第4話、初日1
◆◇◆
皆さんは残念系美少女、という言葉を知っているだろうか。
顔は良い、スタイルも良い、しかし言動で全てを損している美女を指す語だ。
「あー、じゃあ一限目は軽いレクで仲を深める授業になる」
そう、例えば私服がジャージだったり。
「次は移動教室だ、遅れんなよー」
髪型が後ろで軽くまとめたポニーテールだったり……
「ハイお疲れー。日直、あいさーつ。ふぁぁぁあ、ねみ」
すっぴんで学校に来てたり…………。
「先生すげー、初日で集めた注目を見事に消滅させてら」
「はいはい黙れ。放課後になったんだから部活動見学はよ行け」
「うぃー」
ガラガラ、という音が響く。花子が机を軽く片付けている際に一人の男が教室に入ってきたのだ。
「おお、菊地先生じゃん。どしたん」
「校長と呼べ」
三十代の男――――菊池正道はかつての教え子と対峙する。
正道は窓を開け、春風を取り込んだ。淵に手を置き、その風景を味わうように一呼吸。
「この景色は変わらんだろう」
「校長もかわんねーっすよ」
「お前が変わり過ぎなんだ」
花子はペンを片手で回し窓へ視線を向ける。彼女の瞳には宙を舞う一羽の鳥が映った。
「で、噂の拳墜ちゃんはどうなってんすか」
「母譲りの正義感に酔いながら主席は誰だと騒いでる」
「へー。そりゃ大変で」
「ああ全くだ」
花子はペンを回す動作を止める。カタっ、という音を置き去りにして机にペンを置いた。
「こーなんのは予想できたのに、なして秋津を首席合格のままにしたんすか? 拳墜ちゃんを名目上だけでも首席にすべきって他の先生が言ってなかったですか?」
空気が変質する。その場に明らかに異様なナニカが漂う。電灯、太陽、空気、その場に存在する物質全てを鋭利なナイフに変えたかのような恐怖が床を這う。まるで生き物とすら思える密度の感情が教室を氾濫する。
「――冬空、つまりこういう事か。
本来の首席合格を身内に人殺しがいるという
花子は綿棒で取れた耳糞を見て驚いている。
「じょーだん、じょーだんっすよ」
「……すまない。取り乱した」
「……いえ、相変わらずで安心しましたわ」
「当たり前だ。正道には正道を、礼儀には礼儀を以て対応するのが俺……私の生き方だ、曲げるつもりは無い」
正道は机にカフェオレの缶を置く。花子はカフェオレを握り、自嘲するように笑む。
「…………冬空。秋津から目を逸らすなよ」
「うぃーっす」
花子は名簿に目を通す。
――出席番号五番 秋津雲雀。
正道はブラックコーヒー缶を開け、花子はカフェオレを開けた。
「あっっっま」
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