く傷ついたシノイの体を瞬時に回復させた。
「さっすがゼオ様、アタイの怪我ぜーんぶ治っちゃった。」
「この程度の傷なら大して力も使わん。」
「…ところでゼオ様、なんであのチビにあんな事を言ったのですか?あんな奴がアタイ達についてこれる訳が…」
「…いや、奴は必ず追いかけてくる。運命はそう導くのだからな…。」
「運命…?」
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