第79話 告白。2/4
——意味深。直ぐに、そう言い放てる根拠を語らず含みを持たせた言い方でカトレアを見るイミトの視線に、カトレアの身体はビクリと無意識に硬直した。
『カトレア・バーニディッシュ? だが彼女は既に死んだ事になっているはず……』
『いや……そうか、マリルティアンジュ姫はカトレアの存命を知っていなさるのか。しかし、王家の姫の立場とはいえ、姫一人で王国議会を動かすのは
数日前まで、ツアレスト王国の姫君マリルティアンジュの守護する
されどもそれは当然、かつての話。
カトレアの名を用い、姫に協力を願う手紙を出し協力を得ようとも、この会合などとは及びもつかない規模で様々な思惑が織り成される巨大な国家の歯車を、姫一人の力と発言力だけでは
一瞬でも淡い期待を持ったローディアスが、直ぐ様に正気を取り戻すのに時間など不要であった。
だが——彼には、もしやと別の考えがあるのではないかともローディアスは考えを巡らせ続ける。
『まさか……婚約相手であるアルバランの王子の手を借りるなどとは言い出さないで欲しいが』
つい先日、ミュールズという街で隣国の王子とツアレストの姫が婚礼を交わす現場にローディアスも居たという。そしてイミトという謎の傭兵の姿もまた、そこにあったという事も知っている。
故にローディアスは、イミトに対し、懐疑的な声を漏らすのであった。
確かに魔王石の消失が外部に
例え、アルバランの王子を含め友好条約を結んだばかりのアルバランの国が協力をしたとて、
そのような事態、弱みに浸けこまれかねない判断を選択するなどは有り得ない話なのであろう。
しかし、だ。
まだ——足りない。ローディアスの思考は彼に
否、彼は先を行き過ぎ、見落として取り
「いえいえ。そんな
そう圧倒的に思わしめる程にそれを彼は拾い上げ、先走ったローディアスの指摘に微笑んだイミトは道の落とし物を気付かせる声掛けの如き勿体ぶった言葉を続け、息を吐くように肩を落として瞼を閉じゆく。
「行っておやりなさいな、ツアレストの騎士様。アンタの叔父様の目の前で、アンタを誇りに思いたくなるような人物の名前を」
そこまで聞けば、そのような態度を聞けば彼女は理解する。
もはや、観念する他は無いのだろうと。
「……本当に、貴殿に隠し事は出来ないな。細心に細心の注意を払っていたつもりでしたが。後学の為に聞かせて頂きたい」
そしてカトレアもまた、これまでの動揺を一転——溜息交じりの
すれば、込み上がる
「今アンタが付けてる仮面のデザインが
「中身は読めてないけど、まぁ大体の内容はミュールズの件で、ツアレストからの追っ手が本気で来なかった時点で大体の見当は付いてたけどな」
「アンタの荷物を密かに調べさせた時とか、他の連中の目撃情報によると姫様との思い出の紙が
「——私の荷物は服と鎧だけのはずなのですが何を調べたのやら……まったく」
——この
『……何の話をしている』
「——ローディアス殿下、ギルディア叔父様。確かに私は姫が為に、この身を魔に堕としました」
それでも己が双肩に掛かる物と緊急を要する事態に置いてカトレアは彼に食って掛かる事を諦め、ローディアスの問いを脇に起きながら背筋を伸ばし別人のような、或いは本来の彼女らしい強き覚悟を携えた
「『……』」
「しかし私の心は
「私にその命令を下したのは、王国
「『——⁉』」
語らうは真実、裏にあった思惑。
「城塞都市ミュールズの一件の後、姫から事の報告を受けた騎士団長もバディウス王子もレザリクス・バーティガルに疑いありと調査を進めています、
イミトらと旅を共にし、イミトが
己が仕えている主君が時の経過に何もせず、ただ御飾り人形姫の如く椅子に座っていただけの馬鹿だと
まさに、忠臣の眼差し。紛れもないツアレストの剣の
「こそこそと下手くそな密偵をしてたのがバレた事もキチンと報告しなよ、誠実な騎士様」
「っ。分かっております‼」
そしてその意気を茶化しながらも、悪魔も流れに乗じて光景の裏、或いは足下に安穏としない凶悪な
「加えて申し上げれば、マリルティアンジュ姫の婚約者であるアルバラン国の王子に協力も
「ただ、仰る通り……事の深刻さ
「ただ——これも脅しと受け取るならば、かなり大きな一手になるでしょうがね」
「『……』」
明瞭に別たれる光と影の対比。もはや反論の言葉は現れない・
『——分かった。改めて私は君の要求を飲むと誓おう、エルフ族の通商に関して君の持ってきた数字を聞かせてくれ。同席しているリエンシエール殿にも確認を取ってもらう』
「賢明な判断、痛み入ります」
『ギルディア。すまないが、君の
完全に戦意を喪失しつつ、ローディアスはそれでも自らが仕える国が為に、国家要人の一人としての
念の為の情報の裏取り、更に
「……分かりました。そのように」
「カトレアさん、腰の剣は執事さんに預けて行けよ。折角の再会には
イミトも、それを知りつつ黙認し、カトレアと彼女の叔父であるギルディア卿の再会に際して語りたい事もあるだろうと彼らの会話を促した。
「……私は嘘を
「嘘を
「どの口がほざきますか、それを」
やがてギルディア卿と共に空気を読んだカトレアの立ち上がった際に放たれたイミトへの嫌味が溢れ出る指摘に、こう彼は言葉を返すのだ。
「はは、いつだって嘘を
性根の悪い悪魔の口車に躍らされる奴が悪いのだと嗤いながら。
——。
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