第68話 リエンシエールの血族。4/5
されど、それを語る前に——語られる前に、語らねばならぬ事がある。
「エルフ族——いや、それよりもリエンシエールの血族って言うべきかね」
「イミト殿……周りを」
仙女の如く美しいエルフ族の女性の纏う
魔法で創られていたのだろう大樹の消えた結界内の世界では、数十人のエルフが上下左右と様々な場所からイミト達を囲うように弓の矢を引き、敵意を向ける。
「——分かってる。デュエラはクレアを俺に」
「動くな‼ 動けば撃つ‼」
その内の一人が、イミトの動かした掌に警告を放ち
「十……二十……しかもかなりの精鋭、昼に来た奴等とは魔力の質が違う」
「殺すに容易いが……」
被る覆面の独特な呼吸音を打ち鳴らすセティスが周囲の状況を端的に解説すれば、同じく状況を理解している鎧兜の裏でクレアが赤い双眸の光を
「——お久しぶりと言うべきでしょうか。クレア・デュラニウス……お互いに立場が随分と変わってしまったようですが」
そんな一触即発のような雰囲気の中、
「さっきの魔法にも見覚えがあると思うたらエルフ族のガキか。名は何と申したか」
「……今は当代のリエンシエールを名乗らせて頂いております、そのお飾りの頭は相変わらず人の名前を覚えられないようで御座いますね」
まるで久方ぶりに出会った知人に他人行儀で話し掛ける
何やらと因縁を匂わす言葉の端々にも、互いに対する知が
「いやいや、ちょっと待て知り合いかよ。聞いてないんだが」
そんな二人の醸す雰囲気や言動に、イミトが驚くのも無理はない事だった。
今ここに至るまで何度となくエルフ族の事や、この周辺の政治情勢や文化について
「聞かれておらんからな。その女が、まだ生きておったなども知らんし」
「……お前って奴は本当に——」
されどイミトの糾弾混じりの追及に淡々と悪びれる様子もなく答えるクレア。
イミトの不満は、それなりの物だったに違いない。
故に——、
「『動くな』と、言った‼」
「イミト殿‼」
「——……人が平和的に話し合いしようってのに、空気も読まずに不粋な事すんなよ」
緊張に汗を流し、イミトの僅かな動きに反応して魔法の込められているのだろう矢と感情を
それは、あまりにも容易く弾かれ、矢を弾いた腕に纏う黒い魔力の
「⁉ 魔法矢を弾い、ふぐっ——‼」
そして魔法矢とやらを弾かれた驚きも束の間、突然と黒い鉄球のようなものが矢を撃ったエルフ族の頬を捉えるのだ。
——なにが起きたかは、分からない。
「「「リコル‼ このっ——」」」
唐突に顔面を黒い物質に捉えられ、仰け反って吹き飛ぶ仲間の異変に、それを目撃していた周囲のエルフ族は条件反射さながらに、一斉に緊張を殊更に巡らして矢を構える。
それは、素知らぬ顔をしているイミト以外の他の面々もそうであった。
一触即発——こうして戦いの火蓋が切られるのか、その瞬間——誰もが思っていた。
——イミトと、もう一人を除けば、である。
「お辞めなさい‼ この方々を敵と断ずるは未だ尚早です‼」
「リエンシエール様⁉」
あわやの事態、それに際して最も早く動くはエルフ族の長の立場であろう仙女であった。血の気の多い同胞を声で諫め、高貴さを漂わせる絹織物の
その振る舞いに、動揺の走るエルフ族の一団。
「……クレア様。今、イミトは何をした」
「——……ただ小石を投げただけよ。忌々しい」
その隙を突き、セティスが近くに居たクレアに小声で尋ねれど、返る答えは
肝心のイミトはと言えば、自身がクレア
けれど早々——
「同胞が先走り、申し訳ないクレア・デュラニウス。そして、名も知らぬ魔人様一行、出来るならば、話し合いの席を設けて頂きたく思います」
痛みの走る頬を手で押さえながら仲間の手を借りて起き上がるリコルという名のエルフ族の様子を見終えてイミトの視線は、リエンシエールと名乗った仙女へと滑らかに移行した。
「——良いぜ。俺はルッキズムに溢れるレイシストだからな、性格の良さそうな顔してるアンタの誘いは歓迎さ。ただ——」
「そんなに時間も無いんじゃないか?」
そして浮かべる彼らしい悪辣な笑み。人を見下すような、全てを御見通しているような嘲笑な表情で彼は、リエンシエールの血族の長であるリエンシエールの提案を飲み込む。
「……
安穏としない憂いに満ちたリエンシエールは、そんな魔人に
「良いか? クレア、お茶の一杯くらい」
「ふん……好きにせよ」
***
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