世界の成分


暗闇の更に深淵、次元の狭間にて語り合う2つの影があった。

 一人は、透き通るような肌に流れるような長い黒髪の妖艶な美女、サラスヴァティ。

 そしてもう一人は、褐色の肌に筋肉質の裸体、特徴的な複数の顔といくつも生えている腕の男、その名も創造神ブラフマーだった。


二人は夫婦である。

 そして、明確にイチャついていた。

「ねぇ、ブラブラ?私のこと愛してる?」

サラスヴァティの問いに、ブラフマーは満面の笑みを向けて答える。

「もちろんさマイハニー!いつだって君のことが頭から離れないよ」

待ってました!と言わんばかりの満開の笑顔になるサラスヴァティ。

「まぁ!嬉しいわ。私も愛してる」

何億回と繰り返してきた問答に、いつも新鮮な気持ちでいられる二人。

 さぁ誓いの接吻を…とブラフマーがサラスヴァティの腰に手を回そうとした瞬間ーー


ゴトッ


鈍い音とともに、サラスヴァティの足元に褐色の腕が転がった。

「おっと、そろそろだったか」

ブラフマーは何事もなかったかのように、自分の体の一部だったものを残った腕で拾い上げる。

 そして「フン」と力を入れ一瞬で腕を消し炭にした後、サラスヴァティと顔を合わせ、ヤレヤレと肩をすぼめてみせる。

「ねぇねぇ。次はどのストックにする?」

そう言った彼女の手には、透明な円柱のケースに入ったが握られていた。

「んーそうだなぁ…。次はにするかな」

少し悩んだあと何かを決めたブラフマーは、前屈みになりサラスヴァティが持つ地球をしばらく覗き込む。

 そして徐に青い球体に腕を突っ込み、ゴソゴソと動かしたかと思うと何かを引っ張りあげてきた。

 ケースから出した所から大きくなっていくその「何か」は人間だった。

 その腕の中には青ざめて震え上がるスーツ姿の男性がいた。

「君の腕をもらう」

冷静に、淡白に、一切の感情も込めずに放つその言葉に、男性は死期を悟る。

「ァ…ァ…」

 声にならない音を出す男性はヨダレを垂らし、只々、震えている。

 ブラフマーは家畜にむける様な同情の籠もらない目で言い放つ。

「バイバイ」

瞬間、その場所にいた人間だったものは、腕だけを残して塵となった。

 それを拾い上げ、千切れた腕に接合させるブラフマー。

「ストック作っておいて良かったわね」

後ろから抱きついてきたサラスヴァティの腕に新しい腕を重ね、彼は答える。

「あんなの7日もあれば出来るからね。簡単で、替えが利く。おかげで僕らの愛は永遠さ!」


そうしてまた二人は、愛を確かめ合うために暗闇に溶け込んでいくのであった。


歌だったか本だったか、なるほど確かに


世界は


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