第21話、きさらぎ駅2

◆◇◆XXXXXXXXXXX

 ―キャハハハハハ―

 遠く、遠く、駅の線路を越えた先。公園で遊ぶ童たち。

 ―キャハ、あひゃひゃ、あひゃっ―

 甲高い子供の嗤い、半透明な黒い影。顔には大きな口が一つ。

「はい! きさらぎ駅到着っ!!」

「なんで!? ねえなんで!?」

「拳墜どうした?w もしかしてまたアンモニアネタか?」

「違うわよ! ってかネタにした覚えないわよ!!」

「フェアリー、君軸、立花、集団行動を乱すなー」

「四名中の三名が集団を乱している場合、それは民主制に則り集団行動を乱すことこそ正当化される、即ちこの場に置いての異端分子とは先生のことである」

「急にシリアスしだすじゃん君軸」

 わいわいしながら駅の内部を歩く四名。駅の内部は本来の駅と大して変わりないものだ――――ある一点を除けば。

「ねえ、あの隅の黒い……バグ? みたいなの、なに……?」

 拳墜は駅の隅にある黒いバグのようなナニカを指差す。

「あー、あんま見ない方がいいよー。認識されて捕まるとと二度と帰れなくなるからねー」

「っ! ぅ……ぅぅ……なんでこんなことに……私たち、これから一体どうなるのぉ……」

 駅の改札口を通りながら全員は寂れた駅商店を前にする。

「なあフェアリーちゃん、もしかしてチミ、ここ来たことあんじゃね?」

「んー? あるよー」

 拳墜、花子はフェアリーへ視線を向ける。一つは驚愕と救いを前にした安堵、もう片方は興味深そうな表情でほう、と息をつく。

 その反応は当然の物だ。ここに来たことがある、それはある事実と照らし合わせると一つの可能性が見えてくるのだ。

「フェアリーさん……もしかして、脱出方法とかも……?」

「うんっ、知ってるよー」

 拳墜の表情がぱぁぁ、と明るくなる。

「じゃあガイドたのめねぇ? この街のさ」

「なんで!? ねえなんで!?」

 君軸の提案を全力で否定しだす拳墜。かなりガチの目だった。

「むー、どうしよっかな……」

「ケーキ買ってやるよ?」「任せろっ!!」「ああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッ!!!!!」

「(フェアリー、ちょっろ……)」

 きさらぎ駅探索が決定し、一歩を踏み出す――――刹那に。

「しッ……全員隠れて」

 君軸は拳墜の口に薬物を染み込ませたハンカチを押し当てて近くの物陰へ、フェアリーは花子に抱き着かれながら看板の裏へ。

「フェアリー、ありゃ……なんだ?」

 ぴちゃ、ぷと゜っ、点滅する電灯の下に、吸盤がタイルに張り付くような、スライムが地面にバウンドしているような、触手が唾液を撒き散らして歩み寄るような――――ナニカが這い寄る音が聞こえる。

「ボス、私はそう呼んでるよ」

 見えない知らない聞こえない。拳墜のような真っ当な精神の人間がいればまず現実逃避から始めたことだろう――――それほどまでに、目の前のいたソレは醜悪めいていた。

「ぉ゛、ァ↑ィぃッ┘」

 そこにいたのは真に怪物だった。いや、怪物という表現すら間違いなのかもしれない。初めに見えたのは腕、人間の、それも女性の細い腕だ。

 しかし、その女性の腕は本来あり得ない場所から生えていた。

「wwなんで腕から腕生えてんだよwwwおかしいだろwwww」

「君軸くーん、死んじゃうよー。でも、まあそのツッコミできる精神は大したものだねー」

「なんだありゃ……人間の部品を刺繍かなんかで雑に繋げたんか? うぇーきめぇ」

 花子は目の前の怪物の見た目を簡潔に語る。そう、それは明らかに人間のキメラだった。腕と腕が、足と首が無理矢理、物理的にくっついている。まるで蜘蛛の胴体からムカデの足をはやしているような形状は見るモノに吐き気を催す。

「(先生はなんでまともに見れるんだろう……)」

 ずりずりと大きな身体を引き摺るたびに黄色い汁が皮膚に泡のように浮かび上がりぷちゅっという音と同時に撒き垂らす。結果、四人に気付かず、姿を消した。

「――――ちなみにアイツ倒さないと、この駅から出られないよー」

「ふぁっ!?」「www」「まじかー」

「正確にはアレの心臓っぽい奴を手に入れないと出られない、だけどねー」

 どっちにしろ倒さねば変わらない。

「おっ、この店ラスクある。もらおっ」

「ラッキー、レモンジュースもあんじゃん。よかったな」

「なんで私を見るのよ!!」

「お前ら窃盗って知ってる?」

 花子がジト目で睨むも君軸はジュースをごくごく飲んでフェアリーはラスクをバックに突っ込みまくる。

「まーまー花ちゃんやい。ここにある物質は基本、物理法則を超越した特別せいなんだぜい? 万年金欠の雲雀ちゃんからしたら食べないと死活問題なんですニャー」

「あとで牛丼奢ってやるよ。というか何気なく凄い発言してたな」

 口にラスクを突っ込まれながらの問いにフェアリーは返答する。

「そそっ。この世界ねー。物理法則を超越してんの。地図アプリ開いてみ? 多分だけど一歩も動いてない・・・・・・・・はずだよ」

「ほんとだ!? 動いてない」

 拳墜はスマホの画面を見て驚く。それを見てフェアリーは言葉を続ける。

「物理的には存在しない超物質。例えばこのラスク一枚で一週間は飲まず食わずで行動できる。これから一週間ぐらい、空腹とは無縁の身体になると思うよ」

「へー」「先生、ジュース飲みます?」「飲む」

 君軸から投げ渡されたコーラをキャッチして飲む。そして膝に座るフェアリーを見て一言。

「なあフェアリーよぉ。ずっと聞きたかったんだが――――お前の正体はなんだ?」

「――――」

 酷くあっさりとした口調で淡々と言葉を紡ぐ。

「初めは二重人格かと思ったがどうもおかしい。フェアリーよ、お前の秘密を教えてくれないか」

「えー、やだっ」

 子供みたいな無邪気な笑顔でフェアリーは立ちあがる。愛らしくもどこか切なげな笑顔は薄暗いの駅内部の淡く煌めく月のように美しかった。そんな彼女から出た言葉は。

「なんでキモチワルイとしか思えない塵にそんなことしなきゃならないの?」

 ――――弩級の殺意と共に叩き付けられた。

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