第84話 未来なき世界。4/4
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だが、その悪辣な男を負の感情で眺めている者ばかりではなく、幾つもの暗躍者が
「がっはっは‼ 良いな、やはり面白い小僧だ。陰気者と話しても気が合う気はせんが、動きを見ている分には申し分も無い男よ」
背景は白いが影は無く、姿だけは明瞭に見えていて王座の如き荘厳な装飾の椅子に座る豪快な男は
「……相変わらず声が大きいわね。貴方の世界の
「ハッハッハ、そう言うなミリスよ。僅かな間でも久方ぶりに邪魔も入らず貴様と酒が飲めるとならば、神とて浮世に浮かれる事もあろう」
——神。彼らは己を神だと自負する。
何処までも白き眩い世界の中心で、互いに酒を飲みつつ見つめるモニターの向こうには星の形だろう宙に浮かぶ球体が存在し、完全なる傍観者としての佇まい。
「あら、お上手だこと。ラムレットも居たら、もっと声が大きくなっていたのではなくて」
「ふはは。幾ら
何やらと冗談を酒の
「ふふふ……そんな貴方の
だが、彼女らだけでは無い。ミリスと呼ばれた貴婦人風の神が、配下である銀髪の執事に合図を行い、ディファエルという酒瓶ごとラッパ飲みをする豪気な神へ——両手で持てる程に大きな赤い
「はは——む、どうやら噂をすれば早々に他の
ディファエルは意味深に顔を動かないままに視線を
しかし、それを踏まえつつ——暗躍とは如何なるものか。
「さて、別に順番など無いのだけれど先走った事をしているのはラムレットだけだったかしら。貴方の持ち込んだ酒の強さで忘れてしまったかもしれないわね」
音も無く傾けたワイングラスの中身で口を濡らすミリスは、己の執事から赤い
「ふん。それは他の者どもも同じであろう。ふはは、
公明正大に腹の探り合い、王座の真横にあった小さな足の長いテーブルにドスンと置かれる一升瓶。その後に大きな盃の中で並々と揺れる液体、そこに現れたる水鏡に映った己と共にディファエルは底にある己の策謀をも見据えて彼なりに意味深に声を
「そんな貴方が気を変えて、私の世界で何を企み、何を描いてくれるのか——わざわざ過去を
やがてディファエルの視線がゆるり——傍らの貴婦人に向かい、貴婦人の漂わせる言葉の威圧に彼は瞼を閉じて。
「かっはっは……
口角を持ち上げて噛み合う歯を剥き出しに、持っていた盃を再び豪快に傾けるディファエルである。横並びに座れども、暗躍の立場は様々——
「——あのような
「——ギリク」
二人の背後の空間が歪み始め、唐突に現れた腰の曲がる険しい顔で茶色のローブを纏う老人や、
「別に良くなーい? 僕は僕が楽しければ、他は好きにすれば良いと思うしさ」
「——スペヴィア」
後頭部に両手を回して楽々と軽快に足を振り上げて歩く様々な蛍光色の色合いの服を着た派手目な少年風の彼らもまた、それぞれの思惑と目的を持ち、この場へと足を踏み入れているのだろう。
「いらっしゃい二人とも。好きな場所に座って、好きに私の世界を見ても良いけれど——最初くらいはお喋りでもしましょうよ」
「飲み物のリクエストは何かある?」
対照的な二人の登壇に、銀髪の執事に指を鳴らして指示を送りながら椅子に座ったままのミリスは少し顔を振り返らせて、彼らを差異なく迎え入れる。
それに対し、
「ふん。俺は茶なら何でも良い。貴様らのような
「僕は自前でジュースと菓子を土産と一緒に持参してるから気遣いは無用だよー、ミリス」
新たに登場した二人の神々は、それぞれに手土産を掲げながら空間の中へと押し進み、
——ギリク、ミリス、ディファエル、スペヴィア。
「ありがとう。直ぐに席を用意するわね、やっぱり古参の神々は気遣いが行き届いてるわ——ラムレットなんか、手ぶらで来たのよ?」
並び揃う神々、そしてミリスが指を鳴らせば何も無かった空間に椅子とテーブルが砂を掻き集めたかの如く生まれ始め、神の座も並び始める。
その最中に老体を整えるギリクが、ミリスに言った。
「最古参でありながら何処にも属さず、何を考えておるか分からぬ貴様より可愛げがあろうよ、ミリス。まったく土産選びすら腰に来る」
「がっはっは、それを言うなら儂より若いくせに老人の真似事なぞしおるヌシの方が儂には分からんよ、ギリク」
「そこまで長い時を重ねて、老化の様式美が未だに分からぬ
されど豪気な声色で会話に割って入るディファエルに、老人ギリクは隣のミリス越しに彼を
如実に見て取れる思想の違い。
では、もう一人の新たな登場人物であるスペヴィアがどうかと言えば——
「ま——、老化はステータス
屈強な巨体のディファエルの影で、前方に映像が映し出されているモニター画面を眺めつつ我関せずと言った風体で自由奔放そうな声を上げていて。
それをキッカケに、神々の視線はモニター画面に映る一人の男へと向き始める。
「今回のSランクターゲット。でも——ぱっと見のステータス値は、一般的な人間と比べてAとかBくらいなんだねー、おもしろーい」
そして——、
「ふん。ステータスなどくだらぬ
「ギリク
老体の身で全方位に喧嘩を売るような嫌味たらしい口振りでギリクがスペヴィアの発言に噛みつき、場は一層とピリリと緊張を張り詰めさせたのだ。
「数値に基づき、揺るがない結果と合理化された効率の良い最適化された管理……ステータスを容易に人々が知る事で、身の
「数値は後付けの根拠、敗者の
「「……」」
特に左右それぞれの末席、神としての意見の衝突を再燃させた様子の二人の険悪は静やかに激しい際立ちを魅せていて。
それでも今は——モニターの向こう側、
「——どちらもあって
気分と空気を一変させるような盛大な音を響かせるディファエルの膝打ち。
何処にも振り返らずに真っ直ぐディファエルの視線が向かうモニターの向こう側、
「……ふふっ。さぁ用意は出来たわ。
全ての椅子が揃い、テーブルには
新たな神の誕生を待つ神々の
ディファエルは再び豪気に酒を赤い
「がっはっは。そうであるな、ミリスよ。さぁさぁ
「——ここから‼」
勢い良く掲げられた祝福の
「その中心に居る男こそ、貴様なのだろう——イミト・デュラニウス‼」
そんな折——白黒髪を頂く男は、ふと何かを察知した様子で天を
まるで、未来なき世界を——覚悟するように。
断頭台のデュラハン8~二人のエルフと絶望の正体~
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