知られざる運
漆黒を身にまとった監督が選手に檄を飛ばす。
「いいかおまえら!今日も抜かるんじゃねえぞ!気合い入れてけやぁ!」
「クゥァァ!!」
同じく漆黒の選手がそれに応えるように、盛大な唸り声とも雄叫びとも言えるような声を上げ、決められたポジションに付く。
それぞれが隣り合うポジションのチームメイトと目配せをする。
「この間はダダじゃ抜かせねぇぜ!」
アイコンタクトをして小さく頷き合う。
今にも爆発してしまいそうな鼓動、内から湧き上がる熱気に汗を滲ませながら、体勢を整える。
そして、今ーー
「カーー!」
試合開始の合図が、鳴った。
「フワァーァ…」
隠そうともせず、大きなアクビを放つ平社員ダイスケ。
スーツのシワを手で撫でながら、眼前に広がるオフィス街を見上げる。
電線の上に所狭しと並列する鳥達に、虚ろな目を向け、数秒間見つめ合う。
「この通りはいつもカラスがうるさいな…」
カラスに愚痴をこぼした後また下を向き、ルーティーン作業をこなすべく、人集りと共にブラック企業に向けて歩を進める。
「なんかいいことないかなぁ…」
ポツリと呟く彼のスーツはとてもキレイだ。
カラスの爆撃は未だ彼に届いていない。
しかし彼はそれを知ることもない。
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