第23話、君軸春鬼2
◆◇◆XXXXXXXXXXXX
「君、軸くん……?」「…………」
「俺はさ、ずっと……ずっとお前に恋をしてたんだ」
懺悔するようにその想いを口にする。尚、雲雀は男であるが彼には関係ないことだった。
「君軸くん、何を」
「でも、どうしてか愛を感じることが出来ねえ。感じる方法が分かっていたのに、実行出来なかった」
彼の手には、日本ではまず見ることが無いはずの武器――――拳銃が握られていた。それは雲雀の太腿を撃ち抜き、血を溢れさせている。
「悔しかった、悔しかったさ……気が付いたら授業中もトイレ盗撮中も家でお前の寝顔撮影してる時もずっとお前の傍で銃を握りしめてた」
「さり気なくとんでもないカミングアウトしてんのアイツ気付いてんのかな」「いやぁ、君軸君、わりと天然あるし気付いてないと思うよ……」
君軸の瞳には、間違いなく狂気が宿っていた。異常者、異常者は異常者特有の気配を放ち、異常者にとっては自らに孤独という点で近い存在として認識する。
ああ、彼の周りには本当にこんなのしかいない。哀れ。
「なあ、こんな素敵な場所あるなんて、ずるいじゃないか。勃起し過ぎて撃つの我慢すんの、大変だったのに……どうしてそんな致命的な隙を見せるんだよ、暴発しちまったじゃねえかよッ!! おいッッ!!」
「なんかイカ臭くね?」「それより止血手伝ってよ……あ、また穴が増えた……花ちゃんのせいにしてい?」「間違いなく君軸のせいなんだよなぁ……」
ドンッ、ドンッ。続けざまに放たれる銃弾はフェアリーの腹部と肩を貫通する。血がドクドク溢れて顔色も蒼くなっていく。
「過去話してオナニーする趣味はねえけどよ。ぶっちゃけると俺は心のどこかで〝自分は人間の中の底辺だ〟って思っちまってるらしい。
底辺の俺は俺未満じゃなけりゃあ、誰かに愛を感じれない。そう思ったのは俺のママンの死体で精通した時だったかな」
「
花子はセロハンテープを貼った。
「よし」「よしじゃないが?」
「だからさ、雲雀。どうか
如何なる花嫁にも劣らぬ花束を汝に。君軸は最大の愛を以て雲雀へと銃を向けた――――己の背後に、何がいるかも気付かず。
「bだ、┘xくぁq└ぅ゛xィっ」
「――、――――」
◆◇◆4月30日 深夜。
特は十数刻ほど遡る。その日、高級住宅街に佇む屋敷で一つの悲劇が起きていた。別に珍しくもないこと、日本中、いいやネット環境ですら行われている行為――――正義の執行が行われていた。
「っ、っ、っー!?」
壮年の男がフローリングの床に横たわる。口にガムテープが、腕と足もまた同様の道具で縛られていた。
「息子の殺人を冤罪として処理するなんて、本当にクズねぇ……法で裁けない悪、ああ、悪、あなた、悪なのね!?」
壮年の男を縛りあげた主は嬉しそうに、または狂気に満ちた嬌声を上げる。
「正義ッ! これこそが正義!!」
「――!?!?!?――っ゛!? ゥ゛ッ゛ッ゛……!」
「悪に相応しい面になったなぁ!! オ゛ォ゛ォ゛イ!!? 聞いてんのかカスがよぉお!! 整形してもらってんだぞ感謝しろゴミがァっ!!」
殴る、ぐちゃりと音が鳴る。殴る、顎の骨が致命的な形で欠損する。殴る、血飛沫、殴る、抉れる、殴る、殴る殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る――――。
口に出すのも馬鹿らしくなるほどに単純すぎる暴力の嵐。破壊、欠損、尚止まぬ。
(自称)正義の執行者タチバナは肉塊へ唾を吐きその場を後にする。
「(ああ、ああっ……)」
彼女は一週間ほど前に旦那を殺害し、その足で失踪をした。その後、情報屋を訪ねて『悪』の情報をひたすら聞き出していた。
――――彼女は間違いなく、人生最大の絶頂を迎えていた。
「(気持ちいいっ! なんて気持ちいいの!? これが正義を執行した瞬間!! 正義とは、悪をこの上なく無惨に殺害すること!! これこそ真理だった!!)」
一週間前に結婚相手を殺害した彼女はこれ以上なく生き生きとしてしていた。
「ああ……あなた」
だが、彼女はふと、その時のことを思い出すように呟く。そして今は亡き旦那を想い、膝を曲げて肩を抱く。
「死んだ……私が殺した……ずっと、寄り添ったあなたを」
それは殺してしまった旦那への後悔――――ではない。
「あなたのおかげで…………私、正義に震える感覚を思い出せたわっ」
彼女は殺人鬼、最初から何一つとして変わらない畜生だ。
「ありがとう、ありがとう、本当に愛してるわ! あなたのおかげで、私は幸せよッ!! あは、ははは、あーっはははははははははは!!」
これからも、彼女は変わらない。幸せの祖の先にあるのは、地獄か、地獄か、はたまた地獄か――――それは誰にも分らない。
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