第31話、闇ノ結晶4

◆◇◆テレビ番組 夕方ニュース

『えー、以上が昼間の記者会見のVTR映像です、ありがとうございました。○○さん、これ、どう思いますか?』

『短パンニーソだと思います』

 短パンニーソ専門家の人がそう答えると司会はうんうんと頷いた。

『そうなんですよ、秋津啓介さんのお子さんは一体、この十年間どのような思いで過ごしていたのでしょう……と思われるであろうと見越し!!』

『短パンニーソ!?』

『テレビ局が独自取材で合ってきました!!』

『短パンニーソ!!』

『それではVTRどうぞ』

 テレビの画面いっぱいにVTRが映し出される。そこには雲雀と妙に興奮しているキャスターの姿があった。

Q、名前と年齢をどうぞ。

A、秋津雲雀……十六歳です。

Q、どうしてこのビデオに出演することに?

A、えと……学校の校門で声を掛けられて、なあなあで、このインタビューを受けることになりました。

Q、初体験は?

A、えっ、そ、そんなこと聞くんですか……えぇ、いや、したこと、ないです……


「ってちょっとまてええええええええええええええええええええええ!!」

 情報屋が店に備えられていたテレビへジャーマンスープレックスかける。

「あーあ、テレビくん可哀想……」

「フェアリーに仕入れてもらったテレビだ、傷一つついてねえよ」

 情報屋は手をパンパンと叩いて埃を堕とす。

 現在時刻は深夜一時。場所は情報屋のバーでありそこにはいつもの三人がいた。

「ちょうどインタビュー担当した人が男の娘至上主義者だったみたいだよ! なんかハァハァしながら質問してきた」

「問答無用でクビだろそんなん……うわ、ネットで炎上してやがる」

「というかなんで雲雀くんの父親でてくるの明日なん?」

 変態的すぎるインタビュー映像がお茶の間に流れた結果、一部の自称愛の戦士たちが教育に悪いだなんだのと『嫌いだから殴りたい』という本音を隠しあまつさえ正当化させた醜すぎる文章を羅列させていた。

「おっ、客が来た。いや……こいつは」

 一部の人間しか知らない店の場所。その入り口たるエレベーターが音を鳴らして客の到来を知らせた。

「――――やっているか」

「あ、校長先生だー」

 フェアリーはその人物の名を知っていた。雲雀が通う高校、その校長たる菊池正道であった。

「む……秋津君……?」

 正道もフェアリーに気付いたのだろう。次いでその視線は隣のカウンター席に座るマリンへと向かって。

「……漣、お前」

「いやいやいや違いますよ!? なんで私が容疑者みたいになってるんですか!? 確かに待ち合わせはしましたけどフェアリーちゃんは元からこっち側ですって」

 マリンは慌てた様に正道ははぁ、とため息を吐く。

「……いや、お前もいたのか、と言おうとしただけだったのだが……墓穴を掘ったな、漣」

「あぐっ!?」

 睨みつけるような視線にマリンは蛙のように固まる

「目の前にお前の生徒が二人もいるんだぞ、咎めなくていいのか?」

「今は仕事の時間じゃない。それに……お前がいるなら大丈夫だろう。お前の仕事に向いてない性格はよく識っている」

「ほっとけ」

 カウンター席に座り、手慣れた様子でカクテルを注文する。正道の表情は学校にいる時とは全く異なり、穏やかな笑みは彼が今、素の状態であることを示していた。

「二人とも、校長先生と知り合いなの?」

「ん? あー、まあ、ガキからの付き合い、だな」「菊池先生は高校の時の担任かなー、ハナちゃんと一緒にクラスだったの」

 衝撃の事実……というほどでもない情報にフェアリーは人の縁というものの不可思議さを少しだけ面白いと思った。

「せんせ、酌いるか?」

「……そうだな、貰おう」

「うちバーなんだが?」

 フェアリーは情報屋から何故かあった酒瓶を受け取り、酌をした。

「菊池先生、生徒に酌させていいん? お? お?」

「生徒からの好意だ、無下にも出来ん。加えてこれも社会勉強だ、今から俺で練習させておいて損はない。そこだ、量はこの辺りを目安に注ぐといい」

 正道はマリンの煽りへ一切表情をブラさずに返答し、尚且つフェアリーのお酌指導すらしだす姿にフェアリーを除いた二人が飽きれる。。

「うわー、菊池先生はマジで菊池先生だなー。生徒のことしか考えてねえや、だから生徒からEDとか言われんやぞ」

「実際EDとしか思えねーよな。コイツ、モテる癖して未だに童貞だしよ。あと身体をよく縄で縛ってる。特技は一人亀甲縛り」

 菊池正道。厳かな雰囲気に三十代半ほどで校長の席に座った男は未だに童貞。その事実に空間が固まる。

「魔法使いじゃん……」「漣、あとでお前の事務所に問題集を送っても良いが……どうする?」「すみませんでした私が悪かったです」

 そんな何度も繰り返されてきたような問答にフェアリーはくすりと笑った。

「(ああ――――やべえ、太腿の傷、開き始めた)」

 夜が更けていく。雲雀の父が戻るまで あと一日。

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頭おかしい異常者どものラブコメ 足将軍 @504329

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