第6話、初日3
◆◇◆4月5日 午後 晴れ
窓から差し込む光が、僕の頬に触れる。
「ん、ぅ…ぁ……ふぇ……?」
「お、目が覚めたか」
冬空先生が隣にいた。周囲を二度三度見渡してようやくここが保健室だと気付く。
「状況を、教えて頂けますか」
「ん。お前が
「……ありがとう、ございます」
思い出した。そう、周囲の悪意を強く甘受し、そのまま意識を失ったのだ。
「…………」
上体をあげて窓を見る。雨が止み、光刺す光景は絵画の一シーンすら思わせる。
「……ふゆz」
きゅるるるるる。僕の下腹部から不思議な音が鳴った。
「…………」
「いえ……これは、違うんです。あの、アレです、今のはウンコ漏らした音です」
「数ある選択肢の中でも最悪の言い訳だな」
「おしっこ漏らした音との二択でした」
「あれ? コイツ学年一位とかうちの学校詰んでね?」
顔が羞恥のあまり暑くなる。
「うぅぅ……教室から、鞄とってきますっ」
「そか」
保健室から出る。冬空先生が付いてくる。
廊下を歩く。冬空先生が付いてくる。
教室に入る。冬空先生が付いてくる。
「…………」
思えば冬空先生が保健室にいたのは僕が倒れたからだった。
「腹減ったなら飯くってていいぞ」
「ありがとう、ございます」
冬空先生は机に座り、何かの仕事していた。
僕は鞄を開き、お弁当のタッパを取り出す。
「(……いただきます)」
「…………」
冬空先生がじっと僕を見てくる。正確には僕のお弁当へ視線が集中していた。
「……秋津、それが、弁当か……?」
「……? はい、そうです」
お弁当を一口食べる。しゃきしゃきして美味しい。
「その……モヤシ炒めだけ、なのか」
「……?」
僕は手に持ったタッパへ視線を落とす。そこには白いモヤシが並び、オリーブオイルのかほりを漂わせる――――僕のお弁当だ。
いや、言いたいことは分かる。しかし僕の財布は小学生の買い物で出たスーパーのレシート一枚未満の重みしかもたない選ばれた究極のカスなのだ。贅沢言っていられない。
「いえ、違います」
「そうか」
「モヤシ炒め~その辺で生えてたクローバーを添えて~ です」
「わあオシャンティー……って違う!! そうじゃない!!」
僕はクローバーのオヒタシ(オリーブオイル味)を箸で掴んで先生に見せた。
「名前をオシャンティーにしても大して変わらんからな!?」
「じゃあ明日はシロツメクサを添えます」
「そういう問題じゃねえ! つか名前変えただけだろ」
シロツメクサは食べれる野草図鑑に実際乗っている草だ。加えて生えている期間が非常に長く、僕としてはすぐに手に入ることに加え汎用性の高い料理素材だと重宝している。
「あー……秋津、今日の六時半ぐらい、時間あいてっか」
「……?」
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