第15話、立花拳墜5

◆◇◆

 放課後。教室にて三人がいた。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! やべ、腹いてーwww 完全にとばっちりじゃねえかwwwwんで? 被害状況はどうだったん?」

 笑いながら机を叩くのは君軸。雲雀の身内を知ってもまともに接する数少ないクラスメイトだ。

「永久歯が二本、あと骨にヒビぐらいだ。治療費は向こうが払ってくれるとよ。いっそのこと金歯ねだろうかな……あ、示談金とかも絞りたい」

 雲雀がトランプを引いた。ハートとスペードの11を机の真ん中へ出す。

「君軸お前な……。ま、いいか、今回の事件で分かったことがあるしな」

 花子はトランプを引いた。スペードの13とクラブを机へ出す。

「お、センセ。何が分かったんすか?」(ニヤニヤ)

 君軸はトランプを引いた。ハートとスペードの12を机へ出す。

「キャー、気ニナル。教エテホシーワー、っと、揃った」

 雲雀はトランプを引いた。クラブとハートを机へ出す。

「はははお前らは演技派だな。私が映画監督になったら速攻でクビにしてやるよ」

 花子はトランプを引いた。スペードとクラブを机へ出す。

「それでも一秒は就職できている。そのことに喜びを覚える君軸であった」

「末路が無職だということに気付け」

 君軸はトランプを引いた。

「ちゃんちゃん。はい上がり」

 雲雀はトランプを引いた。ダイヤとクラブを場に出す。そして一位となる。

「うお! マジか!」

「そしてお前は私にジョーカーを仕込まれてることにも気付けない」

「へぁ!? うわ、マジであるじゃん。イカサマ……じゃねえな、思考パターン読んでカードの配置を操作したのが妥当か。ドローパターン固定してからまだ二巡目なのに先生、大人気ねーよ」

「お前の脳味噌の方がイカサマじゃねえか。なんで私の思考全部読んでんだよ」

 そんなことを話して放課後を過ごしていると、扉の陰から声が掛かる。

「――――あ、あの」

「「ん?(んぇ?)」」

 視線の先には見知った顔の少女がいた。しかしその表情は酷く自身なさげであり、雲雀は一瞬、誰か気付けなかった。

「立花さん……? 今日は休みだと聞いていましたが……」

 立花拳墜。彼女からは以前のような強気な様相は伺えない。しかし今の彼女はどこか憑き物が抜けたようにも見えた。

「っ……ぁ、秋津さん、のことを聞いて……遅くなりました、けど、登校しました」

 酷く怯えた様相で話す拳墜、以前からは想像できない姿だった。アンモニア臭ヒロインの肩書は伊達ではない。

「この度は、父が……大変、申し訳、ございま――」

「どーでもいいし一緒にトランプしよぜー」

 君軸はトランプ片手に拳墜を誘う。窓からヒュルルル、という風の音。カーテンの揺れ具合は何処か寒々しかった。

「お前 IQ.5」

「シンプルに傷つく」

「馬鹿」

「シンプルに悪口」

「……ばか」(迫真のメス声)

「それは役得」

 花子は苦笑してから、拳墜へ声を掛ける。

「まあコイツらは別に気にしてねーし様子だし、いんじゃね?」

「えぇ……」

「冬空先生、軽い……」「尚、被害状況は一生ものの傷ww」

 苦笑を浮かべつつも敵意は一切なく、そのまま立花を交えてトランプを配り始めた。

「んで、さっきの話……『今回の事件で分かったこと』の話に戻るか」

 花子は仕切りなおすように話を開始する。トランプをしゃっしゃっ、と各々に配る。かなり雑、吹っ飛んだトランプが君軸の頭に突き刺さる。

「まず、今回の事件で『秋津への偏見が凄まじく酷い』ということが分かった」

「うん、先生のトランプ配り技術が凄まじく酷いということも分かった」

 君軸の頭からピューという効果音と共に血が噴き出す。

「午前に起きた事件の本質は、色々ありますが一番大きい要素はそこで間違いないでしょう」

「現在進行形で事件が起こってるんだけど?」

 雲雀がセロハンテープを取り出し、君軸の傷口に張り付ける。

「今までは無視できるレベルと認識してたが……それも甘かった」

「ねえ雑くない? この応急処置、雑くない?」

 花子はオ〇ナインを君軸のセロハンテープに塗る。

「つーわけで秋津! お前に私から指令を下す」

「うん、軟膏塗るのも違うんだわ。なんなら皮膚に一切塗られてないんだわ」

 花子は立ち上がり宣言する。

「お前はイメージアップしろ!」

 イメージアップ。偏見による弊害が多いなら秋津雲雀という少年のイメージを上げることで相殺する。シンプルな結論だが、ゆえにこそ分かり易い対処法だ。

「イメージアップ……ま、俺も何か協力できることあったらするぜ」

「わ、私も……協力……したい、です……」

 続けて二人もそう告げる。

「抽象的すぎます。せめて、何か案はありませんか?」

「あー……長考します」(濁声)

 花子は軽く唸りながら、何か案を絞り始めてる。そしてピコンっ、という音と共に電球が出てきた。

「ちょうど電球切らしてたから助かります」

「よし、秋津!」

「はい」

「――――お前、女装s」

「帰ります、お疲れ様でした」


 ――……イメージアップ、か。うん、マリンちゃんに相談してみよう――

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