第20話、きらさぎ駅1
「じゃあ、連休中にどっかのボランティアでも参加するさ。こういうのは地道な活動に限る」
「じゃあ俺も行くわ、お前といたら何か面白そうなことが起きそうだしな」「凄い、一気にフラグが立った。 あ、私も、行きたいです……邪魔じゃなければ」
初めに君軸、次いで拳墜が参加を表明し。
「なら私も行こう、暇だしな。帰りになんか奢ってやろう。牛丼以外に選択肢ないが何食べたい?」「先生は質問の意味を学びなおした方が良いと思います」「ほんとだよ悔い改めろ」「そこまで言う!?」
そして最後に花子が袋叩きにされた。
◆◇◆5月1日
ガタンゴトン、電車。
~間もなく○○、お降りのお客様は~ 電車のアナウンスを背景に男女四人が会話をしていた。
「休みの日に先生と会うと何か妙な気分になるな~」
「そうだな、こう……形容し難い負の感情が滲み出るというか」
「単純に新鮮な気持ちになるって言ってあげなさいよ……」
「ははは、お前ら吹っ飛ばすぞ」
それは雲雀、君軸、拳墜、花子の四名であった。彼らはこの日、ボランティア活動を共にすることになっていた。その場所までの移動手段が電車なのだ。
「雲雀。気になったんだけどお前の父親ってどんなゴミ?」
「なんでゴミであることが前提なんだ……」
君軸の何気ない一言に花子と拳墜が注目する。やはり二人も雲雀の過去のことについて気になっているのだろう。
「(秋津の……)」「(過去、ね……)」
その要因は様々だがやはり先日の言葉が大きかったのだろう。
――父親の強姦殺人の真犯人を捕まえるとか?――
本当に気軽に、何気なく、まるで雑談でもするかのような感覚で告げた言葉。
「いやいや、普通に良い奴だったぞ? 僕が公園で土管に入ってるとちょくちょく隣に座って話してくれたり、あと遊園地とかプールに連れてってくれたこともあった」
二人の視線を察してか否定するように過去の思い出を告げる。
「なんだつまらん」
「やっぱお前性格ゴミだわ」
「そんなんここにいる奴全員だろうが」
「おいこら私を混ぜるな」「冬空先生、言外に私のこと性格ゴミって言ってますけども?」「いやあ、実質ゴミ」「コイツ、教師としてゴミだと思う」
「ゴミがゴミ掃除に行くのってなんかシュールだな」「やかましいわ」
相変わらずワイワイとした空気。雲雀はその日常と呼ぶには強烈すぎるが、この空気を気に入っていた。刹那に、立花は不可解な表情を浮かべる。
「……なんか、この電車。乗客少なくなってない?」
「本当だ、僕たち以外、誰もいないな」
立花の疑問に雲雀は現状を端的に一言で表した。現在、この電車には四人以外、誰もいなかった。先ほどまでは確かに他の乗客もいた。連休中ということもありそれなりにワイワイとしているグループがチラホラあった。
なのに、今は誰もいなかった。
「ん? あー、なんかさっきの駅で全員消えたぜ?」
君軸は軽く思い出したように告げる。午前10時、電車の窓外には真っ赤な夕日がうつっていた。
「なんだ、さっきの駅で降りたのか。全然気付かなかった」
「降りた、降りたねえ……いや、降りたのはどっちなんだろうな、本当のところ」
「は? ちょっと君軸、そういう冗談はよしなさいよ……いや、ほんま、あかんですわ」「お前口調どうなってんだよ」
ぐちゃ ぐちょ 対面のシートに赤い瞳のカラスがとまる。嘴を開き、口の中にある腐肉を咀嚼する。
「ほんと面白れぇわ」
電車の真っ赤な手摺には子供の落書き。床には錆色の泥を、窓には無邪気な笑みを。
「おー、霧がでてらぁ。ん……? この近くに霧なんて出る場所あったか……?」
「私の記憶には……心あたりありませんけど」
~……mナク…ラ…
「へぁ?」
「ほーきさらぎなんて駅あったのか。知らなかった」
「wwwww」
「――――わー、雲雀が電車に乗ってもここに着くんだねー」
夕暮れの廃墟、その一言が最もイメージに合っているだろう。駅の至る所に時間の流れを感じさせる錆。
ギギギ、という不快感すら思わせる音を立てて電車の扉が開く。
「お、もしかしてフェアリーか?」
「うんっ♪ 久しぶりー花ちゃん」
「フェアリーちゃんウェーイ! いいからさっさと探検しようぜww」
「あばばばばばばばばばばば!!」
各々の反応はバラバラ。平然とする花子、再会を無邪気に喜ぶフェアリー、少年心を高ぶらせる君軸、あばばば立花。
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