第24話、君軸春鬼3
◆◇◆
「――――どうして、助けた?」
きさらぎ駅、君軸の後ろには化け物の残骸が転がっていた。
「一秒、ほんの一秒無視するだけで俺は死んでいた。自分を殺そうとする奴が死ぬんだぞ? 何故、何故助けた!?」
助けた本人――――フェアリーへと、疑問と憤りを込めた視線を送る。腹部には銃弾で貫かれた穴、止血をしなければ死ぬだろう程の血液が今もどぴゅどぴゅ流れ出る。
「答えろ! ひば」
「うるさいバーカ!」
君軸の言葉をぶん殴るかのように声を重ねる。否、実際にぶん殴った。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああッ!!」
「助けたいと思ったら助けたんだよ。お前の意見なんか知るか」
「君軸が死んだーーーー!?」
拗ねるように顔を背けるフェアリー。そして彼女は己のことを語りだす――――花子との約束を果たすゆえだろう。
「私はフェアリー、夢の存在。
秋津雲雀の願いから生まれた〝生霊〟、それが私だよ」
「おう、その前に目の前で新たな生霊が生まれようとしてんだわ」
「雲雀ぃぃぃいぃぃいぃぃぃ、てめええええええええ!?!?」
赫怒の念を滾らせ睨みつける君軸。しかし、そこには先ほどまでの危うさは何処か抜けていた。
そしてそれはフェアリーの正体――――即ち生霊であることが少なからず関係しているのだろう。
「今まで雲雀と過ごして不思議に思ったこと無いかな?
秋津雲雀の人生でどうして
今までフェアリーは物理法則を無視した行動を可能としていた。余りにも異常で、常軌を逸している力だ。ゆえ必然的に彼女の正体もまた常軌を逸している存在だという結論は自然なモノだった。
「君軸ぅ! 落ち着けえええ!!」
「あひゃひゃひゃお前を殺して俺も死ぬううううう!!」
拳銃を以て爆笑し、心中宣言をしだす君軸。それを止める花子。わあ。
「そう。秋津雲雀の歩んだ道で秋津雲雀みたいな真っ当な人間が生まれるわけがない「ねえ聞いて?」表面上は分からなくても必ずその心には致命的なストレスを抱え続けたよ。
だから、その
己の存在を端的に告げるフェアリー。目の前の状況に目を向けろ。
「雲雀は別に殴られても平気そうな顔が出来る子じゃない。
弱者を痛め付けたい、殺したい、嬲りたい。お腹いっぱいになりたい、お腹減った、猫でもいいから殺したい、誰かを不幸にしたい、人の不幸を嗤いたい。
侵したいし冒したいし犯したい――――でもそれが出来ない、口に出すことすら出来ない」
「目の前で口に出し続けてる奴がいることに気付こ?」
「雲雀雲雀雲雀雲雀ィーーーーー!! 大好きだ死ねえええええええええええええええ!!」
己は秋津雲雀の欲望を叶えるための存在なのだと、ストレス解消の代理人なのだと端的に告げて、フェアリーは向き直る。
「というか君軸くんうるさい」
「お前、さっきまでの叫び全部聞いた上で無視してたなら一回死んだ方がいいぞ」
「ドン引きだぜ」「お前にだけは言われたくない、つか急に冷静取り戻すな」
溜息を吐き、情緒不安定すぎる君軸の傍まで向かう。
「君軸くん。君の主張を整理するとこういうこと?」
と、と、と……小さく、けれども間違いなく着実に二人の距離は詰められる。
「君軸の無意識の中には〝己が人間の中の底辺である〟っていう認識がある」
と、と、と…音がほんの少し大きく。二人の隙間は縮んでいく。音は無く、ただ静寂の世界がそこにあった。
「底辺である己は〝平均的な人間に性欲を抱けない〟と。猫が獅子に発情できないのと同じだぁ――――だから君は獅子を鼠にする必要があった」
穏やかな声色で、歩む姿はまるで天使の迎えのようで――――今、二人の距離は目と鼻の先となった。
「君軸くん、手を」
その声に、君軸は手を差し出す。天使のささやきは、誰であろうと拒めない。
そして天使――――否、フェアリーは君軸の手を自分の股間に触れさせた。
「はい痴漢、君軸お前、逮捕や」
「いやこれ俺が被害者!! ――――って、え……?」
「気付いたかな? そう、私にはソレが無いの……」
君軸はフェアリーの股間部にある
「人類……ううん、全生物が生まれた日から変わらず紡がれてきた足跡を、私は二度と踏むことが出来ない。生物として壊れてる、それが私の身体……」
端的に、その事実を、高校生が受け止めるには重すぎる事実を口にする。
「……君軸くん。今の私は、どうかな」
「はっ……そんなこと、言うなんて……ずるいじゃないか」
いつもの、悪戯気な表情を浮かべる君軸。その表情は何処か穏やかであり。
――――テクノブレイク、しちゃったよ。
「君軸くうううううぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ん゛ッ!!!!」
「え? こんな酷いオチある???」
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