第76話 イルミリュギィの里にて。1/4
そのエルフ族の秘境の正確な場所は誰にも語られない。
ツアレスト王国の一部族に数えられて
しかし、そのイルミリュギィの里と呼ばれる地にはエルフ族以外にも訪れた者たちが少なからず存在していて、その誰もが、彼の場所を美しい場所であったと語る。
常に心地の良い森の
夜になれば月明かりの薄紫のベールのような景色が幻想的に里の眠りを優しく包む。
樹木の
さて——、そんな誰にも語られぬはずのエルフ族の秘境に、何故にエルフ族以外の者が訪れた事があるのかと言えば、
「——転移の魔法は、マリルティアンジュ姫の
それは彼女達の秘術の一つでもある転移魔法を用いて、彼女らは客人を迎え入れ、そして彼女たちの領域である森への侵入者に対応しているからである。
「なんだか実感が湧かないので御座いますね。夢でも見ていたような気分なのです」
幹の洞、一族の集会所の一つであろうイルミリュギィの里の建物の中で
「……エルフ族が管理する森を介してのみの移動ですから、全ては先人たちの
「イミト様たちは先に着いているので御座いますよね? 何処に居られるので御座いますです?」
しかし、転移してきた建物の中には彼らは息遣いすら感じられず、薄幸の美女エルフが
すると、薄幸の美女エルフは——
「……あまり解放的な場所ではありませんので、恐らくは里の長老たちと
しかし、見ずとも分かる事もある。
「——いや、あの人の事です。おおかた、話し合いを早々に終わらせて武力を盾にして好き放題とエルフ族の食糧庫などを嬉々として
瞼を閉じて呆れの笑みを溢しながら、身に着けていた仮面を外すカトレアは男の
「ふふ、確かに——イミト様は新しい場所に行くと、食べ物の事を一番最初に考えるで御座いますからね……そう思えばワタクシサマ、今日の晩御飯が楽しみなのですよー」
デュエラも、そのカトレアの意見に同意を示しクスクスと笑い、次に楽しげな声色のまま腹部を両手で押さえて空腹な様子を表現した。
「……このような時に、そのような事……あの老たちが許すとは——」
それがエルフ族の内情を知り、先程までの騒乱の渦中にも居た薄幸の美女エルフには
けれども、真実は無情か。
『セティス、ついでに、そこに置いてある大根を持って来てくれー』
「「「……」」」
謹慎などを一切と己に課す事を鼻息で一蹴するが如く、大変にゴキゲン
「「やっぱり」」
「——……二人とも、もう直ぐゴハンできる。こっちに来て」
そして、その平常運転な声色に思わずと安堵と呆れの息を吐いたデュエラとカトレア、彼女らの近くにあった外に通じる扉が開かれ、静やかな顔色の覆面の魔女セティスが覆面を外した薄青の髪が首と共に
「……長老たちとの話し合いは?」
薄幸の美女エルフは驚いていた。多くのエルフ族と族長がツアレストという国に囚われたこのよう状況下で、そのような安穏とした状況で彼らが存在している事——
それを身柄を拘束された族長の代わりに、里を仕切っているエルフ族の長老たちが許している事が、あまりにも鮮烈で驚くべき事だったのだ。
その後の——覆面を外した魔女セティスが、まだ幼さを残しながらも過去の凄惨な出来事の傷跡残る無機質で機械的な表情から放たれた事実も同じく。
「クレア様とイミトが
「……」
そうして伝統や誇りを重んじ、時に排他的で排外的な
「セティス様、今日の晩御飯は何なので御座いますか? ワタクシサマ、とっても楽しみなのですよ」
「エルフ族の食材が手に入ったから、色々やるみたい。でも揚げ物中心」
「揚げ物で御座いますか⁉ ワタクシサマ、イミト様の唐揚げ大好きなのですよー」
「……期待は、しない方が良いかも」
「行きましょう、レネス殿。あの男と関わるのなら、そんな事で驚いていては身が持ちませんよ」
面前で平々と、我が家の玄関先で出会ったような会話をし始めるセティスとデュエラ。そして、あまりの驚きの連続で思考が上手く定まらぬ彼女を
薄幸の美女エルフ——レネスは、今は囚われの身である族長リエンシエールが里に招き入れたという者たちに初めての異様を感じて緊張の息を飲むのであった。
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