第71話 骨を砕きて肉さばく。3/5


から、お早めにお召し上がりくださいってな」


始めは——からの一撃であった。

言葉をつむぎながら、戦いの只中にあって瞼を深く閉じたイミトの姿に虚を突かれた直後、


『——‼』


壁から勢いよく黒い立方体の柱が突き出して飛び出し、イミトとザディウスの間をわかつように対角の壁に吸い込まれるように消えていく。


「お次はで御座います御客様」


突然の壁からの攻撃を回避する為に後方へ跳んだザディウスに、すかさずとイミトが言葉を投げ掛ければ、僅かに宙に浮いたザディウスを目掛けてイミトの言葉の通り、次は頭上からザディウスを潰すべく黒い柱が襲い掛かる。



一本目の柱が最中、代わるように降りてくる天井からの柱。


その勢いを跳ね返そうと骨剣の刃を頭上に放てど、僅かに押し返し落下の速度が遅延するのみ——ザディウスはたまらずに右へと跳んだ。



しかし——まるで、否——


、そして、また。ついでにだ」


右へ跳んで黒い柱の攻撃を躱したザディウスを片目を開けて見つめる左手を尚も地面に付けたままの沿うように、次々と室内全てを塗り替えた影から突き出て突き上がり、ザディウスの肢体に向けて襲い掛かり始める。



『くっ——⁉』


それらの矢継ぎ早な息を吐かせぬ連携攻撃を軽い足取りでかわしつつ、ザディウスは時に骨剣で弾き、時期をずらして防いでいく。何処から来るかも分からぬを敵に回したような怒涛どとうに、さしもの魔王もいささかの苦い顔。



「速さとパターンは覚えたか? もう少し行くぞ」


『ハハハ、中々に面白い余興ではないか‼ 人の子イミトよ‼』


それでも王の余裕は揺るがない、攻撃の合間に話を掛けてきたイミトに対し、背後からの攻撃を回転の動きを用いた踵蹴かかとげりで弾きながら笑い飛ばし、称賛を以って言葉で返す。


実際、彼はだ——余裕だったのだ。


『されど、このような児戯じぎ‼ 、全てを力で跳ねければ大した事ではない‼』


ふくれ上がる上腕二頭筋、そしてまぎれもない奥の手が背中の肩甲骨けんこうこつあたりから姿で突き抜けて——更にはおぎなうように魔王ザディウスのから金色のまなこが幾つも見開かれるのだから。



しかし——知っていた。否、考え終わっていた事だ。


「——想定より、三本ほど少ないな」


ゆえにイミトは酷く冷酷に——四方からの攻撃を勢いよくはじいたザディウスの動きを二つの目でとらえ、そよ風の如く細々と言葉を呟く。



『なに……ぐう——かはっ⁉』


それが耳に届いた時には、もう遅い。室内全体を傍観するイミトの姿にザディウスの複眼が彼の言葉に惹かれて瞳孔の向きを変えた瞬間、ゆっくりとが大きさを変えつつザディウスのほほを歪に押し込んでいくのだから。


——単体であれば何のことも無いは、その時——背景の黒い影や猛烈な勢いで突き出てくる柱の脇や裏に隠れ、唐突にザディウスの虚を突き、体勢を崩すに至る。



そこからは——


「デカい太い大きい、細い短い、丸に三角、四角に速くに遅くに、左や右へと入り乱れ、消えるか消えない、曲がる曲がらず、色味の濃いや薄いやどうなるか」


一度対応を誤れば、二度三度と連鎖してしまう止めどない柱の連撃。これまで対応できていたも、謎の黒い鉄球が突如として意識内に現れた事により、対応できずに為す術もなく受け続けるに至る。



だが——それでも魔王ザディウス。


『——……を用いたか⁉』


数発の連撃を受けた後に肩甲骨から伸びる骨の腕を左右一本ずつの状態に増やして、何とかと連鎖を治め、苦汁を飲んだかのような表情でイミトを睨みつける。


が最高難易度だ。せいぜい御自慢の腕を増やして丁寧に楽しんでくれや」



無論、イミトもまたそれで終わるとも思っていない。

続けられる戦いの言葉を漏らし、彼は瞼を深々と閉じて。


「【御品餓鬼フルコース‼】」


縦横斜め全方位——大小、軌道の変化——高低差、時間差。

一次元でも、二次元でも、三次元でもない——四次元の攻防。



再び始まる攻撃は——下か上か右か左か、一つか二つか、或いは複数同時か。


イミトの魔力によって震え上がる大氣——そのザディウスの情感とも思える心情描写を描くが如く、ザディウスは新たな骨の腕を脇腹の下から左右それぞれにを噴き出しながら生やし、六本腕の全てに骨の剣を生やし、


体中で既に見開かれている複眼の瞳で何一つと小細工を見落とさぬように周囲全方向に絶え間なく動かして警戒し始める。



そして——始まったのは室内の壁、四隅から柱が次々に突き出してくる動き。


左前の隅からは上から下へ、右後ろからは下から上へ。他二隅も似たように左右非対称の動きでザディウスなど意にも介さずに、互いに部屋の中心部で約束のように繋がろうかという動きで迫る。



だが——突然、イミトのかがむ前方からの柱の襲来。



『ふ……はっは、はははは、——実に‼』


左右両端の動きに気を取らせつつの真っ向からの面積ではなく速さを意識した細い一撃、それを咄嗟に首を軽く曲げる事で躱したザディウスはこらえ切れない笑い声を漏らす。


無論、四隅から迫る柱の襲来にも、細い一撃を機に上下左右前後斜めから不規則にザディウスを狙い始める矢継ぎ早で形も様々な奇襲攻撃にも、増やした六本腕と両足で対応しながらの事。



『速さや型などと言っておいて、その実は無し‼ しかも一度と動きを見誤れば、二度と三度と連鎖で交錯する柱や物体により、四肢を磨り潰され引き千切られ、貫かれるが必定——息もつかせぬ攻撃の連続、余であらねば、数手で詰んでおっただろう‼』



時に体をひねり、時に受け止め、弾き返し、怒涛の攻めを跳ね退けて、かつて世界を恐怖に陥れた暴力の王たる威厳を魅せしめるザディウス。



「ああ——アンタは凄いよ」


イミトもまた——そんな孤高な怪物に、敬意を以って寂しげな表情を向ける。



『されど、ここまで‼ ここに至りくせは見抜いた‼ そしてこの魔力、物量の操作——最後のあがき、たゆまぬ集中で動けないであろう術者の貴様を穿うがてば猛攻も止まるが道理‼』



——なんとであろうか、と。

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