第77話 ロナスの砦。1/4
夜の
「さぁて、腹も膨れてゴキゲンになった所で胃もたれしそうな政治のお勉強と行きますか」
案内役のレネスが片手にぶら下げる
「凄く美味しかったので御座いますよ、やはりワタクシサマはカボチャという黄色いお芋の天ぷらが好きだったのです」
「私はナス天か、あのエルフ豆と
「割と油を使うから、旅では
続々と魔法陣の外に歩み出し、語るは先程まで皆で
到底、ここからツアレスト王国の要人と密談を交わし、国の政治中枢に関わろうなどとは思えぬ雰囲気、佇まい。
「——……いつまで飯の話をしておる。少しは周囲の警戒をせぬか馬鹿者ども。近隣の森深くとはいえ、デュラハンの襲撃を受け、ロナス周辺の警備は高まっておるだろうからな、これから向かう
すれば
「……先に様子を見に向かわれたカトレア殿は戻ってきていない様子ですね」
案内役のレネスは自身が持つランタンの光を動かしつつ、周囲の様子を
されど——、
「もう来てる」
「え?」
間は抜けていても、気は抜けていない。周囲に他の者の気配が無いと断じたレネスの間違いを振り返らぬまま指摘し、覆面の魔女セティスは覆面ゆえの独特な呼吸音を
すると、
「——
森の
「そんな事は無い。キチンと魔力は隠せてたと思う、普通の魔力感知なら気付かないレベル」
「……」
そんなカトレアの登場に驚くレネスを尻目に、
「それで——結果は?」
そしてイミトもまた、淡々と話を進めるように会話に割って入り、先に森の先で様子を見てきたカトレアの報告を急かすのだ。
やはり夕食の話から一転、確かに気分は切り替わり——、
「第一の合図は確認しました。どうやら話し合いに応じてくれるようです」
「てなると……
「そこも問題なく。新人騎士の時に少しの間だけ身内びいきで配属していた事もあるくらいですから、デュエラ殿ほどの身体能力が無くとも潜入は可能です」
彼らは本格的に、世の影を密やかに這いずるような暗躍を始めているのである。
「じゃあ行くか。セティスとデュエラは、クレアと待機しててくれ……クレアも感覚共有を切っといてくれよ、万が一にも魔力で感知されたら面倒だからな」
「分かっておるわ……貴様こそ緊急時は連絡を
面倒げな息を吐きつつも淡々と事の示し合わせを重ね、
「ああ——、行ってくる。カトレアさん、案内ヨロシク」
「はい……急ぎましょう」
そうしている内、カトレアとイミトは残りの仲間を残し、森の中の闇へと溶けて行くように億す事もなく歩みを始め、
一瞬の間に、彼が遠くへと走り去った事をレネスは
そして——不意に喉から
「——……外の世界とは、やはり広い物……なのですね。彼の創る料理も、そうでしたが」
「……ふん。外の世界にでも
「——そういう時期も、あった事は否定できません」
短い付き合いとはいえ、彼女の過去の言動を振り返ればクレアの指摘——或いはイミトの推察は的を射たものなのであろう。
伝統と言えば聞こえの良い閉鎖的な森の一族であるエルフ族の中にあって、レネスは暗き
しかし、エルフ族が閉鎖的である事だけが彼女の表情を暗くしている訳ではない事も彼らは悟っているのである。
「奴は、こうも言っておった。貴様は外に憧れているのではなく、姉の居ない外の世界に逃げ出したいだけなのだと」
「……‼」
それは、それだけは気付かれぬとレネスは思っていた。
自身の胸の奥の奥に押し込む淀み穢れた感情——それは当事者である姉は愚か、他の一族にも
「リエンシエールの血族の中で、本来なら貴様の姉に
「……私が、姉を……リエンシエールと一族の皆を死地に送り出す為に裏切りを働いたと
夜風なき闇の暗幕、魔力を用いて輝くランタンの
イミトとカトレアが目的地に向かい、残された顔を隠す彼らの仲間の中にあってデュエラに抱えられる隙間から垣間見えるクレアの横顔をジッと見つめて。
しかし、クレアは告げるのだ。
「ふん、姉に似て勘が良いが間が抜けておるな」
「そのような気骨があれば、とうの昔に何処ぞへ逃げ出しておるのだろうとも言っておったよ。アヤツは」
「……」
事も興味なさげにイミトらが走っていった方向に目を向けたまま、レネスの
「ふふ、気持ち悪かろう? 全てを決め付け、見透かされておるような気がすれば尚の事」
「だが——協力的でも無いと言っておった。何か隠しておる事があれば、何も事が起こらぬ内に話しておく事だ」
それから沈黙を
「例えば——……敵方から誘いを受けた話などがあれば、な」
「「……」」
そうして、いつしかレネスに集まる圧力を感じる三つの視線。恐らく、この場——イミトが彼女ら三人を己の近くに残して去ったのは、この時——この瞬間の為だったのだろうとレネスは悟った。
「確かに……全てを見透かされているとは、気持ちの悪い事で御座います」
「——観念……すべきなのでしょうね。今ここに至り、姉を救う協力をして頂く為とは口が裂けても言えませんが」
「お話いたします……とはいえ私に話せるのは、闇の中で私に話を掛けた邪悪な声の事だけですが」
「手早くな……奴らが砦の中に入るその前に」
故に彼女は、自らの罪を断じる刃の如く丁寧に、瞼を閉じたのだ。
——。
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